目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第六十四話 side:H 月明かりとその意味と

バスチェアに座り、対面で膝上へとゆうくんを抱えたまま、ゆうくんが感じる場所を敢えてずらしての愛撫ばかり続けているとゆうくんが涙を浮かべつつ、僕の胸へと額を擦り付ける。


「も、やぁ・・・嗣にぃ・・・・・・」


その場所から僕を見上げた瞳は蕩けていて、目元は赤く染まっている。

つ、とゆうくんの太ももを指先で撫でると、びくり、とその細い身体が跳ねた。

散々と焦らしたので、限界に近いのかもしれない。


「・・・ね、もうちょうだい・・・・・・」


僕の胸や首元に口付けしながら懇願する様には、情欲が濃く浮かんでいて、僕の背中にゾクゾクとしたものを走らせた。それは下半身まで流れて、ぐぐっと怒張に血を集める。僕もまた、ゆうくんの髪や額に口付けつつ、


「何が欲しいの?」


わざとらしくゆうくんへと問い返す。ゆうくんは困ったように唇を緩く噛んだ。

何度抱いても、何度言わせても羞恥は拭えないようだ。そんなところも最高に可愛い。僕が、ん?ともう一度首を傾げると、ゆうくんは腰を動かして、お互いに勃ち上がったものを擦り合わせる。触れ合った箇所から軽い快感が生じて、お互いに息を漏らした。何度かそうしながら、ゆうくんが改めて僕を見つめる。


「これ、欲しい・・・も、挿れて・・・」


熱く、落とした。

お誂え向きと言うか何と言うか、露天風呂の床は足心地を考えてか浴室用の畳が敷き詰めてあった。僕は近くにあったバスタオルを片手で引っ張り寄せて敷き、そこへと、一つ触れるだけの口付けを落としてからゆうくんを仰向けに下ろした。


「どこに欲しいか、教えて?」


更に意地悪にそう聞くと、ゆうくんは一つだけ息を吐いてから、体をころりと横たえた。そうしてから自分で片足を持ち上げて、指先を臀部へと滑らせる。そこにある穴を人差し指と中指を使って広げて見せた。


「・・・ここぉ・・・ここに、それ・・・」


挿れて・・・、と切なげに声を漏らす。ゆうくんは、目元だけでなく耳元や首筋まで赤く染めていて、広げられた入り口は僕を欲しがってヒクヒクとしていた。僕は目の前に広がる光景に、ごくり、と息を飲み込みバスチェアから降りた。

ゆうくんの片足を跨ぐようにしつつ、上げられたもう一方の足を僕が担ぐ。側位の形を取りながら、自身の切先を入り口へとあてがった。


「たくさんあげる、ね・・・っ」


言葉の最後の方で、狭さのある粘膜で出来たトンネルを一気に最奥まで貫く。


「ひっ、あ、あああああ・・・っ・・・!」


ぐっと腰を進めてお互いの皮膚を密着させると、僕を包み込むゆうくんの中の肉がぞわぞわとうねった。焦らしたせいもあって、挿れただけでゆうくんは軽く達したらしく、バスタオルをきゅっと握り込む。

ここで少し置いてあげるといいのだろうが、僕はそれを敢えて無視して、小刻みに腰を動かした。


「あっ、やぁっ・・・!まって、いま、いって・・・、ひぅうっ」


達した場所は余計に狭くなって、僕を締め付けるが、それがとても心地良い。


「ゆうくんの中、締まって気持ちいよ・・・ああ、でも・・・もっと、奥に欲しくない?」


僕の下で喘ぎながら、ゆうくんは僕の言葉に小首を傾げる。


「あふっ・・・ぁ、おく、って・・・も、はいらない・・・」

「挿入るよ・・・?前に教えてあげたよね。ほら、こうやって・・・」


僕はゆうくんの足を肩へとかけて、バスタオルを握った手首を取る。腰を押し付けるようにしながら、その手を引っ張った。すると密着がより深くなって、硬い怒張の先が更に肉の深い部分、一つ目の弁へと埋まりこむ。


