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第6話「合流地点へと」

「シャアアアアア!!」


襲い来る2匹目の爪を防御用バリアで弾き返し、逆に手刀をお見舞いする。


「プレデターチョップ! イヤァァァーーーー!!」


バリアの出力によって名刀の如き鋭さを持ったそれが、2匹目を頭部から股まで真っ二つに切断した。


「キシャアアアア!!」

「プレデター回し蹴り! イヤァァァーーーー!!」


回し蹴りを受け、3匹目が爆散する。

その時、4匹目がサトゥーの横を通りすぎてアルタコ達の方へ向かおうとした。


「ダメです! プレデタースピア! イヤァァァーーーー!!」


サトゥーはベルトに提げている伸縮式の槍を引き抜き、展開。

槍投げの要領で投擲する。

4匹目に直撃すると絶命させ、貫いた槍は骸をそのまま壁に縫い付けた。


「シャ、シャアア……!?」


5匹目は戦意喪失したのか、後ずさりしながらサトゥーから距離を取り始めた。

しかし残念ながら特定星系外生物は、見つけ次第全て駆除しなくてはならない。


「悪いが逃がさん!」

「キシャアア!!?」


サトゥーは水平に跳躍すると両手を伸ばし、逃げようとしていたゼノザードの両足首をむんずと掴んだ。

そのまま立ち上がり、グルグルとゼノザードを振り回し始める。

回転がどんどん速まっていった。


「プレデタージャイアントスイング! イヤァァァーーーー!!」

「シャアアアア!!!?」


十分に加速させてから、サトゥーは手を放す。

勢いよく放り出されたゼノザードは壁に激突し、体液をブチ撒けると即死した。


「駆除完了……」


サトゥーの周囲ではシュウシュウと音を立てながら、通路の至るところが溶解していた。

ゼノザードの体液は強い腐食性を持っており、本来は返り血を浴びる危険がある為に近接戦闘は推奨されない。

サトゥーも至近距離でドバドバ血を浴びていたが、防御用バリアのお陰で何も問題は無かった。


壁が溶解して床に転がっていた槍を回収してから、サトゥーはアルタコ達の下へと戻る。

そして戻ってから再度、空手の構えを取って宣言した。


「これが……空手です……」


空手とは何か。

しかしそんなサトゥーを前に、アルタコ達は何故か硬直していた。

気まずくなってサトゥーが尋ねる。


「え……あの……」

《ス……》

「す?」


触手をぷるぷると震えさせ、アルタコが叫んだ。



そして興奮した様子で、空手(?)の動きを真似しながら口々にサトゥーを讃え始める。


《サトゥー強い! 偉大なる戦士!》

《カラーテ! カラーテ! イヤーー!》

《私は感動しています! 解析不能、解析不能、解析不能》


その様子は完全に、ヒーローショーを見て興奮している小学生だった。


「あ、ありがとうございます? と、とにかく後は戻りましょう!」

 

「でははぐれない様に一列になって、イッチニ、イッチニ」

   


興奮したままのアルタコを連れて、サトゥーは船外を目指した。

遺棄船に入ってきた時と同じ亀裂部分に戻り、そこから外に出る。

野外は相変わらず酷い砂嵐だった。


(船を呼び出した方が早いか……)


サトゥーはガントレットを操作し、離れた場所に泊めてある己の宇宙船を自動操縦で離陸させた。


「今、宇宙船をこちらに呼び出しています! しばしお待ちください!」

  

「よし、これで仕事は……ん?」


その時、サトゥーの視界に警告が表示された。

地中を進む巨大な影。

砂の下から獲物を襲う危険な原生生物チッチチチッチッチチッチリアン・デス・ワームが接近していた。


(何で今来んねん!? さっき来なかったやろがい!!)


デスワームは地中を蛇行しながら、真っ直ぐにサトゥー達の方へと突進して来る。


(あぁぁぁぁ面倒くさい!)


サトゥーはドシドシと足音を立てつつ、その場から離れる。

突然の奇行に驚くアルタコ達に通信で情報を共有した。


「地中から原生生物が襲ってきます! 対処するので遺棄船に戻っていてください!」


デスワームは振動で獲物を感知する。

遺棄船に戻ったアルタコ達の足音は消え、代わりにサトゥーの足音だけが残った。

獲物を定め直したデスワームは地中で急激にターンすると、そのままサトゥーを追跡する。


「よし来い」


襲わせる為に足を止めるサトゥー。

デスワームは一旦沈降してからサトゥーの真下へと移動し、地中を垂直に駆け上がった。

そして大顎を開け、勢いよく地表へと飛び出す。


足元の砂ごと、ごくりとサトゥーは丸呑みにされた。

そのままデスワームは地中へと姿を消してしまう。



悲鳴をあげるアルタコ。

だが、うちひとりが落ち着いた声で言った。


《落ち着く必要があります……あれはサトゥーの作戦です!》

《何を知っていますか!? 情報の共有が必要です!!》

《あれはカラーテの必殺技……ハラ・パンです! 相手の内側に入り込み、内臓がパンチされます! これはすごく痛い!》

《私はこれをミンメーン出版『カラーテ、その脅威と真実』を読んで学びました!》


彼らの見ている前で砂が隆起すると、勢いよくデスワームが飛び出してきた。


「Gruaaaahhhhhh!!!」


紫色の体液を吐き出しながら、砂の上でその巨体をのたうち回らせる。

丸呑みにされたサトゥーだが、バリアで一切のダメージはなく、胃の中から最低出力のプラズマキャノンを連射し続けていた。

射出される火花で胃の粘膜を焼かれ、苦しむデスワーム。


「Goooooaaaaahhhhh!!!」

《見てください! あれは内部でサトゥーが戦っている! 私達は応援を実行!》

《カラーテ! サトゥー! イヤー!》


その様子は完全に、前世的に言えば遊園地のヒーローショーで、怪人に苦戦する正義の味方を応援している子ども達そのものだった。

サトゥーがプラズマキャノンの威力を上げないのは、間違って地中で射殺してしまうと脱出が面倒になるから。


(よし、地上に出たな?)


