目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第8話 父親の使命

 巨大ポコが東京に現れてから数年後──。


「パパ、助けてー!」


 研究所の通信機に届いたのは、幼い少女が助けを呼ぶ声だった。


 タケルの胸が締めつけられる。その声の主は、彼の一人娘 、サヤ・サカモトだ。


 研究所のモニターには、暗い研究施設の冷たく光るカプセルの中に囚われたサヤの姿が映し出されていた。


 その傍にいるのは、禍々しい笑みを浮かべた一人の男──Dr.ノートン。


「フハハハハ……貴様のDNAを受け継ぐこの子を使い、私は究極の生命体を生み出すのだ!」


 ノートンが高笑いをする。


 背後には、Ω-REXの残骸がたくさん転がっていた。


 タケルは唇を噛み締める。


(サヤを……助けなければ……!)


 だが、今の彼はただの人間だ。人間の姿では、とても奴に勝ち目がない。


 ──と、その時。


「タケル……君が本当に望むなら、もう一度……」


 胸のペンダントの中の金属片が、かすかに光った。それは、ポコの魂が宿った彼の形見だった。


 タケルはペンダントを握りしめ、静かに目を閉じる。


「頼む、ポコ……もう一度、俺に力を貸してくれ!」


 眩い光に包まれ、タケルの体が変化していく。体が縮み、かつての姿が蘇る。


「最強ハムスター、参上!!!」


 小さな体から湧き出る無限のパワーを感じながら、タケルは疾風のように駆け出した。娘を救うために。


 タケルの脳裏に、もうすぐ小2になる娘との思い出が走馬灯のように蘇る。


 初めてのキャラ弁を作ってあげたこと。そして、娘と一緒にミニブタカフェに行ったこと。


 しかし、昨日、娘とは方向性の違いで衝突していた。


「こんな最悪の別れになってたまるか!」


 そう思いながら焦燥感に駆られ急いだ。


 研究施設の壁を、最強ハムスターとなったタケルが蹴り破る。


「Dr.ノートン!! サヤを返せ!!」


 ノートンが驚きの表情を見せたのも束の間、彼は不敵な笑みを浮かべた。


「ククク……やはり来たか、最強のハムスターよ!」


 ノートンが手をかざすと、無数の機械生命体がタケルを取り囲んだ。


「お前はすでに過去の遺物! 地球最強の座はこの私が引き継ぐのだ!!」


「そんなこと、させるかよ!!」


 タケルは超スピードで駆け回り、機械生命体を次々に破壊していく。小さな体から放たれる強烈な拳が、鋼鉄の装甲を砕いていく。


 バキィンッ!


「な、なんだと……!? 」


 ノートンの顔色が変わる。


「どうやら、この前巨大化した時にパワーもアップグレードされたようだぜ!!」


「そ、そんな馬鹿な!!」


 そのままタケルはカプセルに向かって跳び膝蹴りをくらわし、


 ガシャンッ!!


 カプセルを破壊してサヤを咥えて着地した。


「パパ……なの?」


「そうだ、大丈夫か、サヤ!」


「うん……!」


 タケルはすぐさま脱出を試みる。


 だが──


「逃がすかァァァ!!!」


 ノートンが最後の自爆スイッチを作動させた。研究施設全体が崩壊し始める。


「パパ!」


「サヤ、大丈夫だ!」


 タケルは最後の力を振り絞り、瓦礫の中を駆け抜けた。


 そして──


 ドォォォォン!!!


 爆発と同時に間一髪で脱出に成功した。


 夜空の下、タケルは人間の姿に戻っていた。サヤは彼の腕の中で疲れて眠っていたが、目を覚ました。」


「なんでパパはハムスターなの?あと、なんでそんなに強いの?」


「なんでって言われても、話せば長くなるんだ。丸一日はかかるよ。」



「なら聞かないわ。ただ、投資にリスクはつきもので、『確実に儲かる』や『元本保証』といった甘い言葉は詐欺の常套句なので、気をつけて。絶対にすぐに判断しないことね。詐欺師は、『今しかチャンスがない』『すぐに決めないと損する』と急かすわ。まともな投資ならじっくり検討する時間があるのが普通よ。急かされたら、すぐに『怪しい』と思うことが大事なの。また、"高配当"には要注意よ。通常の投資で年利5~10%でも高配当とされるのに、『年利20%以上』などの異常な利回りをうたうものは詐欺の可能性が高いわ。初めに利益を出して信用させ、あとで飛ぶ『ポンジ・スキーム』も多いので注意して。要するに、『美味しい話には裏がある。』ということね。」


「分かったよ。もう二度と詐欺に引っ掛かかったりするもんか。」


 それに呼応するように、彼のペンダントが、かすかに輝く。


(ありがとう、ポコ。お前のおかげで、俺は父親としての使命を果たし、サヤと無事に和解できたよ。)


 タケルは空を見上げ、静かに微笑んだ。


 ──最強のハムスターとその相棒の伝説は、これからも続いていく。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?