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第13話 これって何だかデートみたい?

「本当に、ここまででいいの? 家まで送るよ?」


 ショッピングモールを出て、湯元さんが自宅まで送ってくれると言ってくれたのだけど、今はまだどうしても住んでいるアパートを知られたく無かった私は、昼間に待ち合わせた場所の近くで降ろしてもらうことに。


「実は急に母がこっちに来るみたいで、寄りたいお店がこの辺りらしくて……だから、ここで大丈夫! 今日は本当にありがとう」


 必死に言い訳を考え、母親がこっちに来てこの辺りで落ち合うことになったと嘘をついた私は湯元さんに挨拶をして車から降りようとすると、


「――深冬ちゃん、次もまた、誘っていい?」


 真剣な表情を浮かべながら問い掛けられたので私は、


「勿論! また、一緒に出掛けられたら、私も嬉しいから是非」


 思うことは多々あるけど、湯元さんのことをもっと知る為にもこうして出掛けるのが一番だと思った私は笑顔で「また誘って欲しい」ことを伝えて別れた。



「……はぁ」


 湯元さんと別れて駅のホームへやって来た私は小さな溜め息を吐く。


「……疲れたなぁ……」


 そして、ポロリと口から出てきたのはそんな一言。


 電車が来るまで後どのくらいだろうとバッグからスマートフォンを取り出して視線を移す。


「如月さん?」


 どこからか名前を呼ばれた気がして辺りを見回してみると、


「的場さん!」


 買い物帰りなのか、いくつかショップ袋を下げて立っていた的場さんの姿があった。


「如月さん、今帰り? 用事はもう済んだの?」

「あ、うん。的場さんも、帰るところ?」

「うん。ちょっと予定より遅くなっちゃったんだけど、ラッキーだったなぁ」

「え?」

「だって、そのおかげで如月さんに会えたんだからさ」


 的場さんは帰る時間が予定より遅くなったことで私と会えたからだと喜んでくれて、その言葉に私の胸はトクンと高鳴った。


「あ、そ、そう言えば! 実は今日隣町のショッピングモールに行ってきたんだけど、ペットショップに立ち寄ったときにシロちゃんにお土産をと思って少しだけど買ってきたの」


 恥ずかしくなった私は話題を変えるためにシロちゃんへのお土産が入った袋を掲げながら的場さんへ見せた。


「え? わざわざシロのために? きっとシロのやつも喜ぶと思うよ、ありがとう」

「どういたしまして」

「そうだ! シロに代わって何かお礼させてよ。ね?」

「え? いいよ、そんなの」

「駄目だよ、それじゃあ俺の気が済まない。そうだ! 帰るつもりだったのなら、時間あるよね?」

「あ、うん……あるけど……」

「ご飯は? もう食べた?」

「まだだけど……お昼が遅かったからあまりお腹が空いてなくて……」

「そっかぁ……それじゃあどうしようかなぁ……」


 お礼なんて必要無いと言っても的場さんは納得してくれないみたいだし、私はお腹が空いていないけれど彼はお腹が空いているかもしれない。


 ここはやっぱり彼の誘いを受けてどこかで夕御飯を食べるべきか迷っていると、


「そうだ! ねぇ如月さん、前にあの映画を観たいって話してたよね?」

「え?」


 そう彼の指差す方へ視線を向けると、ホームから見えるビル看板に少し前から上映開始されている推理もの映画の広告があった。


「あれ、もう観に行っちゃった?」

「ううん、まだ」


 映画を観たいとは言ったけど、それはあくまでも話題の一つだったし、実際映画なんて金額が高くてもう長いこと観に行ったりしてはいないから、これからもわざわざ映画館へ観に行くつもりなんて無かったのに、


「良かったらこれから観に行かない? 俺もあの映画、気になってたからさ。これをお礼ってことでどうかな?」

「……で、でも……」

「それとも……俺と一緒じゃ、嫌かな?」

「そんなことは……」

「じゃあ決まり! 行こう!」

「え? あ、ちょっと……的場さん!?」


 返事を待たずに半ば強引に映画行きを決めた的場さんに手を掴まれた私は、彼と映画館へ向かうことになった。


 途中荷物をコインロッカーに預けた私たちは駅を後にして少し先にある映画館まで歩いて行く。


 歩いていて気付いたけど、的場さんと会う前は疲れを感じていて早く家に帰りたかったはずなのに、不思議とその疲れは吹っ飛んでいて、映画を楽しみにしている自分がいる。


 そして、駅を出る前から彼に掴まれた手がいつの間にかしっかり繋がれていたことに今更ながら恥ずかしさが湧き上がってきて、体温が上昇していくのを感じていた。


(成り行きだし、別に手くらい……騒ぎ立てることでも、無いよね?)


 映画館までは距離的にも後少しだし、今更指摘するのも変かなと思った私はそのまま彼と手を繋いだままでいた。


 そして、映画館に着くと、何事も無かったかのように私の手から的場さんの手が離れていった。


 彼をチラリと見るも至って普通の反応だし、彼も今更何か言う程でも無いと思ったから何も言わずに離したのか分からないけれど、果たして的場さんはどんな気持ちで私と手を繋いでいたのか、密かにそれが気になって仕方なかった。



「うわぁ、やっぱり土曜の夜だと混んでるね」

「そうだね」

「良い席空いてるといいけど」


 映画館に着いた私たちは人の多さに驚きつつも、チケットを購入するために機械を操作する。


「あ、この辺りとかどうかな?」

「いいかも。折角観るなら中央辺りがいいよね」

「それじゃあここで」


 席を決めてお金を払おうと財布を取り出した的場さん。


 映画を観に来ることになったのは、元はといえばシロちゃんへのお土産のお礼ではあるけれど、映画代は結構掛かるし流石に出してもらうのも申し訳無くて私もお財布を取り出すも、


「如月さんは良いから。ね?」


 彼は先にお金を機械へ入れてしまい、私はお金を出すタイミングを完全に失ってしまった。


 それならばせめて飲み物や食べ物は私が出そうと思っていたのだけど、


「誘ったのは俺の方だし、如月さんは気にする必要無いから」


 結局全て的場さんに支払ってもらう形になってしまい、申し訳無い気持ちを募らせたまま席に着いた。

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