スキャンでデスワームが地上に出ている事を確認したサトゥーは、右前腕のリストブレイドを展開する。

そのままデスワームの内臓を一文字に切り裂いた。

デスワームの表皮が引き裂かれ、体液と内臓、そしてサトゥーが飛び出してくる。


「Gyaaaaaahhhhhh!!!」


宙に放り出されたサトゥーは、膝を抱え込みながらクルクルと回転し、アルタコ達の目の前に落下する。

そして片手、片足、つま先と膝を同時に叩き付ける様にして激しく着地した。

スーパーヒーロー着地!

垂直に屹立しながら絶命し、突風に煽られながらその巨体を横たえるデスワームを背景にしながら、サトゥーはゆっくりと顔を上げ、アルタコ達を見ながら言った。


「これが……プレデター空手です」


遺棄船から飛び出してきてサトゥーを取り囲み、勝利に沸き立つアルタコ。


《サトゥーの勝利です! 無敵の戦士!》

《カラーテ! ハラ・パン! すごく効く!》


とそこへ、暗闇を切り裂いて頭上からサーチライトが降り注ぐ。

見上げればそこにあったのは、遠隔操縦されたサトゥーの宇宙船だった。

宇宙船はゆっくりと砂地の上に着陸し、後部ハッチを開放する。

船内から漏れ出す明かりを見ながら、サトゥーが言った。


「ふぅー……やっとですね。さぁ皆さん、帰りましょう!」

「っと、先に乗っていてください。私は少し野暮用が……」


ハッチの傾斜を駆け上がっていくアルタコ達を尻目に、サトゥーはデスワームの死体へと歩み寄る。

そしてを済ませてから、船内へと戻った。


サトゥーの宇宙船は円盤型であり、後部ハッチは船内中央の一番広いロビーと直結している。

そしてロビーを取り囲むように仮眠室、給湯室、シャワールーム、操縦室、工作室、倉庫があった。

アルタコ達をひとまずロビーで待たせてから、サトゥーは工作室に荷物を置き、操縦室に入ると宇宙船の操縦を開始する。


「……発進! 惑星チッチチチッチッチチッチを離脱!」


砂地を離れて急速上昇。

砂嵐が吹き荒れる大気を駆け上がり、惑星チッチチチッチッチチッチの重力圏を脱出する。

船体の振動が収まる頃には、キャノピーから見える景色は宇宙のそれへと変わっていた。

サトゥーはシャーコへと通信を入れる。


「こちらサトゥー、氏族長、応答願います」

《こちらシャーコ! おぉサトゥー君、もう宇宙には出たかね!?》

「はい、要救助者を全員宇宙船に収容し、同惑星を離脱しました。現在、宇宙空間です」

《でかした! お金、じゃない、そしたら指定する座標に向かってくれ。アルタコから迎えの船が向かっているでな》

「……承知しました。スゥー」


ため息を吐きながら通信を切るサトゥー。

我らが氏族長ながらあからさま過ぎはしないだろうか?

そんな事を考えながらロビーへと戻ると――



――アルタコ達の間に微妙な空気が流れていた。


「あー……」


ロビーにあるテーブルとイスは、大柄なヤウーシュ規格のそれ。

何とか椅子によじ登り座ったアルタコ達だったが、全員テーブルの高さに届いていなかった。


「これは申し訳ない……今椅子をお出しします」


サトゥーは慌てて倉庫へと駆け込むと、目的のものを探す。

確かアルタコ向けの椅子――座面が高い位置にある――があった筈だった。


「……これか!」


普段使用しないそれを引っ張りだし、テーブルを囲んで配置する。

そして座っているアルタコを優しく持ち上げ――


「失礼しますね」


――不規則に配置されている眼球に指が入らないよう注意しながら、専用の椅子へと降ろしていった。

全員座りなおさせてから、サトゥーは給湯室に移動する。

確かアルタコ向けの保存食もあった筈だった。

戸棚の奥に眠っていたそれを見つけ出し、封を解きながらロビーへ戻ると声を掛ける。


「迎えの船が来ているとの事で現在、合流地点へと向かっています。

 お待ちの間、食事など如何でしょうか? 携帯食ですが……」


テーブルの上にそれらを並べる。


アルタコの口は触腕と呼ばれる触手の先端にあり、基本的には液体、或いは流動体を好んで食する。

携帯食は三角錐のパッケージに封入された液体で、ストローの差込口めいた箇所に触腕の先端を突き入れて中を啜る構造になっていた。

味は「アセチルコリン味」「フェニルエタノールアミン味」「ガストリン放出ペプチド味」「N-アセチルアスパラチルグルタミン酸味」「下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ペプチド味」の5種類。

一応、過去に全て試飲したものの、全部ただの薄い塩味なだけだったので、サトゥーの舌で区別する事は不可能だった。


並べた携帯食に強い関心を示すアルタコ達。

不時着してから10時間以上、ろくに飲まず食わずだったのだから当然だろう。


《こ、心配りに感謝……しかし同時に……えぇと》


しかし何故か、誰も携帯食に触手を伸ばそうとしない。

その理由を、サトゥーはすぐに推察出来た。


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