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【ホラー小説】怨念
【ホラー小説】怨念
遠藤良二
ホラー怪談
2025年03月11日
公開日
3,908字
完結済
 ある日、君は死んだ。  原因は俺の憶測になるが彼氏にフラれたから。自殺というやつ。それも首吊り。穴という穴から体液が出ていた。  第一発見者は多分俺だと思う。だから、現場は見ている。物置きの中。正直、気持ち悪かった。でも、ここまでやるということは、彼氏に相当強い思い入れがあったんだろう。

【ホラー小説】怨念

 ある日、君は死んだ。


 原因は俺の憶測になるが彼氏にフラれたから。自殺というやつ。それも首吊り。穴という穴から体液が出ていた。


 第一発見者は多分俺だと思う。だから、現場は見ている。物置きの中。正直、気持ち悪かった。でも、ここまでやるということは、彼氏に相当強い思い入れがあったんだろう。


 俺は警察に通報する前にこの子の両親に連絡した。なぜ、この子の両親を知っているかというと、俺の元カノだから。俺はこの子にフラれた。でも、俺も気持ちが冷めてきていたからちょうどいいと思った。


 なぜ、この子のアパートに来たかと言うと、交際している時の忘れ物を取りにきたのだ。部屋は鍵がかかっていたのでもしかしたら忘れ物は物置きにあるかもしれないと思い見てみた。


 この子の母はすぐにアパートに来た。そして現場を見るなり驚愕していた。そして、愕然としていた。俺がここに来た理由も話したし、物置きを見た理由も話した。この子の母は号泣しながら頷いていた。そして、

「理沙ー! なんでこんなことを……!」

 僕はこの子の母に声を掛けた。

「おばさん、ここでは人目があるので彼女の部屋の中に行きましょう。警察には僕の方から連絡しておきますから」

 涙と鼻水でおばさんの顔はぐちゃぐちゃになっていた。


 警察官はすぐに二人やって来た。僕が物置きを開けると警察官は顔をしかめた。警察官二人でロープで吊るされている理沙を降ろした。首が伸びていた。


 こういう光景は何度見ても慣れないものだ。僕と付き合っていたころは元気溌剌はつらつとしていて活き活きしていたのに。今では見る影もない。


 それにしてもいつこんなことをしたのだろう。まるで腐った死体のようだ。異臭がする。今は夏だから腐食するのも早い。


 警察官が話しかけてきた。

「ご遺体の検視や司法解剖を行うことになるので、遺体が戻るのに何週間もの時間がかかる場合には、遺体がない状態で「仮葬儀」を行い、遺体が戻ってから改めて「本葬儀」を行うというケースもあります。とりあえず遺体はこちらの方で引き取りますね。あと、あなたが最初に発見したんですか?」

「だと思います」

「それなら、お話を聞かせて下さい」

「わかりました」


 俺はこういう経緯で警察署に向かうことになった。まさか俺、疑われているのか? 例えば俺が彼女を殺して首吊り自殺にみせかけたとか。もしそういう話しになったら完全に否定するつもり。実際、俺には関係ない話しだし。別れた女だから。


 死体というのは既に生きていないので、物と化している。そう理沙は既に物なのだ。


 生き物はいずれ死ぬ。もちろん、人間も同じだ。こんなことは言われなくても誰しもが知っているはず。


 数日経過して検視や司法解剖の結果、やはり自殺だということが判明した。さきほど、警察の方から連絡がきた。遺体となった彼女の母は憔悴しきっているので俺の方に連絡をもらうように警察には言ってあった。


 仮葬儀は終わっているので、次は遺体が戻ってくるので、本葬儀を行う。葬儀の段取りはすべて葬儀屋に任せてある。だから、心配するのは葬儀代だけ。安く済ませて欲しいと言ってある。さすがに葬儀代までは俺が出すわけにいかないので、理沙の親が出す。彼女の父にはお礼を言われた。

「いろいろと手伝ってくれて悪かったな」と。

俺は、

「いえ、これくらいのことはしますよ。付き合っていた経緯もあるので」

 そう言った。理沙の父は、娘を振った彼氏が憎い、どれだけの思いでいたかも知らずに、できることなら八つ裂きにしてやりたい、とぼやいていた。


 本葬儀を終え、俺の役目は終わったかと思われた。理沙の父が彼女の元カレをスマホから男性の名前を見つけて元カレを探し出した。そして、実際に会い話し合ったらしい。話を聞いてみると父は、

「貴様のせいで俺の娘は……理沙は死んだんだぞ! どうしてくれる!?」

 と因縁をつけたらしい。すると元カレは、

「そんなのアイツが勝手にしたことだ、おれには関係ない」

 そう言ったらしい。そこで理沙の父は頭にきて、あらかじめ用意してあったナイフで元カレを刺殺したという。我に帰った理沙の父は元カレの遺体を山に行って車に積んであったスコップで穴を掘り埋めて来た、という。立派な殺人だ。娘を失って我慢ならなかったのだろう、そうしたい気持ちはわかるが行動に移してはだめだ、犯罪者になってしまう。これから理沙の父はどうするつもりなのだろう。これ以上のことはしてやれない。