「ひっ・・・?!あ、やぁ、っ・・・ふか、くっ・・・」


新しい場所を割開くとゆうくんの目が見開かれ、首を横に振った。中はさらに僕のものを誘い込むように蠕動を繰り返し、それに合わせて進ませると、二つ目の弁を潜った。


「だめっ、だめぇ・・・っ、つぐにぃ、いやああっ・・・!」

「ほら、もっと深く・・・」


もう一度、手を強く引っ張り、腰を突き出す。密着がもっと深まって先が入り口にはまり込んだ。ゆうくんはびくびくと肩を揺らすだけで、動けないでいる。


「ひっ・・・や、や、っ・・・だめっ・・・奥、だめ・・・っ・・・こわれちゃうから、っ・・・!だめぇ・・・っ」


涙が浮かぶ瞳が僕を視界に捉え、ひたすら首を振った。僕は生唾を飲み込む。駄目、と言われても止まることなんか出来ない。いっそ壊し尽くして快楽に突き堕としてやろうと思うばかりだ。

こういう時、やはりゆうくんが僕にとって特別なのだと感じる。今まではセックスなんて相手が満足する程度で良いと思っていたのが、いかに甘く鳴かせて快楽に突き堕とし、自分が心ゆくまで満足出来るかを考えている。

逃げようとするゆうくんの腰を、担ぎ上げた足を引っ張って阻止し、もう一段階、深い場所を求めて身体を動かした。

亀頭が、ぬぷっ、と最後の弁を超えて肉輪の中に入り込む。


「ひぐっ、あ、あああ、あぁ、あっ」


一際高い声がゆうくんから発される。まだ知らぬ場所からの快感を捉えきれず、幾つもの涙が両の目から溢れた。ゆっくりと僅かに腰を引かせて、もう一度同じ場所へと先を埋める。


「んくっ、あ、あっ・・・ら、め・・・うごか、ないでぇ・・・」

「ゆうくん、痛い?」


ゆうくんは息を吐き出しながら、首を横に振る。痛みがないのなら幸いだ。流石に痛さがあるならば、続けるわけにもいかない。予め、長めの洗浄の後に後ろの穴専用であるローションを多めに注入したのも幸いしたのかもしれない。

馴染むまで、抱えたゆうくんの足に幾つもキスを落とす。屹立していたゆうくんのものは、予期していなかった感覚に萎えていた。けれど暫くすると、


「つぐ、に・・・うご、ぃて・・・ゆっくり、して・・・」


と絶え絶えに、僕へと告げてくる。頷きながら、僕は緩く腰を動かし始めた。

少し引いて突き出して、を繰り返すその度に、カリがぬぷ、ぬぷ、と出たりはまったりをして、酷く気持ち良い。僕が息を落とすと、ゆうくんが「ぁ、あ・・・っ、つぐにぃ・・・手、にぎって・・・」と零した。掴んでいた手首から指をずらし、ゆうくんの指へと絡める。

