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第三十三話 side:U 車内とネクタイと

今の嗣にぃはなんだか・・・怖い。

多分だけど、怒っているのだと思う。

困っている姿や、無茶をするあさを注意する姿、そんな姿は今まで見てきた。でも今日みたいに答えてくれなかったり、怒っているような姿は初めて見た。

悪くないとは言われたが、思い当たるのは先ほどの飲み会という名の合コンしかない。というか、そもそも合コンと聞いていれば行かなかった・・・小早川会長も人を騙すようなタイプには大凡見受けられないので、会長も知らなかったのだろう。俺を騙しても仕方ないし。

俺が悪いわけではないけど、怒ってるということなのかな・・・これは・・・。

嗣にぃが怒ってるとして、どうしてだろう?奥さん役だからかな、やっぱり。

そこは、まあ・・・怒っても納得はできる。浮気行為ーー代役だと・・・あれ?どうなるんだ?ーーにあたるとは、思うし。でもそれより、そういうのではなく・・・嗣にぃの嫉妬だったらいいのに。それだったら、怒らせてしまったとして、嬉しい。

嫉妬してくれるくらいには、俺に気持ちがあるということだ。

でもなー『嗣にぃのそれって嫉妬?』とか聞けないしな。怖いわ。『嫉妬だよ!』とくれば進展が望めるけれど、『何を言っているの?君の役目は何?』とか返されたら・・・死ぬ。本当に死ぬ。・・・死にすぎな、俺。

死ぬと言えば、飲み会にパリッとしたスーツで現れた嗣にぃは誰よりも格好良かった。死ぬほど格好良かった。働く男の色気というか・・・いい匂いだし、学生とは全然違う。もっとも今日いた人達はお互いに品定めしていたので、普段とは違うのかもしれない。・・・まあ、嗣にぃも今はIQが下がってると思う。俺の胸を舐めたり吸ったりしてる。しかも車内で・・・。


「ふっ・・・う、っ・・・あ、噛まない、でぇ・・・」


かりっと、乳首に歯を立てられて小さな痛みが走る。もう何度、舐めたりする間に噛まれただろう。初めは痛みしかなかったのに、その中に甘い何かを見つけてしまい、息が詰まる。何だろう、もう、勘弁してほしい。俺の身体、どんどんと変わってて、怖い。俺の身体を撫で回している嗣にぃの大きな手にも興奮しているし・・・。

でも嫌がっても身を捩っても、嗣にぃは止めてくれないのだ。それどころか、俺が抵抗を見せるたびに、胸を吸う力も、反対の胸を摘む指の力も強くなってる気がする。でも、俺はそれを感じてしまっていて・・・。


「噛まれるのも好きなくせに、ゆうくんは嘘つきだね」


かち、っと嗣にぃが歯を慣らして、その間で俺の乳首を潰す。


「ひ、ぃっ・・・やあっ・・・痛いっ、つぐにぃ・・・っ・・・」


刺激に、高い声が出てしまう。痛いのだ、間違いなく確かに。なのに背中におかしな感覚が走って、震えた。

その時ちょうど、俺の後ろーーフロントガラスの向こう、少し遠い場所でバタンと車の扉が閉まる音が聞こえた。それが気になって、俺はあたりを見回す。

すると、嗣にぃはもう一度同じ場所にに齧り付きながら、


「余所見をする余裕があるなら、こっちを触っても大丈夫そうだね?」


嗣にぃの片手が器用に俺のパンツの前を開き、下着の中に潜り込んで俺のものを握り込んだ。まだそこは完全に勃っているわけではないが、緩く反応をしてしまっていた。


「あっ、だめっ・・・!ここ、外だよっ・・・嗣にぃ・・・っ!あ、んっ・・・」


上と下と同時に攻められて、俺は堪らず嗣にぃの肩を押した。けれどそれくらいじゃ嗣にぃはびくともしない。ぎゅ、っと力を込めて俺のものは握られ、上下にそのまま扱かれる。


「あ、あっ・・・やだ、やだぁ・・・っ、嗣にぃ、ここじゃ、やだ・・・っ」


嗣にぃの手は力を弱めずに、俺のものを扱いた。少しの痛みと、強制的な快感とがごちゃ混ぜだ。でも、この場所のーー人の目に触れると言う事実が俺に快感だけを追わせてくれない。そして嗣にぃは俺の言葉など聞いてくれる気もないらしく、身体を撫でていた手が下着の中に入ってきて、俺の尻を直接揉む。

まずい、その先は、まずい・・・!


「嗣にぃっ、お願い・・・やめて・・・っ、家でなら、いいから・・・何でもするから、やめ・・・っ、ふ、あっ」


俺は嗣にぃの手を止めるために咄嗟に手を伸ばしたが、ジンジンとする乳首を再度強く吸われ、下は握り込まれ、伸ばそうとした手は止まってしまう。尻肉を揉んでいた指先が俺の入り口と変わってしまった穴の上を叩く。そして、ゆっくりと中に入ってきた。いやだ・・・!バレる・・・!


