「わが名は太陽の女神エイルフの加護のもと、勇者となったエイゼンなりーー!!!! 押しとおーーる!!!!」
僕は名乗りを上げて二百万の連合軍の中から、一騎だけ駆け抜け魔王軍に向って走りだした。
「ぜんぐーーん!! 突撃ーー!!!!」
「うおおおぉぉぉぉぉーーーーーーーーー!!!!!!」
その背中を連合軍が喊声を上げて走りだした。
その足音は地震のように大地を振るわし、ゴゴゴォォォと大地を這う重低音が僕の肌を振るわせた。
敵は、魔王城を背に背水の陣の魔王軍だ。
ここまで、ずいぶん倒してきた魔王軍だったはずだが、最後の砦魔王城の前には百万を超える魔人兵がいる。
「ぜんぐーーん、遠距離攻撃だーーーーーー!!!! みなごろしにしろーーーー!!!!」
魔王軍の将軍が言った。
その言葉で魔王軍は矢と魔法で攻撃を仕掛けてくる。
晴天の空から太陽が見え無くなるほどの攻撃がはじまった。
僕はすかさず右手に持った、女神エイルフの勇者の剣を天に向けた。
巨大な魔法陣が宙に浮き出る。
「エイルフの防壁!!!!」
僕の言葉と同時に巨大な光の壁が魔王軍の攻撃をさえぎった。
その光の壁が魔王軍の攻撃を全て跳ね返し、敵の攻撃は連合軍の上にはただの一つも届かなかった。
「すすすすす、すげーーーーー!!!!!! エイゼン勇者さまーー!!!! ばんざーーい!!!!!! うおおおおぉぉぉぉーーーーーー!!!!!!」
連合軍から歓声が上がった。
「くそーーーー!!!! 全軍突撃ーーーーーー!!!!!!」
遠距離攻撃を無効化された魔王軍の将軍が吠える。
「ぐおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーー!!!!」
地鳴りの様な気味の悪い声が戦場に響いた。
同時に魔王軍も走りだした。
僕は目の前を走ってくる魔王軍の兵士に、女神エイルフの剣を真っ直ぐ前面に向けてさし出した。
「エイルフの閃光!!!!」
魔法陣が展開すると、中央から回りが何も見えなくなるほどの光の帯が飛び出した。
「ぐあああああああぁぁぁーーーーーーーーーーっっ!!!!!!!!!!」
「な、な、なんなんだ、なんなんだあの攻撃はーー!! ふざけるなーーーー!!!!」
僕の放った閃光が、魔王城に続く巨大な花道を作った。
閃光が当たった魔族達は一瞬で蒸発した。
「くそ勇者めーーーー!!!! 魔王城には魔王軍最強の親衛隊と魔王の七剣がいる。魔王様のところにはいけねーーーーぞーーーー!!!!」
罵声を上げる魔王軍の兵士の間を僕は勇馬イルフに乗って駆けにかけた。
「勇者はもういい間に合わねえ!!!! 人間の兵士を殺せーー!!!!」
魔将軍は、兵士達に指示を出した。
「エイルフの閃光!!!!」
固く閉じられた魔王城の城門だが、光が当たった部分が消えて無くなった。
「勇者が来るぞーー!!!! 一歩も行かせるなーー!!!!」
城門をくぐると魔王の親衛隊が次々僕に向って集ってくる。
僕は親衛隊を、通行に邪魔な者をねらって蹴散らしながら魔王城の中庭を進んだ。
そして、魔王城の玄関扉の前に到達した。
魔王城の玄関扉は、驚いた事に僕が前につくと自動的に開いた。
「勇者エイゼン殿、ここは我らがお相手いたす。七対一にはなりますがよろしいですかな?」
一階のエントランスには七人の強面の体の大きな魔人が立っている。
「望む所です」
「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」
七人が一斉に襲いかかって来た。
「そなたが、勇者エイゼン殿か!?」
魔王城の玉座の間、その玉座に巨大な男が静かに座っていた。
「はい!!」
「ふふふ、血だらけではないか? 大丈夫なのか?」
「心配には及びません」
――それに、この血は全部返り血で僕の血は一滴も流れていませんからね。
「そなたは強いのう、どうじゃ、わしとくまんか? 世界を手中にした時には半分くれてやるぞ」
「ありがとうございます」
「おおっ!!!!」
魔王がうれしそうに笑った。
だが、魔王の笑顔は背筋が寒くなるほど不気味だった。
「ですが、僕はこの戦いが終わったら、静かに暮らしたいのです。どこかの田舎でのんびりと落ち着いて暮らしたいだけなのです」
「ひゃぁーーはっはっはっ!!!! ならば死ねぇぇぇーー!!!!」
魔王は玉座から立つと、真っ黒な気持ちの悪い刀身の剣を振りかぶった。
そして、その暗黒の剣を振り降ろした。
「なるほど、魔王様の実力はこんな物だったのですね」
「うぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!」
僕は、素早く魔王のふところに飛び込むと、右手で魔王の踏み出した足の太ももを殴った。
魔王の足は、殴ったところでグニャリと曲がり大きな悲鳴を上げた。
「勇者エイゼン!!!! 敵、魔王討ち取ったりーーーー!!!!」
僕は窓の無い魔王の玉座の間の壁をぶち破り、外の全軍に聞こえる様に大声を出した。
僕は王城の一室で待機を命じられ、二週間ほどのんびり過ごしている。
ふふふ、あれほど恐れられていた魔王は実は大したことが無かった。
ずいぶん長いこと訓練をしたのだが、今思えばもう少し短い訓練でもよかったように感じる。
「勇者エイゼン様、陛下がお呼びです」
「おおっ!! やっとですか。待ちくたびれました」
「こちらへ」
案内されたのは、かつて勇者召喚をしていた広間だった。
もうずっと使われていなかったので、少し汚れている薄暗い巨大な空間だ。
召喚勇者は強いが、大体横暴で最後は魔王に負けてしまう。
そこで、勇者召喚はずっと行なわれていなかったのだ。
そんな時に僕はこの世界で生まれ、女神様の加護により勇者になった。
もとは、ただの農民だ。
「おおっ、勇者エイゼン!! こちらじゃ!」
王様が笑顔で手招きをする。
王様以外には宰相と護衛の兵士が百名程いる。
僕は臣下の礼をして、平伏したまま質問をした。
「陛下、このような場所で何をなされるのですか?」
「ふむ、そなたの今後についてじゃ。そなたには感謝しても仕切れないほどの大恩ができた」
「あはは、そのようなこと。どうかお気になさらずに、どうせ天涯孤独の身、このまま外に放り出してもらえばそれだけで良いですよ。何もいりません」
「ふむ。で、あるか」
そう言いながらも、まだ何かいいたそうだ。
「なんですか?」
「まだこの事実は発表されておらぬのじゃが、この場所は異世界から勇者の召喚も出来るが、実は異世界に転送も出来るのじゃ。そなたには、異世界へ行って様子を調べて来てもらいたいのじゃ。いずれこの世界は平和になる。そうすれば人口が増え、やがて別天地を求める事になるじゃろう。その時の為の調査じゃ。そ、そう調査なのじゃ」
なるほど、魔王が死んだ今、僕は用無しということなのだろう。
いや、むしろ邪魔者か。魔王を倒すほどの力は脅威でしかない。
ていのいい追放だ。
まあ、殺されないだけましか。そう思うことにした。
「うふふ、そうですか。どうせ天涯孤独の身、好きにして下さい」
近くに控えていたのだろう、魔導師がゾロゾロ入って来て部屋に魔法陣が浮き上がり僕は見知らぬ世界に転送された。