そのまま、時間をかけて慣らすように動いていると、ゆうくんから少しずつ甘さの混じった声が落ち始めた。


「気持ちよく、なってきた?」


問い掛ければ、小さく頷く。それを見て、僕は一度腰を大きく引くと、ゆっくりと最奥まで貫いた。


「あ、ひっ・・・あ、あっ・・・や、なに・・・っ・・・?!」


ゆうくんが目を見開く。中は刺激をしてやると、きゅうきゅうと締まった。もう一度同じような動作をすると、握った手に力が入り、ふる、とゆうくんの首が横に振られた。


「や、ぁ、つぐにぃ、やあ・・・これ、だめぇ・・・っ」


生じ出した快感にゆうくんが戸惑い、僕を見つめつつ、首を振り続けた。ここまで来れば大丈夫かもしれない。少しずつ、少しずつ腰を引かせる幅を大きくし、速さを伴わせる。


「くふっ、あ、あ、あ、あ、あ、あっ・・・やぁ・・・っ」


いつの間にか萎えていたゆうくんのものは硬さを取り戻しており、鈴口からは我慢汁がたらたらと流れ出している。ゆうくんの手を引きながら、腰をぐんっと突き出した。


「ひっ・・・ああ、あっ?!やああ、やだっ・・・やあ、あ、いって・・・っ」


ゆうくんの足がびくびくと痙攣するのに合わせて、中の肉も同じように蠢き続けた。快感の波がずっと引かない状態なのか、ゆうくんの痙攣は長く続く。

奥の窄まりに亀頭が嵌ると、その先をちゅっちゅっとキスされるように吸われる。まるで離したくない、と身体で言われてるようだ。



「あ、あ、あんっ・・・やうっ・・・あ、らめっ・・・ひん・・・!」

「ゆうくん、可愛い・・・感じてるね」

「くふっ・・・、らめ・・・ずっと、いって・・・あ、あ、あ、あ、ひさつぐさ・・・っ」


ゆうくんの意識は此方にあるようで、ないようで。トんでいる、とわかる。譫言のように「ひさつぐさん」と舌足らずに呼び続けられると、ゆうくんの中にある僕のものにどんどんと血が集まった。

絡めた指を離し、ゆうくんの足を一度下ろして、体勢を変える。挿れたまま、横向きの体を仰向けにして、両足を抱えなおし、足が肩まで付く程に折り曲げてから、ほぼ垂直にがつんと体重かけて腰を落とした。


「ああ、あ、ああああああっ!!!ひっ・・・こわれりゅぅ・・・っ」


ゆうくんは甘さを混じらせたまま、細い叫びを発した。

それにも興奮して、僕は微塵の遠慮もなく、奥の奥までがつがつと種付けピストンをする。奥を突く一度一度にゆうくんは達しているようで腹の上に溜まった我慢汁がとろりと落ちた。


「ああ、気持ちがいいよ・・・・・・」

「ひさつぐさん・・・っ・・・・・っ・・・」


ずるりと剛直を引き抜き、今度は少しゆっくりめに、前立腺をなぞるように擦るように突く。ゆうくんは気持ちよさに、声にならない声を上げ続けた。最高のBGMだな、と思いながら、ゆうくんの唇を舐める。


「ふあ、あ、あああっ・・・ひさつぐさん、っあ、あ、あ、んっ・・・すき、すきぃ・・・っ」

「ゆう、ゆう、僕も好きだよ・・・愛してる・・・っ」


僕が愛してる、と言葉にするとゆうくんの手が僕の首へと伸びて、絡められる。

僕の唇に何度も口付けながら、


「もっと、もっと、あぃして・・・ひさつぐ、さん・・・っ」


そう言い、幾度も幾度も僕の名前を繰り返した。

中もそれに呼応して、狭い道が、肉の輪がぐにぐにと僕のそれを扱く。

知らず知らずと僕の腰も激しい抽送を繰り返し、奥の奥をがんっとついた時、背中に凄まじい快感が走りーーゆうくんの中に白濁液を撒き散らす。


「ふあ・・・あ、あついの、が、でて・・・・・・っ・・・」


ゆうくんも一緒に達したようで、僕を包む肉が残滓まで奪うかのように動いた。


「ひさつぐ、さん・・・もっと、もっとしてぇ・・・」


蕩けたまま、ゆうくんの腰がゆるりと動いて、僕のものを扱く。

最後まで出し切ったはずなのに、その動きに僕のものは萎えることなく、反応した。


「・・・いいよ、もっと、愛してあげる」


息を一つ吐いて、ゆうくんの足を抱え直しながら、その唇を塞いだ。



盛り上がりに盛り上がって、何回、僕は射精したのかわからない。

体力はあるほうだと自負していたが、さすがに疲れた。セックスの後も放心したような状態だったゆうくんの後始末をした後は、汗に塗れた互いの身体を流してから、ゆうくんを抱いて部屋の中へと戻った。