「・・・ゆうくん、これ・・・・・・」

「っ、あ、やぁ・・・いわ、言わないで・・・!」



嗣にぃが胸から唇を離して、俺を見上げて視線があった。俺はそれから逃げるようにぎゅっと目を瞑る。快感も何もかも、吹っ飛んだ。

あーーーーーーーバレたーーーーーーーーー!

俺が!飲み会に行く前に、セックスの準備しちゃったのが・・・。そう、俺は時間があったので一度マンションに戻った際にシャワーを浴びたのだ。少し汗をかいたのもあって。その時に、癖というかルーティンで中まで洗った挙句に、ローションまで仕込んでしまったのである・・・馬鹿だ・・・。でもでもだって、仕方ないと思うんだよ!最近はかなりの頻度でセックスを繰り返していたし、俺が無意識に準備しても仕方ないと思う・・・!だいたい俺をこんな身体にしたのは、誰でもない嗣にぃだと思うし・・・!

はたと、『今日はいらなくないか?!」と気付いたのは身体を拭いた後で、多少の違和感はありつつも慣れに慣れてしまっていたこともあり『まあいいか』と着替えてしまった。あああああああああ・・・数時間前の俺を呪ってやりたい。

これじゃあ『いつでもセックスしたいです♪準備はオーケー♪』みたいではなかろうか。というか、まんまなんだけど!!

いやだあああああああああ・・・車を降りて走り去ってしまいたい・・・。ここからなら帰れる気がする!!

嗣にぃの手も、他の動きも止まっていた。少しの間、車内に沈黙が流れる。


「あっ、ちが、ちがくて・・・っ・・・俺、その・・・、そのっ・・・」


気まずさにそれを破ったのは俺だった。顔は熱いわ、変な汗が額に滲むわ。言葉だってしどろもどろだ。嗣にぃは俺の身体から両手を離す。

え、まって?!続けられるのは恥ずかしいけど、引かれるのはもっと恥ずかしいんだけど?!?!やだ、もおおおおおおおおおお!!!

けれど、心中で右往左往と大騒ぎをしている俺を、嗣にぃは抱きしめてきた。吃驚として、俺は目を開ける。


「つ、嗣にぃ・・・?あの、えっと・・・?」

「・・・僕のために?」

「え、あ?な、なに?」


視線を下げると、嗣にぃとまた目があった。おおおおおおおん・・・恥ずかしい・・・。

嗣にぃは俺を抱きしめる手に力を込める。


「こんな日でも、ゆうくんは僕のために準備してくれたの?」

「え、あ、え・・・っと。その、まあ、・・・う、ん・・・?」


何も考えずにしたことではあるが、その根本は嗣にぃとの行為があってこそだ。なので、俺は戸惑いつつも頷く。

すると嗣にぃは、


「ゆうくん・・・ごめんね。自分勝手な夫で。ゆうくんはこんなに健気に頑張ってくれているのに・・・」


俺へと謝ってくる。お、おおう。・・・なんか大丈夫そうだ。引かれてはない・・・かな?俺はほっと息を吐く。嗣にぃは、改めて俺を抱き直して頬へと口付けてきた。


「お詫びに、今日はいっぱい優しく抱くからね」


もう一度同じ場所へと口付けながら、嗣にぃは微笑んだ。え、待って、それお詫び?いや、そりゃさ、嬉しいよ。嗣にぃとするの、好きだよ。でも、お詫びなの?!それ?!気持いいよ!気持ちいいけどさぁ・・・?!あ?!ここ?!ここで続行?!


「こ、ここは・・・やだ、よ・・・?」


しのごの言ったところで、なんかもう色々と致す流れっぽいのでーー俺は今日の昼こそ、抑えなければと思っていたのに・・・ーー、せめて場所を変えてもらうべく、抱きしめられたままでどうにか触れる、嗣にぃの脇腹をぺちぺちと叩いた。

嗣にぃは、笑みを深めて、


「ホテルに行こうか」


と言った。わぁ・・・嗣にぃ、楽しそうーー・・・。



と、いうわけで!サクッと衣服は整えられて、サクッと助手席に座らせられ、サクッと俺はホテルへと連れてこられていた。ちなみに、ラブがつくホテルである。

嗣にぃのイメージからかけ離れていたので、なんか不思議だな、と思いながら駐車場からエントランスに続く扉を潜っていると、「初めて来たけれど、意外に内装も普通だね」と俺の肩を抱きながら嗣にぃが零すーー嗣にぃも初めてらしいと知って、嗣にぃのお初だ!とアホにも少し浮かれてしまったーー。

周りを見回すと、嗣にぃが言う通りだった。もっとどぎつい感じの『いかにも!』というのを想像していたが、エントランスも照明は抑えめだが暗いというわけでもなく、白を基調としていて清潔だった。

ただやはりラブホテルということで普通のホテルのように、フロントがあるわけではなく、部屋を選ぶパネルがあった。二人でその前に立つ。


「ゆうくん、どの部屋がいい?」

「え?!つ、嗣にぃが好きな部屋でいいよ?!」


聞かれても困る・・・!

