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霊魂のねぐら、うろつく咎人⑥

「やめてくれねえかあの見た目」


 ニッケルは心底嫌そうに顔をしかめる。


「まあ何の意味があるんだあのケーブルという感じは……ある!」

「ちょっと私達の機体より大きくない? ヤダー!」


 カリオとニッケルもあらわれた機体を見上げていると、遠くからモーター音が近づいてくるのに気づく。


 ブィイイイ!


 近くに止まったのは宙に浮かぶバイクのような乗り物、エアバイクだ。それにカリオ達と地下から脱出したウドが、駆け寄って飛び乗る。


「すみません! 護衛ごえいありがとうございました! 僕はこれで失礼しますのでがんばってください!」

「なっ……ハァ!? おまえ……!」


 ウドは大きく手を振ってその場をもうスピードで走り去っていった。




「なんだアイツ!? もしかしてこれってアイツの仕業しわざか!?」

「と、とにかくビッグスーツ乗らなきゃマズくない!?」


 キキキキキ……


 何かがきしむような音を立てながら、黒いケーブルにもれた頭部から赤色の光がれ出る。不気味なその機体は、数百メートル離れた先からゆっくりと、カリオ達のいる方に向かって歩いてくる。


「早いとこ乗っちまうぞカリオ、リンコ! もう俺は帰りてえ!」


 三人は急ぎビッグスーツに飛び乗り、武器を構える。黒髪の機体はすでに彼らとの距離を百メートルにまで詰めていた。改めて黒髪の機体を前にすると、カリオのクロジ、ニッケルとリンコのコイカルの二倍ほどの背丈せたけがある巨躯きょくだとわかる。




(時間をかける意味はねえ!)


 カリオは腰のビームソードに手をかけ、強く一歩み込む。目にも留まらぬ速さで黒髪の機体のふところに飛び込むと抜刀ばっとう――


 ギャギィン!


 黒髪の機体の胸部きょうぶに青いX字の剣閃けんせんが走る! ウキヨエ流居合術いあいじゅつ一瞬二斬いっしゅんにざんバッテン!




 ブシュー!!


(……!? なんだ、けむり!? 体が……!)


 カリオはクロジから伝わるフィードバックで、機体の異変を感じ取る。自身の肉体に伝わってきたのは痛みに加えて、冷感。


「離れろカリオ!」


 ニッケルが後ろからさけぶ。黒髪の機体からは真っ白なガスが大量にき出している!


冷凍れいとうガスか! 安易あんい接近せっきんは出来ねえ!)


 ニッケルは背中の「チョーク」を起動・分離させ、リンコも二丁のビームピストルを構える。黒髪の機体の周囲にかれた冷凍ガスは、その巨躯をすっぽりおおい隠した。


 跳躍ちょうやく敵機てっきと距離を取って、カリオはニッケルとリンコの近くに着地する。




怪我けがは?」

大丈夫だいじょうぶだ、ちょっとヒリヒリするが」


 短く話す二人の横でリンコは白いガスに銃口じゅうこうを向ける。


(この程度の目くらましがリンコ様に通用するワケ……ん?)


 ブオッ!


 三人の目の前のガス雲の中から、赤色の眼光がんこうと共に黒髪の機体が飛び出してくる。その長いうで、左右五本の指先から、赤いビームじんが五本ずつ、つめのように形成されている!


「散れ!」


 ニッケルが叫ぶと同時に、三人はそれぞれ別方向に跳躍して散開する。三人との距離が開くと、黒髪の機体はまた大量の白い冷凍ガスを噴射ふんしゃし、その中にかくれた。




「そういう戦い方か」


 バシュゥ! バシュゥ!


 ニッケルは二基のチョークからビームを撃つ。ビームがガス雲をつらぬいて散らせると同時に、中から黒髪の機体がビーム爪を振りかぶり、リンコのいる方へ突進してくる!


 敵機が突撃してくるその一瞬で、リンコは敵機体を観察し、狙いを付ける。


(あれは……腰の両側に多分、スプレーガン。ガスタンクは前面には見当たらない、恐らく背面……なら!)


 リンコはピストルの引き金を引く。狙うのは腰のスプレーガン本体。タンクを避ければ破壊後にガスが大量に漏れるのを回避できるはずだ。


 バシュッバシュッバシュッバシュッ!


 ビームピストルから緑色のビームが放たれる! ビームは黒髪の機体の腰、左右のスプレーガンに二発ずつ直撃。スプレーガンは原型がわからなくなるほど破損はそんする。




「よし」


 スプレーガンの破壊と同時に、カリオは黒髪の機体の側面から再度接近する。リンコの予想通り、ガスの噴出ふんしゅつはない。


 黒髪の機体は片足を強引に前へ踏み出し急ブレーキ、また強引にカリオの方へ身体からだを向け直し、ビーム爪でカリオのクロジを切りこうと腕を振る!




 ギャギギィン!


 爪がクロジに届くより先に、三つの剣閃が大の字を描くように、黒髪の機体のボディをる! ウキヨエ流居合術・一瞬三斬いっしゅんさんざんダイモンジ!


 キキキキキ……


 黒髪の機体の白いボディにつけられた、内部機構を破損させるほどの三本の深いきずが、赤熱せきねつして赤く光る。それでもなお不気味な軋み音を鳴らし、髪のようなコードの隙間すきまから赤い光をのぞかせながら、その機体は動き続けようとする。


 バシュゥ! バシュゥ! バシュゥ! バシュゥ! バシュゥ! バシュゥ!


 にぶく動く黒髪の機体に、ニッケルのコイカルとチョークから一斉射撃いっせいしゃげきが放たれる!

無数のビームは敵機を四方から貫通。肩から腕がもげ、胸からは火花と何らかの液体が飛び出す。


  キキキキキ……キ……キ……


 それが致命傷ちめいしょうとなった。軋み音が小さくなると同時に、黒髪の機体はうつ伏せにドサリと倒れ、動きを止める。頭部から発せられていた光も消えていった。




「……うむ」

「中々……」

華麗かれい連携れんけいだったね~」


 三人の傭兵は自分達のチームワークを自画自賛じがじさんし、思わずグータッチした。




霊魂れいこんのねぐら、うろつく咎人とがびと⑦ へ続く)

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