火照った身体にエアコンが気持ちよく、ベッドへと傾れ込むと、抱き合ったままいつの間にか眠ってしまったらしい。

目覚めると室内は暗く、ベッドの上には僕しかいない。

室内を見回すと、窓際にホテルの浴衣を纏ったゆうくんが空を見上げている。

静かにベッドから出て、ゆうくんを後ろから抱きしめる。


「ひゃ・・・っ・・・あ、びっくりした・・・・・・」

「身体は大丈夫?」


吃驚してゆうくんは身じろぎをしたが、ぎゅ、っと抱きしめる。そのままゆうくんの髪や耳朶に後ろから口付けを落としつつ、問いかける。


「ん・・・ね、嗣にぃ・・・月が綺麗だね・・・・・・」


ゆうくんは抱きしめている手の中で身体を動かし、僕の方を向く。

月というよりは、僕を見ながら言われたそれに、僕は少しばかり首を傾げた。

新婚旅行の時も、夏祭りの時も、月の話をしたように思う。


「今日は三日月だね」


夜空に浮かぶ月を一度見上げ、視線をゆうくんへと戻す。

ゆうくんは僕を暫く見つめた後、僕の胸へと頭をつけた。


「あの、さ・・・」


ゆっくりと息を吐き出して、ゆうくんが顔を上げる。

僕を見る目に不穏さはないが、あの夏祭りを思い出すと、どうしても不安が心の中に生まれた。それを打ち消すかのように、僕はゆうくんの口端に口付ける。


「月はずっと綺麗だけど、ゆうくんと見る月だから綺麗なんだよ?だからこれからも・・・誰に何を言われても、僕はゆうくんを離す気は絶対にないからね・・・」


そう言うと、ゆうくんが僕を瞠目する。


「知ってて・・・言った・・・?」

「え?」


僕がもう一度首を傾げると、ゆうくんは「なんだ・・・」と苦笑を漏らす。

その後に、本当にあったか文献がないため俗説だけど・・・と前置きして、ゆうくんは英語教師をしていた頃の夏目漱石が「I love you」を「月がきれいですね」と訳した逸話を教えてくれた。

それは聞いたことあるな、と今更ながらに思い出した後にーーあ、と思う。

僕は新婚旅行で、ゆうくんにそう言い、ゆうくんの返しは・・・。


『月は、ずっと前から綺麗だよ』


そして夏祭りの帰りの返しは、


『ずっとさ、ずっと月は綺麗で・・・俺、それを見れると思ったんだ。見れると思ったんだけど・・・・・・』


だった。月が綺麗は愛している。つまり、その意味は・・・。


「今頃気付いた?鈍感久嗣」


ゆうくんは僕の鼻をかぷりと齧る。

僕は今になって漸く、しかもゆうくんの導きがあって。

なんという、なんという・・・自分の鈍感さに恥いると共に、ゆうくんからの言葉に照れて顔が赤くなるのを止められなかった。

ここが暗い部屋で良かったとつくづく思う。月明かりで全部は隠れないが、情けない姿を夜が多少は隠してくれるだろう。


「格好悪いなぁ・・・ゆうくんの前でだと、最近の僕はいつも格好悪いね?」


ふう、とため息を吐くと、ゆうくんが可笑しそうに笑う。

でも、と言いながらゆうくんは片手を上げて僕の前髪へと触れる。


「そんな嗣にぃも・・・久嗣さんも、愛してるよ・・・」


髪に触れた手がそのまま僕の頬に滑り、ゆうくんは背伸びをして僕の唇へと、触れるようなキスをする。

ぶわっと愛しさが込み上げて、強く抱きしめずにいられなかった。

久嗣さん、か。告白してからこちら、ゆうくんはたまに僕をそう呼びようになっていた。そうだね、僕はもう君の『幼馴染の嗣にぃ』じゃない。君の恋人で伴侶である桐月久嗣だ。


「僕もだよ、ゆう。愛しているよ・・・」


愛しい子の唇を捉えて何度も啄むようにキスを返す。

月明かりの下、何度も僕たちは愛してるを繰り返して、キスを続けた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?