ここが普通のホテルと違い、ただただ、そういう行為をするための場所だとうっかりと俺は再認識してしまい、顔が熱くなるのを感じつつも首を振った。

嗣にぃはいつもと同じだ。うーん、と一つ唸ってからパネルの一つを選んでボタンを押す。すると暫くして、小さな受付らしき小窓から鍵を渡される。

鍵にはルームナンバーが書かれた金属製のキーホルダーがぶら下がっていた。

そのルームナンバーに従って俺たちは部屋に向かう。

部屋の中に入ると、独特な匂いがした。不快な匂い、とかではないが、不思議な感じだ。室内は結婚式の夜に泊まったホテルとはまるで違うが、かといって不潔さは感じない。ただ目的が目的な場所なので、室内で一番場所をとっているのは大きなベッドだ。そのに前には大きなテレビがあり、部屋の隅には冷蔵庫とそれに似た、何かのボックスがある。・・・何だあれ?

それ以外は至って普通の部屋・・・じゃねーわ!でっかい風呂場があるけど、スッケスケですやん・・・!

そう。広いガラスの向こうに風呂場があった。つまり、ベッドのある方からと、浴室からとはシースルー状態だ。こちらからは着替えも洗うのも全部が見えるし浴室からは室内で何をしてても見える。


「お、おおおお・・・」


変な声が漏れて、口を押さえる。くすくすと笑いながら、嗣にぃが俺の横に来た。

俺が室内をキョロキョロとしてる間、嗣にぃも室内を見ていたらしい。


「なんかすごい声が出たね、ゆうくん。いやぁ・・・面白いね。特化してると言えばそれまでだけど。さて、ゆうくん?どうしようか?」


にっこりと微笑みながら、嗣にぃが俺の顔を覗いてきた。

あ、これね、知ってますよ俺。俺に言わせたいやつでしょ??俺はささっと嗣にぃから離れると、目に入ったテレビのリモコンを手に取った。

そうそう乗ってやんねーぞ!!


「俺は!テレビを見ます!」


そう宣言してテレビをつけると、


『あああん!!イくうううう!』


画面いっぱいに裸の男女がベッドの上で動いている絵面が映された。

嗣にぃとテレビとを交互に俺は見る。え、え、え?!


「え、これ、え?!?!」

「AVだねぇ。ゆうくん、見たいの?」


俺は矢張り、嗣にぃの顔と画面とを交互に見た。嗣にぃは首を傾げており、画面の中では女性がアンアンと言っている。俺は何度か繰り返した後に、ようやく事態が飲み込めて、リモコンを落とした。バッと画面から顔を背ける。


「あ、えぇ、ちょ、えぇ・・・」


自分でもわかる、俺は真っ赤だろう。まともに喋れないまま、固まっていると、いつの間にか嗣にぃが俺の横にいて、肩をトントンと叩かれた。いつ来たよ?!


「ゆうくん、ゆうくん。タイトルが凄いよ、これ。ほら」


嗣にぃは俺の肩を叩いた手で、画面を指差した。待って見れない、見れるはずがない・・・?!嗣にぃは楽しそうに笑いながら俺の身体を引き寄せて、耳元に顔を寄せて来た。


「ちょ、もっ・・・ち、近いっ・・・!嗣にぃ、離れて・・・!」

「いやいや。離れるはずがないでしょ。ほら、タイトル。『お仕置きローター地獄』だって」

「読まなくていいよ・・・!消そう?!テレビ消そう?!」

「えー、見たいって言ったのはゆうくんだよ?ゆうくん、ローターはわかる?」


嗣にぃは俺を抱き寄せて、わざとらしく画面を見せつけるような方向を向ける。

ばかめーーーー!目をつぶればいいし!俺は嗣にぃの作戦には乗らない・・・!答えんし!

ぎゅっと目を瞑って黙ったままだった俺の身体がいきなり浮いた。


「ぇあっ?!」


ぽん、とベッドの上に投げられる。衝撃に驚いて目を開けると、ベッドに横たわる俺と、俺の上に伸し掛かる嗣にぃがいた。嗣にぃは相変わらずにこにこと笑顔で、自分の首元からするりとネクタイを抜く。俺と言えば状況が飲み込めず目を瞬かせていた。ぼけっとしていた俺の両手をいとも易々とまとめて、俺の頭の上へともっていく。


「え?!ええ?!なに?!」


俺の両手に嗣にぃのネクタイが巻かれた。迂闊にも程がある俺は、両手を頭の上で縛られて固定されたわけで・・・。え、ちょっと・・・まって、なに?何が起こってるんだ・・・?!なんで、俺は夫に縛られてるの?!

額に汗が浮かぶ。耳に届くBGMは、相変わらず画面から流れるAVだ。

嗣にぃは俺の頬を撫でてベッドを立ち上がり、上着を脱いでベッドの端に置き、部屋の隅に行く。時間がかからず、その手に、何か箱状のものを持って戻って来た。


「うん、じゃあ。ゆうくんにも『お仕置きローター地獄』を味わってもらおうか?」


とてつもなく良い笑顔で、俺の夫は不穏なことを言い放った。

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