「じゃあね、エイリちゃん。ノブコちゃん」
ユウキはマモリ様と一緒に安土山の神社に帰る気のようです。
交通費が節約出来ますからね。
「八月になったら行きますわ!!」
「八月になったら必ず行きます!!」
エイリとノブコの声が合わさります。
「はい、心からお待ちしています」
「うふふ、楽しみですわ!!」
「うふふ、楽しみー!!」
エイリとノブコは、コロシアムの上のファルコンが経営する巨大高級ホテルのスイートルームに、部屋を取ってもらってそこに泊まるようです。
護衛は三狂獣と島津ヒサシが申し出てくれました。
「じゃあ、ガンネス、後は頼みます。僕は山へ帰ります」
「はっ、万事、このガンネスにお任せください」
こうして、マモリ様とユウキ、ダニー、ズラー、デェスちゃんのカッパ3兄弟、新たな仲間のコングとミミイちゃんが、そろって山に帰ります。
安土のお山は既に真っ暗です。
「みんなは疲れたでしょ。ここでゆっくりしてください。僕はユウキを家まで送っていきます」
「はっ!!」
ユウキ以外の皆が返事をしました。
ユウキは、安土のお山の神社に着いた瞬間から目がウルウルしています。
鳥居をくぐって、階段を数段降りて皆の姿が見えなくなると、マモリ様に抱きつきます。
「ちょっとー、あぶないよーー」
神社の長い階段で急にユウキに抱きつかれて、少しバランスを崩しながらマモリ様は言いました。
マモリ様は平常運転です。
今日も昼過ぎまでいましたからね。
「か、帰って来たーー!! 帰って来たあーーーー!! うっうっうっううっっ」
マモリ様の胸に顔をうずめて泣き出しました。
「うふふ、ユウキ!! おかえり!!」
マモリ様はユウキをお姫様抱っこします。
「うん! ただいま!!」
「行くよ!!」
マモリ様がいたずらっぽく言うと、ユウキはうれしそうにうなずきました。
「きゃぁーーーーあああ!!!! ちょっとーー、あぶないよーー」
マモリ様は、階段を数回のジャンプで降りてしまいました。
神社の長い階段の下で、今度はユウキがマモリ様のように言いました。
「あはははは」
二人は顔を見合わすと、大声で笑いながらおばあさんの家へ急ぎます。
安土のお山をおりれば、おばあさんの家まではすぐです。
おばあさんの家の前に着くと、マモリ様はユウキを降ろしてから引き戸をノックします。
ガチャンガチャン、壊れそうな音がします。
「あいとるよーー!! 鍵などしておらん!! 叩いたら壊れてしまうじゃろー」
中から元気なおばあさんの声です。
ユウキの顔が満面の笑みに変わります。
「お、おじゃまします」
キュルキュルキュル、神様はゆっくりゆっくり引き戸を開けます。
「もう、神様は、なんでおばあちゃんの家だと、必要以上にゆっくりになるのかなあーー」
ユウキがマモリ様の手に自分の手を添えてグイッと力を入れます。
ガチャーーン!! すごい勢いで引き戸が開き大きな音がしました。
「なっ! なんじゃーー?? ユ、ユウキもおるのかーー!!」
さすがは、おばあさんです。
戸の開け方で誰が来たのか、わかってしまうようです。
「ユウキはいつもこんな勢いで開けるのですか?」
マモリ様は余りの勢いに驚いています。
「そうだよ。自分の家だもん」
「ばかたれーー!! 自分の家でもかげんはせんかーーこのどあほう!!!!」
怒りながらおばあさんは玄関まで出て来ると、とてもうれしそうです。
もう、目に涙が一杯溜まっています。
「ふひっ!!」
ユウキが思わず吹き出しました。
「おかえり、ユウキ!!」
「ただいまーー!!!! おばあちゃーーん!!!! ふぎぃぃぃーー!!」
ユウキはおばあさんに抱きつきます。
我慢しながら泣いているためか、泣き声がおかしいですよ。
「これ、神様!! 何を帰ろうとしておるのじゃ!! ちょっとよっていかんか? どうせ暇なんじゃろ」
「暇ですけど、わかってもらえないかなあ、僕は二人きりにしようと気を使ったのですけどねえ」
「ふん、たった四ヶ月程度離れていただけじゃ。感動の再会なんかあるものか。ほれ、あがったあがった!」
「ふふっ、ありがとうございます」
そう言いながら、おばあさんの目からは滝の様に涙があふれて、鼻水が雪国の大きな家の軒下の、つららのように垂れ下がっています。
マモリ様はそれを見て少し笑っています。
笑っているマモリ様の目からも涙が出ていますよ。
「うわあぁーー、おいしそう」
お茶の間に入ると、ちゃぶ台におにぎりと切ったぬか漬けが置いてありました。
「うふふ、神様の分も作ってある」
「ありがとうございます」
神様が御礼を言っている最中に、もうユウキはおにぎりを食べ始めました。
ぬか漬けもつまんで一切れ口に入れてポリポリいっています。
「こ、これ、ユウキ!! 手を洗ってこないか!」
おばあさんが笑いながら怒ります。
ユウキと神様は仲良く洗面台で綺麗に手を洗います。
洗面台から戻りながら、ユウキはおばあさんに話しかけます。
「あのね、おばあちゃん。神様はすごいんだよ。また、仲間が増えました」
「ほう、それはすごいのう。まるで、桃太郎みたいじゃのう」
「ほんとほんと、鬼ヶ島へ鬼退治に行けそうです」
御供のカッパと天狗と鬼を連れて、って、ユウキ! 鬼を連れて行ったら駄目じゃないかなあ。
「のう、神様、それだけ仲間が集ったのなら、お盆に盆踊りをやってもらえんかのう」
「わあぁ!! それいい!! すごく楽しそう!!」
ユウキの方が先にうれしそうにしています。
「盆踊りですか。具体的には何をするのですか?」
「ふふふ、やぐらを組んでそのまわりを踊ったり歌ったり、お祭りをするのじゃ。昔は安土の山神様に、奉納する祭りもかねておって村人総出で楽しんだものじゃ。わしが娘の頃は盛大にやっておったのじゃがのう。最期の思い出に、にぎやかな盆踊りが見て見たい」
ユウキは、はしゃいでいましたが、おばあさんの最期という言葉を聞いて一瞬暗い表情になりました。
「うふふ、いいですね。盛大にやりましょう。色々声をかけてみます」
マモリ様が、声をかけたら大勢集りすぎるかも知れませんよ。
こうして、夏休みの盆踊りの開催が決まりました。
一体どんなお祭りになるのでしょうか。
ふふっ、おばあさんが子供の頃には盛大にやっていましたね、思い出しました。
神社に一杯お供えをしてもらったのも思い出しました。
「うふふ、山神様が踊っています」
「山神様も喜んでくれているみたいですね」
ユウキが言うと、マモリ様がうれしそうにそれに答えました。
いけません。私はうれしくて踊っていたようです。
この集落で盆踊りなんてどれだけぶりでしょうか。
やっぱり、うれしいものですね。