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第41話 エスカレート

 ユーヤはというと。


「どけよ、ブタ!」


 依然、隼人に無体をしいていた。椅子を蹴飛ばす、怒鳴りつけるはもはや日常茶飯事だ。それどころか、エスカレートしている。

 ユーヤがこの調子では、たしかに仲直りは絶望的かもしれない。隼人は遠い目をした。

 今も、更衣室で着替え中に、ナチュラルに尻に蹴りをいれられた。周囲はもちろん、日常茶飯事なので、スルーである。無情。


「一ノ瀬くん、やめてよ」

「あぁ? っせーんだよ! チラチラしやがって!」


 にらんで襟を掴んでくる。ボタンがとれそうな勢いで引っ張られ、とりあえず隼人は同じ方向に揺れた。でないと破れる。ユーヤは隼人の髪を引っ掴む。


「痛っ!」

「いい加減、リュードーから離れろよなっ!」

「 一ノ瀬くんには関係ない!」

「あぁ!?」


 至近距離で凄まれる。ぎろりとむかれた目に、血管と涙が浮かんでいる。その形相を見ていると、隼人は違和感を覚えた。


「あの、一ノ瀬くん」

「あぁ!?」

「もしかして具合悪い? 保健室に行ったほうが……」


 その瞬間、ユーヤは両腕を振り上げて、隼人に殴りかかった!


「バカにすんなぁーっ!」


 隼人は思わず逃げた。トムとジェリーよろしく更衣室を逃げ回っていると、他の生徒たちに「っせーな」と舌打ちされた。

 ユーヤにもそれは届いたらしい。石になったように固まった。


「よそでやれよ」

「なあ」


 ユーヤは蒼白になり、目に涙を浮かべ、「うぅ、」と呻いた。思わずといったように、目をさまよわせる。


「いこ、フジタカ〜」


 マオがつとめて明るい声で、オージを促し更衣室を出ていった。ケンはちらりとこちらを見たが、オージは振り返らなかった。


「ううぅ……!」


 わなわなと身を震わせて、ユーヤは地団駄を踏んだ。他の生徒達も、ぞろぞろとでていく。


「あの」

「ううーっ!」


 ユーヤがぶん回した腕に、ちょうど顔を引ったたかれた。ユーヤは、涙を散らしながら、更衣室を出ていった。



「ほいじゃあ、二人一組でパス練しろー」


 川端先生のゆるいかけ声に、まばらに生徒たちがペアを作り出す。

 隼人はバレーボールを持ったまま、とりあえずきょろきょろと辺りを見回した。さーっとはけて、人っ子ひとりいない。まあ、いつものことだし気にすることはない。皆が組み終わるまで待とう。先生がいるから、一人になることもないし。

 ボールで遊んでいると、頭にボールを当てられた。


「邪魔だボッチ!」


 ユーヤだった。復活したらしい。隼人はそそくさと逃げるが、ボールを拾って今度は当て身をしてきた。


「リュードーにまとわりつけないもんなっ! 残念だったなっ」


 肘をぐりぐりとお腹に当ててくる。地味に痛かった。ユーヤは勝利を確信している、そんな様子で隼人をなぶったが、反面、ぎゅっとボールを抱え、ことさら大きな声を出した。誰かに聞いてほしいみたいに。


「フジタカ、組も〜」


 マオが、オージに声をかける。その様子を、ユーヤが表情を固くし、マオを、そしてオージをじっと睨んだ。



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