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命懸けの戦い4

「あれはさっきの水晶……?」


 石をぼんやりと眺めていて、ようやくそれがなんなのかわかった。

 不思議な光をリッカに与えた巨大な水晶のカケラが集まってきているのだ。


 サイクロプスは怒りの雄叫びを上げてグレイプニルを振り払おうとする。

 けれども食い込むほどに強く巻きついたグレイプニルは簡単には振り払えない。


「……ともかく助かったのか?」


 気づけばいくつもの石が飛んできていて、グレイプニルでサイクロプスを拘束している。


「あのデカい水晶がサイクロプスを止めていたのか?」


 ゲートに入る前、ゲートから出ようとするサイクロプスをグレイプニルのようなものが抑えていた。

 どこからグレイプニルが出てきたのかずっと謎だったが、水晶から出ていたのだ。


 ただしなんで水晶からグレイプニルが出ているのかは不明である。


「リッカと関わりがあるのか?」


 理由は分からないが多少の推測はできる。

 水晶から出てきた光がリッカに吸収された。


 するとリッカは半人化し、話せるようになった。

 キズクが出せるグレイプニルも二本に増えた。


 水晶がリッカの力と関わりがある。

 そう考えるとグレイプニルが水晶から出ていることも説明ができる。


「ともあれ、ああなれば動けないな」


 サイクロプスは全身を拘束され、ほとんど目しか出ていないような状態になってしまった。

 体の自由がきかなくて膝をつく。


 まだ戦意を失っていない血走った目がキズクのことを睨みつけている。

 吸い込まれてしまいそうな大きな瞳をキズクも見つめ返す。


「だから俺を狙ったのか?」


「むっ? どういうことだ?」


「グレイプニルで拘束されてたから俺のこと狙うのかなって思ったんだよ」


 どう見てもグレイプニルはサイクロプスにとって邪魔なものである。

 ゲート前でもグレイプニルで拘束されていたのだし、キズクというよりもグレイプニルそのものを敵対視していてもおかしくない。


 グレイプニルの気配を感じたからリッカを狙い、そしてグレイプニルを使ったからキズクにターゲットを移したのかもしれないと思ったのだ。


「まあ自分を拘束していたものを使うやつがいたら敵視するよな」


 今の状態を見ればグレイプニルを使うキズクを敵だと追いかけることも理解できる。


「……んん? これは…………」


 サイクロプスと見つめ合っていたキズクは胸に妙な感覚を覚えた。


「契約予兆……」


 モンスターとの契約において謎のところは多い。

 人に融和的なモンスターもいれば、相性の合う覚醒者に出会えば大人しくなるモンスターもいる。


 戦って力を認めるモンスターもいれば、卵から生まれてきて最初から契約しやすいなんてモンスターまでいるのだ。

 そして実際の契約も不思議なものである。


 多くの場合、互いの合意によって契約が成立する。

 目に見える形ではなく心で繋がるのだ。


 時に違う形はあるものの、言葉には表しにくい感じで契約はなされてしまう。

 キズクは今言い表しようもない感情を感じている。


 それはモンスターが心を開きかけている時に起こるもので、契約がなされるかもしれない契約予兆と呼ばれる胸のざわめきだった。


「すごいね。これ、君がやったの?」


 サイクロプスと契約できるかもしれない。

 そう思った瞬間だった。


「だ、誰だ!?」


 キズクの顔の横に誰かが顔を出してきた。

 耳の横で声がするまでキズクは後ろにいる存在に気づかなかった。


 それどころかリッカとノアすらもキズクと同じく驚いている。


「あれが君がやったの?」


 不思議な出立ちの人だとキズクは思った。

 透き通るような白い肌に真っ白な髪は腰まで伸びている。


 吸い込まれるような黒い瞳を持つ整った顔をした男の人だった。

 声が低くなかったら女性だと見間違ったことだろう。


「いや……俺じゃない」


「本当に?」


 不思議な白い髪の男はニコニコと笑ってキズクに近寄る。


「君と似たような力を感じる。……君のそのモンスター……かな?」


 サイクロプスを拘束している力はおそらくグレイプニルである。

 ならばキズクやリッカから近い力を感じてもおかしくはない。


 ただ似ているなんて力を感じられる人が世の中にどれだけいるだろうか。

 力を感じられても、それがキズクやリッカと似ているとまで感じられる人はほとんどいないだろう。


「まあでも……」


「えっ?」


「君じゃないというならいいか」


 突然キズクは殴られた。

 全く予兆もなく、しかもキズクが反応できないほどに速かった。


 気づいたら世界がグルグルと回っていて、木に体を叩きつけられてようやく止まる。


「この程度も反応できないのか。君は僕の世界にふさわしくない……」


 人を殴り飛ばしておいて、不思議な白い髪の男はただ冷たくキズクのことをチラリと見ただけだった。


「キズク!」


「ご主人様!」


 ノアとリッカがキズクのところに駆けつける。


「ふん……」


 不思議な白い髪の男は興味なさげにキズクから視線を外すと、サイクロプスのことを見上げる。


「……これでいいのか? あんまり美味そうな見た目はしていないが……まあ味なんて感じないからいいか」


 不思議な白い髪の男がサイクロプスに向かって手を伸ばす。

 すると不思議な白い髪の男の右手から黒いモヤのようなものが発せられた。

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