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第33話 狼の追撃

  村中が一気に騒然とした。


 村を囲う植物と塀が燃えれば、キラーラビットたちに襲われて村は消えてしまう。


四狼しろう、てめぇ!村に火をつけるなんて正気か?!」

「どうやってここを割り出したんです?!探知できないはず――」


「答える義務が、僕にあるかい?」 


 兎田山うだやまが杖から水を放出するが、炎全体は止められない。


「村からでましょう!ここで戦うわけには行きません!」

慧士けいし紫里ゆかりくん!」


 剣と盾を持って、猫宮ねこみやが参戦した。

 村人たちはバケツに水を汲んで、火をつけた四狼を睨んでいる。


審判ジャッジメント――」

「はっ!!」


 剣を鞘にしまった猫宮は、助走をつけて四狼にドロップキックをかました。

 痛烈な一撃によって、四狼は吹き飛ばされる。


 ――そうか、体術コンスティートゥート『スキル』!


 兎田山が水を掛け続けている間に、犬丸もそれを悟って瞬時に、小鳥崎ことりざきに近寄ると魔法の杖をへし折り、空鷲そらわしの顎にしなやかで重い蹴りを放った。


「あにすんだよっっ、イヌマルクンってキックボクシングでもしてんの?!」

「杖が折れたからって、魔法が使えなくなったわけじゃないですからね。観念しやがれです」

結界シールド!」


 倒れた空鷲たちに構わず、兎田山は犬丸と猫宮に 結界シールドを張る。

 猫宮は小鳥崎に足払いをかけつつ投げ飛ばし、四狼を背負い投げた。

 犬丸も、空鷲を引きずって疾走し、絞め技で空鷲を沈めると、ブラックウルフ三体が姿を消す。


「なるほど?レベル十に上がって、体術系『スキル』を手に入れたというわけか」

「それこそ、貴方に説明する義務は無いわ」


 テイマーの空鷲さえ封じれば、四狼たちに近距離戦が通じる。

 猫宮は剣を抜いた。

 当てる気はない――だがそれを悟られたくは無い。


「言いなさい、どうやって私たちの居所を掴んだの?」

「私たち?勘違いしないで欲しいね、僕が必要なのは犬丸――」

「わ・た・し・た・ち・よ。私の慧士に近づく権利なんてないわ」


 殺気がはらみ、剣先が四狼の顔すれすれに飛ぶ。

 剣術ソードプレイの『スキル』によって、今まで振り回していた剣が、いとも容易く意思通りに動いた。


「シローを脅かしたって意味ないもんね!俺の獣化メタモルフォーゼの嗅覚でイヌマルクンの匂いから居場所見つけてんだから!」

「黙れ、リアム!余計なことを言うな!」

「ええええーー?!推しが思ったより気持ち悪い……!いえ、この場合元推しがやらせてることが気持ち悪い??犬丸くんの匂い???ちょっとそれは想像しませんでした」


 鼻血を垂らす空鷲が起きあがった瞬間、火を鎮火した兎田山が駆けつけたが、その発言にドン引きする。兎田山にしては珍しい反応だ。

 そして、兎田山と猫宮の心の声がシンクロした。

 ――口の軽い空鷲を狙う!


「凄いですね、空鷲リアムくん!僕たちの隠密ブレスレットの効果を打ち破るなんて、天才?」

「空鷲くんがいないと、四狼くんのチームって成り立たないのかもしれないわ。どこで慧士の匂いを知ったのかしら」


 猫宮が反撃しようとした四狼の喉元に、的確に一センチ手前で剣を指すと、四狼はひゅっと息を呑む。


「へへーん、そーだろそーだろ??シローが学校で盗んできたイヌマルクンの体操着嗅いでさー!風邪ひいて鼻が効かなくてめっちゃ怒られたんだけど風邪薬飲んだら、嗅覚戻ったんだぜ!姿が見えなくたって、匂いがすればどこだかわかるってもんよ!」


