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0077 里帰り

「じゃあね、エイリちゃん。ノブコちゃん」


ユウキはマモリ様と一緒に安土山の神社に帰る気のようです。

交通費が節約出来ますからね。


「八月になったら行きますわ!!」

「八月になったら必ず行きます!!」


エイリとノブコの声が合わさります。


「はい、心からお待ちしています」


「うふふ、楽しみですわ!!」

「うふふ、楽しみー!!」


エイリとノブコは、コロシアムの上のファルコンが経営する巨大高級ホテルのスイートルームに、部屋を取ってもらってそこに泊まるようです。

護衛は三狂獣と島津ヒサシが申し出てくれました。


「じゃあ、ガンネス、後は頼みます。僕は山へ帰ります」


「はっ、万事、このガンネスにお任せください」


こうして、マモリ様とユウキ、ダニー、ズラー、デェスちゃんのカッパ3兄弟、新たな仲間のコングとミミイちゃんが、そろって山に帰ります。






安土のお山は既に真っ暗です。


「みんなは疲れたでしょ。ここでゆっくりしてください。僕はユウキを家まで送っていきます」


「はっ!!」


ユウキ以外の皆が返事をしました。

ユウキは、安土のお山の神社に着いた瞬間から目がウルウルしています。

鳥居をくぐって、階段を数段降りて皆の姿が見えなくなると、マモリ様に抱きつきます。


「ちょっとー、あぶないよーー」


神社の長い階段で急にユウキに抱きつかれて、少しバランスを崩しながらマモリ様は言いました。

マモリ様は平常運転です。

今日も昼過ぎまでいましたからね。


「か、帰って来たーー!! 帰って来たあーーーー!! うっうっうっううっっ」


マモリ様の胸に顔をうずめて泣き出しました。


「うふふ、ユウキ!! おかえり!!」


マモリ様はユウキをお姫様抱っこします。


「うん! ただいま!!」


「行くよ!!」


マモリ様がいたずらっぽく言うと、ユウキはうれしそうにうなずきました。


「きゃぁーーーーあああ!!!! ちょっとーー、あぶないよーー」


マモリ様は、階段を数回のジャンプで降りてしまいました。

神社の長い階段の下で、今度はユウキがマモリ様のように言いました。


「あはははは」


二人は顔を見合わすと、大声で笑いながらおばあさんの家へ急ぎます。

安土のお山をおりれば、おばあさんの家まではすぐです。

おばあさんの家の前に着くと、マモリ様はユウキを降ろしてから引き戸をノックします。

ガチャンガチャン、壊れそうな音がします。


「あいとるよーー!! 鍵などしておらん!! 叩いたら壊れてしまうじゃろー」


中から元気なおばあさんの声です。

ユウキの顔が満面の笑みに変わります。


「お、おじゃまします」


キュルキュルキュル、神様はゆっくりゆっくり引き戸を開けます。


「もう、神様は、なんでおばあちゃんの家だと、必要以上にゆっくりになるのかなあーー」


ユウキがマモリ様の手に自分の手を添えてグイッと力を入れます。

ガチャーーン!! すごい勢いで引き戸が開き大きな音がしました。


「なっ! なんじゃーー?? ユ、ユウキもおるのかーー!!」


さすがは、おばあさんです。

戸の開け方で誰が来たのか、わかってしまうようです。


「ユウキはいつもこんな勢いで開けるのですか?」


マモリ様は余りの勢いに驚いています。


「そうだよ。自分の家だもん」


「ばかたれーー!! 自分の家でもかげんはせんかーーこのどあほう!!!!」


怒りながらおばあさんは玄関まで出て来ると、とてもうれしそうです。

もう、目に涙が一杯溜まっています。


「ふひっ!!」


ユウキが思わず吹き出しました。


「おかえり、ユウキ!!」


「ただいまーー!!!! おばあちゃーーん!!!! ふぎぃぃぃーー!!」


ユウキはおばあさんに抱きつきます。

我慢しながら泣いているためか、泣き声がおかしいですよ。


「これ、神様!! 何を帰ろうとしておるのじゃ!! ちょっとよっていかんか? どうせ暇なんじゃろ」


「暇ですけど、わかってもらえないかなあ、僕は二人きりにしようと気を使ったのですけどねえ」


「ふん、たった四ヶ月程度離れていただけじゃ。感動の再会なんかあるものか。ほれ、あがったあがった!」


「ふふっ、ありがとうございます」


そう言いながら、おばあさんの目からは滝の様に涙があふれて、鼻水が雪国の大きな家の軒下の、つららのように垂れ下がっています。

マモリ様はそれを見て少し笑っています。

笑っているマモリ様の目からも涙が出ていますよ。


「うわあぁーー、おいしそう」


お茶の間に入ると、ちゃぶ台におにぎりと切ったぬか漬けが置いてありました。


「うふふ、神様の分も作ってある」


「ありがとうございます」


神様が御礼を言っている最中に、もうユウキはおにぎりを食べ始めました。

ぬか漬けもつまんで一切れ口に入れてポリポリいっています。


「こ、これ、ユウキ!! 手を洗ってこないか!」


おばあさんが笑いながら怒ります。

ユウキと神様は仲良く洗面台で綺麗に手を洗います。

洗面台から戻りながら、ユウキはおばあさんに話しかけます。


「あのね、おばあちゃん。神様はすごいんだよ。また、仲間が増えました」


「ほう、それはすごいのう。まるで、桃太郎みたいじゃのう」


「ほんとほんと、鬼ヶ島へ鬼退治に行けそうです」


御供のカッパと天狗と鬼を連れて、って、ユウキ! 鬼を連れて行ったら駄目じゃないかなあ。


「のう、神様、それだけ仲間が集ったのなら、お盆に盆踊りをやってもらえんかのう」


「わあぁ!! それいい!! すごく楽しそう!!」


ユウキの方が先にうれしそうにしています。


「盆踊りですか。具体的には何をするのですか?」


「ふふふ、やぐらを組んでそのまわりを踊ったり歌ったり、お祭りをするのじゃ。昔は安土の山神様に、奉納する祭りもかねておって村人総出で楽しんだものじゃ。わしが娘の頃は盛大にやっておったのじゃがのう。最期の思い出に、にぎやかな盆踊りが見て見たい」


ユウキは、はしゃいでいましたが、おばあさんの最期という言葉を聞いて一瞬暗い表情になりました。


「うふふ、いいですね。盛大にやりましょう。色々声をかけてみます」


マモリ様が、声をかけたら大勢集りすぎるかも知れませんよ。

こうして、夏休みの盆踊りの開催が決まりました。

一体どんなお祭りになるのでしょうか。

ふふっ、おばあさんが子供の頃には盛大にやっていましたね、思い出しました。

神社に一杯お供えをしてもらったのも思い出しました。


「うふふ、山神様が踊っています」


「山神様も喜んでくれているみたいですね」


ユウキが言うと、マモリ様がうれしそうにそれに答えました。

いけません。私はうれしくて踊っていたようです。

この集落で盆踊りなんてどれだけぶりでしょうか。

やっぱり、うれしいものですね。

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