 理沙の父は俺に電話で、

『黙っていてくれよ、決して口外しないでくれ』

「それはしませんけど、バレたらやばいっスよ」

『殺したのは廃墟になった建物の中だし埋めたのは山奥だから、君さえ黙っていてくれればバレないはずだ』

 俺は返す言葉が見付からなかった。本当に大丈夫かなぁ……。少し心配になった。


 今は夏だから腐敗が進むのは早いだろう。白骨化するのも早いはず。理沙の父は夢でうなされたりしていないのだろうか。


 理沙の親友の坂木可津美さかきかつみは理沙が俺と付き合っている時に紹介してくれた子。理沙の死をどこで知ったのだろう。新聞のおくやみ欄だろうか。それとも、理沙の可津美じゃない友達から聞いたのか。可津美は理沙と同級生。理沙は親友にも相談しなかったようだ。


 きっと理沙は元カレにフラれてこれからどう生きていけばいいかわからなくなったのかもしれない。俺も同じ経験をしているから気持ちはわかる。ただ、俺は自殺をするまでの理沙への強い思い入れはなかった。だから自殺をしようと思わなかったのかもしれない。


 考えようによっては理沙は可哀想な子かもしれない。自殺に至るまでの強い思いを裏切られ元カレにフラれた。彼女は別れたくないと言わなかったのだろうか。言っても無駄だったのか。その辺はわからない。


 今日の夜。俺は独り暮らしだから周りに誰もいない。なのに理沙の声が聞こえた。

「アイツヲコロシテ」

 幻聴というやつかな。でも、嫌な幻聴だな。それでも俺は冷静だった。翌日も聞こえてきた。

「アイツヲヒドイメニアワセテ」

 一体なんなんだ。理沙の怨念が俺に言っているのか。それとも俺の頭がおかしくなったのか。毎日のように最低でも一日一回は理沙の声で元カレに対する恨み、つらみがこの世に残っているから聞こえてくるのかもしれない。


 もともと俺は霊の存在など信じていなかった。でも、こうまで毎日聞こえたんじゃ信じるしかない。理沙の魂が成仏できずにこの世にいるのかもしれない。


 俺の考え方は徐々に変わっていった。今では理沙のように霊の存在を信じるようになってきた。もしかしたら俺は霊が怖いから頑なに否定していたのかもしれない。


 正直、理沙の幻聴が聞こえるのは迷惑。何で元カノを呪い殺すまで追い詰めないんだろう。何で俺なんだ。


 生前、理沙は俺のことを優しい人だね、と言っていた。優しいから俺のところへ理沙の魂が近づいてくるのか。はっきりしたことはわからないが。


 可津美とはLINEを交換してある。だからいつでも連絡は取れたはず。だけど、彼女は連絡してこなかった。俺が理沙の元カレだからか。ようやくLINEを寄越したと思えばそんな話だ。でも、可津美の話したいことは聞いてやらないといけない。でも、なぜ俺なんだ。もっと他に友達がいるだろうに。俺が元カレだから? それしか考えつかない。


 ある夜、俺は土砂降りの国道を走っていた。その時、助手席に青いワンピースを着た女性が乗っているように見えた。気のせいだろうか。でも、理沙はよく青いワンピースを着ていた。やはりその女性は理沙なのか。俺は恐ろしくなって可津美にLINEをした。

<今日だけでいいから一緒にいてくれないか?>

という質問。

<いいけど、下心はないですよね?>

<もちろん! そんな気分じゃないよ>

<わかりました。私の住んでるとこ知らないですよね? 待ち合わせしますか。海岸沿いにある五階建ての公営住宅に住んでいます。なので、その建物の近くの海で待ち合わせはどうですか?>

<そうだね、よろしく頼むね>


 俺は約束した海に到着し待っていた。すると青いTシャツに青いホットパンツ姿で姿を現した。なぜ、青なんだ。理沙の霊も青だった。何か繋がりがあるのだろうか。俺は可津美に手を振った。それに気付いた彼女も手を振り返してくれた。少しホッとした。


 可津美は運転席の窓に近付いて来た。

「こんばんは」

 と言うので運転席の窓を開けた。

「こんばんは。来てくれてありがとう」

 可津美は不思議そうな顔で俺を見ている。

「何かあったんですか?」

「ん……。そのことなんだけど、自殺した元カノの霊のことを考えると怖くなっちゃって……。だから、今夜一緒にいてくれるからありがたいよ」

 俺の話しを聞いてか可津美の表情は強張っている。

「もしかして、元カノの霊に憑りつかれてるの?」

「……それはわからない。俺の次に付き合った男にフラれたショックで自殺したみたいだから俺は関係ないんだけどね。まあ、とりあえず車に乗って」

 そう言うと可津美は表情を変えずに後部座席に乗った。助手席に乗らないんだな、と思ったが言わなかった。


 発車して暫くお互い何も会話はなかった。そして喋りだしたのは坂木可津美だった。

「気持ちが落ち着くまで私のアパートにいればいいのに。その代わり家のことはしてもらうよ。それでもよければいいよ」

「それはありがたい! 実は俺、一日だけじゃ気持ちが落ち着かないだろうと思っていたのさ。可津美の部屋のことは大丈夫だよ。俺も一人暮らしで部屋のメンテナンスは経験済みだから」

「そう。なら、よろしくね」

「こちらこそよろしく」


 こうして俺は気持ちが落ち着くまで可津美の部屋にいることにした。優しいというか、いい人というか。とにかくありがたい。


                                                                                                             了

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