千隼の気遣いにより、近くのカフェに移動した柚羽は、少しずつ顔色が良くなってきた。心の緊張が和らいでいくのを感じると、周りの温かな雰囲気が心地よく思える。
「ごめんね、食事途中で……」
柚羽は自分の気分のせいで、千隼に余計な手間をかけてしまったことが申し訳なく思えた。
「気にしないでください。食べ物を無駄にしちゃったのが申し訳ないだけで、他は何も気にすることなんかないですよ」
千隼は優しく微笑みながら、柚羽にメニューを差し出す。
千隼の何気ない笑顔を見たら、柚羽はほっとした気持ちになった。
メニューを見ると、様々なスイーツが並んでいて、どれも魅力的に映った。柚羽はメニューを見ているうちに少しずつ気持ちが落ち着いてきて、甘いものが食べたくなる。しかし、心の中の不安はまだ微かに残っている。
(千隼がこんなに優しくしてくれるのに、どうして私はこんなに重たい気持ちを抱えているのだろう?)
その疑問が頭をよぎる中、千隼が「どれにしますか?」と尋ねてきた。彼の問いかけに、柚羽は自然と笑顔を浮かべようとしたが、まだ少しぎこちなくなってしまう。
「うーん……このレモンタルトかメロンのショートが美味しそうかな」と、何とか答える。
「三塚さんに食欲が戻りそうでよかったです」
千隼の反応は明るく、柚羽の心に少しずつ温かさを届けてくれる。彼の言葉で、少しずつ自分の気持ちが軽くなっていくのを感じた。
千隼は柚羽と自分のオーダーをまとめてから、カフェスタッフを呼んでくれた。
「レモンタルト、メロンのショート、それから……フルーツパフェもください」
千隼は柚羽がお願いしていなかった、スイーツもオーダーした。
「え? 私はメロンショートだけのはず……」
「残したら、俺が食べますから。甘い物は苦手ですが、美味しそうだからいただきますよ」
柚羽はそれを聞いて、微笑む。
注文を終えると、柚羽は少しずつ話を始めた。
「実は……さっき後ろに座っていた人たちは、元カレとその彼女みたいなの」
言葉を絞り出すようにして、柚羽は続けた。
「元カレとはついこないだまで付き合っていたの。彼女は妊娠してるみたいだけど……あのお腹の大きさだと、もしかしたら、もう産まれるのかもしれない。だとしたら、私は二股されてたんだよね? 同棲までしたのに……」
その言葉が漏れ出ると、柚羽の心の内が次第に表に出てきた。彼女の頬を涙がポロッと伝い、静かなカフェの中でその悲しみが広がっていく。つらい過去が一気に押し寄せてくるように感じ、柚羽はどうしようもない気持ちに襲われていた。
「三塚さん……」と、千隼は思わず彼女の名前を呼んだが、言葉が詰まり、何も続けることができなかった。
少しの沈黙が流れ、柚羽は自分の涙を拭いながら、再び口を開く。
「私、あの時は本当に幸せだと思っていたのに、まさかこんなことになるなんて……」
千隼は真剣な表情で彼女の目を見つめた。
「それは本当につらいことですよね。でも、今はもう前を向いていくべきだと思います。三塚さんは、もっと幸せになる権利があるんですから」
柚羽はその言葉に少し驚き、心の奥が温かくなった。千隼の優しさが、ほんの少しでも彼女の心の痛みを和らげてくれるように感じる。
「でも、どうやって前に進めるのか、まだわからない……」
柚羽は弱々しく呟いた。
「少しずつでいいんですよ。周りの人に頼ったり、話したりすることで、きっと道が見えてくるはずです」
千隼は、柚羽のその言葉を受け止め、寄り添うように答えた。
カフェの穏やかな雰囲気の中、二人は少しずつ心の距離を縮めていく。柚羽は、千隼の支えが新しい一歩を踏み出す力になるかもしれないと思う。柚羽の心の中には、小さな光が差し込み始めた。
「お待たせいたしました」
会話の途中で、カフェスタッフが現れた。
テーブルには、甘い香りが漂い始め、柚羽はその瞬間、少しだけ自分の心が解放されるのを感じた。食べることの楽しさが、少しずつ戻ってきている。
「いただきます」と言って、楽しむ準備を整えた。
千隼の気遣いにより、近くのカフェに移動した柚羽は、少しずつ顔色が良くなってきた。心の緊張が和らいでいくのを感じると、周りの温かな雰囲気が心地よく思える。
「たくさん美味しいデザートを食べて、忘れましょう。今日だけは食事をとらずにデザートを食べてもいいと思います」
千隼が、必死で元気づけようとしていたことを柚羽は気付いた。
「……うん」
柚羽は小さく頷くと、心の中で少しだけ希望が芽生えるのを感じる。
甘いものが好きな柚羽にとって、デザートは特別な癒しだ。それが今、どれだけ心の慰めになるのか、想像するだけで少し笑顔がこぼれそうになる。