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魔人血戦⑦

 ドン!


 カリオ、ユデン、タヨコはそれぞれ三方向から、各々《おのおの》の得物えものを振りかぶって、赤い機体に突っ込む。赤い機体は真上にジャンプし、三人の斬撃は空を切った。


 ギャオン! ギャオン! ギャオン! ギャオン!


 赤い機体は真下の三人に向けて、両手のライフルを発射、オレンジ色のビームが降り注ぐ! 三人はギリギリのところで後ろに跳び、なんとか回避する。ビームはかすってもいないが、伝わってくる熱でコックピットのカリオの肌がひりつく。


(並みの威力いりょくじゃねえぞこのオレンジの!)


 ビームが地面に着弾し、激しい土埃つちぼこりを上げる。ユデン、タヨコはそれぞれピストルと尻尾を構え、すかさず空中の敵機を狙って射撃する!


 ドシュッドシュッドシュッドシュッ!

 キュンキュンキュン!


 赤い機体は猛スピードで急降下してこれをかわし、勢いそのままカリオに斬りかかる!


 ビギィイン!


「ぐぉあ!?」


 カリオは上からの斬撃をビームソードで受け止める。ぼこり、と音を立ててカリオのクロジの足が地面にめり込む。 圧倒的なパワーにたまらず、カリオは体をひねって相手の剣をさばき、よろけながら後退した。


(サムライ兄ちゃん、さっき斬られかけた時よりかは対応できるようになったか。にしてもあのスピードとパワー……ひょっとしてビッグスーツとは違う兵器か?)


 ユデンは再びピストルを連射する。赤い機体はピストルのビームがそこを通るより先に、一瞬でタヨコの目の前に急接近する。


「チッ!」


 タヨコは舌打ちしながら大鎌を横にぐ。赤い機体がそれを身を低くして避けると、続けざまに尻尾の刃で刺突しとつしにかかる!


 だが、赤い機体は頭部に向かって来たそれを横に避けつつ、左手の武器を腰にマウントすると、その手でゼルディの尻尾を掴み、思いっきり引っ張ってゼルディを投げ飛ばす。


「きゃっ!?」

「うぉ!?」


 ユデンのハオクの方へ投げられたゼルディが飛んでくる。ユデンは思わずそれを両腕でキャッチすると、仰向あおむけに倒れた。




 赤い機体はカリオの方へ向き直り、再度突撃してくる。


 カリオは腰の充填じゅうてん部にビームソードを納刀し、軽くひざを曲げて、静かに息を吸う。


 赤い機体は左の武器を再度手にし、左右両側から斬りかかって来る。


(……ここだ!)




 フォン!




 青いX字の光の線が、空中に浮かび上がる。


 ――ウキヨエ流居合術・一瞬二斬バッテン!




 ビギギィン!




 独特の衝突音。


(……クソッたれが!)


 カリオは顔をしかめた。ビームソードが複合武器の刃にはばまれ、止まる。二つの神速の斬撃を、赤い機体は易々《やすやす》と防御してみせた。




(あの鎌女達と共闘だなんてややこしいっ……!)


 カリオ達三人が奮戦ふんせんする場所から数百メートル離れた位置で、リンコは破損したビームピストルを腰にマウントして、ビームスナイパーライフルを構える。狙うは赤い機体。今生き延びている治安部隊は、次元の違う戦いを前にして動けずにいる。


(距離は中途半端、経験したことのない速さの敵……でも)


 赤い機体がカリオの斬撃を防御した瞬間、リンコは赤い機体の後頭部に恐るべき速さで照準を合わせる。


(どんなに速くても止まる一瞬はある、そしてラッキーなことに後ろガラ空き!)


 リンコはトリガーを引く。狙いもタイミングも完璧。必中の確信。




 ガァン!




(……え?)


 リンコはスコープしに見えた光景に目をうたがう。後頭部の中心に向けて撃たれたビームを、赤い機体は首を傾けて


(……いや、まさかそんな……)


「こいつ!」

「うらあ!」


 赤い機体がカリオのクロジを蹴飛ばすと、今度はユデンとタヨコが赤い機体に斬りかかる。三機の振るう刃が宙にいくつも軌跡きせきを描き、風切り音がそれにおくれて周囲にひびく。


 激しい斬り合いの中で、またほんの一瞬、赤い機体は斬撃をユデンに防御されて動きが止まる。


 その刹那せつなに、再びリンコは赤い機体の頭部にしっかりと照準を合わせる。さっきのように真後ろとはいかないが、それでも角度のはずだ。




 ガァン!




 ――赤い機体は、再び頭を動かしてビームを避けた。


(冗談でしょ!? 後方からの……の!?)