 隠密ブレスレットが効いてたと思っていたが、あのとき空鷲は確かにくしゃみをしていた。

 残念ながら、隠密ブレスレットのお陰ではなく風邪だったと分かってガックリする。


 それにしても、犬丸の体操着を盗む生徒会長に、それを嗅ぐエースストライカー。なかなかに酷い絵面だ。

 背筋がゾワゾワして、犬丸が空鷲から手を離してしまうのも仕方がない。


「四狼先輩を離しやがれです!!速度上昇スピードバフ攻撃上昇アタックバフ!」


 小鳥崎が自身にバフをかけて殴りかかってきたが、瞬足スピードアクセル体術コンスティートゥートがある猫宮パーティからすると、全員スローモーションに見えた。

 そもそも、殴りかかられた猫宮の 結界シールドすらも割れないだろう。


 猫宮はもう一度投げ技で四狼を飛ばし、兎田山が杖で小鳥崎の足を掬って組み伏す。


「余計なことはしないことです。あなた自体は相手にバフをかけることが仕事。近接戦闘ができるはずがありません」

「その言葉そのまま返しやがりますよ。魔法使いの『ジョブ』が、なんでこんな芸当できやがるんです?」

「まあ、そこは、レベルあがった時の選択肢が奇跡的だったと言いますか」


 しれっと嘘を並べて煙にまくと、四狼に杖を向けた。 


「二度と犬丸くんを追いかけないと誓ってください、元推しメン」

「残念ながらそれはないね――星々の嘆き《スター・ラメント》!」


 土砂崩れの『スキル』に、兎田山もとっさに結界シールドを張って自分の身を守る。

 四狼は空中移動スカイムーブメントで、空へと離脱した。


 猫宮たちも飛行フライで追うことは可能だが、人間を『スキル』で攻撃はできない。万が一にも死なせたら――その罪を背負うほどの覚悟はない。


「こちらも強くなって出直すとしよう――犬丸、小二のことを思い出せ」

「はあ?!わけわかんねーんだよ、降りてこいクソバカが!!!」


 犬丸が怒りに吠えたが、いつの間にかじわじわと接近してきたキラーラビットを叩きのめしてから魔銃で撃つ。


「あなた達を置いていくような人と、この先もパーティを組むの?身勝手すぎると思わない?」

「うーんでも誘ってくれたのシローだしなぁ」

「今回はたまたまです!四狼先輩は絶対なのです!!」


 猫宮はため息をついた。空鷲はともかく、小鳥崎は絶対に四狼から離れそうにない。


「じゃあ、俺たちはシロー追っかけるから、またなー」


 空鷲の影からブラックウルフが二体、出現した。

 小鳥崎が這いながら、その背に乗る。


「あっそうだ、空鷲くん。イケてる男は語尾ににゃんと付けるんですよ?知ってましたか?」

「まじで?!知らなかったぜ、ありがとなーウダヤマクーン、またにゃん!」

「空鷲先輩、てめぇ、その軽い脳みそどうにかしてくださいやがれ!」


 言い争いながらも、二人も村から遠く去っていった。

 猛然と、ビッグラビットが自分より小さい猫宮に体当たりをしかけて、猫宮は空中で一回転すると剣を一閃する。ビッグラビットがあっという間に地面に転がった。


「――ラーニングスクロールに助けられたわ」

「俺、二度と体操着漁られないようにするわ……まじでキモイ」

「にゃんを信じるとは……。でも四狼くんはなんだかんだ、懲りそうにないですねぇ。次来たら、また空鷲くんの頭を狙いましょうか。なかなか致命的です」


 アイテムボックスに倒した魔物を入れて村に戻ると、魔物避けのお香を焚きながら新しい柵を立てていた。

 猫宮と兎田山とで、異世界語で詫びるが、追い払ってくれたことと消火を手伝ってくれたことを感謝される。


 そもそも、向こうの狙いは犬丸だったからこちらでなにか村に補填すると言ったが、カレーや肉に助けられたからと遠慮された。


[イヌマルさんが狙われたのは料理の腕のせいなのですか?]

[いえそれは……どうでしょう]


 四狼が体操着を盗んでまで犬丸に執着する理由は、猫宮たちには分からない。

 向こうの言い分によれば小二の頃になにかあったららしいのだが、犬丸は首を横に振り続けていた。


 村人たちからしたら、村を焼こうとする人間に協力する気は起きないだろう。

 狙われた理由はうやむやになりつつも、カナヤ村でも兎田山たちに味方すると言われた。


 一晩寝て、起きたらまたレベル上げを頑張ろう。

 四狼たちは色んな意味での難敵だが、本来は放浪者ノーマッドたちの目的はエンドゲートのできた理由解明である。


 まだまだレベルの上では初心者だった。

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