 ユデンに攻撃を止められた赤い機体を狙い、その横からタヨコが大鎌を振りかぶり、突撃する。


 ――が、赤い機体はユデンに斬りつけた方の反対側の手の銃で、、タヨコを狙って撃つ。


「!!」


 すさまじい速度で向かってくるオレンジのビームを、タヨコは体をねじり、避けようとする。高出力で放たれたビームがゼルディの右肩を掠め、焼いていく。コックピットのタヨコは、火傷やけどで赤くなった右肩の痛みに苦悶くもんする。


「タヨコッ!」


 ユデンはけ反りながらも赤い機体の剣をなんとか捌き、ジグザグにバックステップして距離を取り、構え直す。




「よし、射程に入った」


 シュンシュンシュンシュンシュン!


 赤い機体の頭上をを羽状とくさび状の兵器が飛び回り包囲する。フリクの浮遊短剣とニッケルのチョークだ!


 シュンシュンシュン!

 バシュゥ! バシュゥ! バシュゥ! バシュゥ!


 赤い機体は上空に飛び上がる。複雑な軌道を取りながら、浮遊兵器が連続で繰り出す刺突と射撃を、猛スピードで飛び回りながら回避していく。 


 ガガガガガガ!

 バシュゥ! バシュゥ! バシュゥ! バシュゥ!

 バシュシュシュシュシュッ!


 さらに空中のフリクからマイクロミサイル、地上からチネツのガトリングガンとニッケルのビームライフルの射撃が赤い機体に向けて放たれる!


「……当たらんな」

「速すぎんだろ!」


 ボン! ボン! ボン!


 上空を高速で飛行しながら、赤い機体は複合武器を振るい、チョーク一基と浮遊型短剣二基を破壊した。


(マズい、浮遊兵器の包囲攻撃が全く効果ねえ……!)


 ギャオン! ギャオン! ギャオン! ギャオン!


 赤い機体は空中を自在に飛び回りながら、ニッケル・フリク・チネツに向けてライフルを撃ち始める! 回避行動を取る三人。


 ギャオン! ギャオン! ギャオン! ギャオン!


(クソッ、頭数も銃口もこっちの方が多いってのに、こっちが押されている!)


 速さの次元が違う。赤い機体と、そこから放たれる橙色のビームをとらえて、体を動かして躱すので精一杯だ。ニッケルとフリクは操作の複雑さに耐えられず、やむなく浮遊型兵器を機体に戻す。




 ダダン!


「おおおお!」

「おらああ!」


 味方の射線が減ったところで、カリオとユデンが地面を蹴って飛び上がり、空中の赤い機体目掛けて突撃する! 左右から青いビームソードと刀の一閃が、赤い機体に迫る!




 ガシッ




「!!」

「!?」


 赤い機体は両手の武器を離し、下から向かってくるカリオとユデンに高速で接近。そのまま二機の頭部を左右の手で鷲掴わしづかみにすると、猛スピードで地面に向かって、真っさかさまに急降下し始めた! 


「……!」

「ぐおおお!」




 ドドォオオン!!




 重い衝突音と共に、激しく土埃つちぼこりが辺り一帯に舞う。周囲のビッグスーツ乗り達はその土煙に視界を阻まれ、じっとするしかなかった。


 煙が晴れると、無傷の赤い機体が現れる。落下してきたのをそのまま掴んだのか、両手には複合武器が戻っていた。


 その足元。大きな二つのクレーターのそれぞれの中心に、黒い機体と金色の機体――カリオのクロジとユデンのハオクが仰向けに倒れていた。




 カリオのビームソード、ユデンの刀がそれぞれの手からこぼれ落ちる。二機とも動く気配はない。




「……クソッ……」


 リンコは小さく声に出して、うつむいた。混乱極まる状況を、打開する策がまるで思いつかない。




 その時だった。




「……? 何だ、何か上を通って……」


 治安部隊員の一人が上空の何かに気づいた。顔を上げたリンコもそれに気づく。


 赤みがかった空が、揺らめく。陽炎かげろう


 その陽炎が赤い機体の方へゆらゆらと飛んでいく。


「光学迷彩……?」


 陽炎は赤い機体の真上に停止すると、光学迷彩を解いて姿を現した。我々にとって馴染なじみの深い言葉で表すのであれば、さながらUFOと言った外観の、円盤状の飛行物体。


 ビッグスーツがすっぽり収まりそうな大きさの円盤を、赤い機体は見上げる。




「――もうそんな時間か」




 コックピットのスピーカーから聞こえてきた女性の声。


 ――赤い機体のパイロットの声だった。




(魔人血戦⑧へ続く)

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