とうとう、その日がやって来ました。
「うふふ、完成デェス」
ユウキの夏休みがおわり、文化祭も終わって僕はいつもの様に、安土のお山の神社の境内で、男らしくデェスにお化粧をしてもらいました。
デェスと僕は今日も放課後、幸魂女学園の部室に行くため、制服も着終わって、後はユウキ達の授業が終わるのを待っています。
「た、たいへんニャーー!!」
そんな時に、安土様があわてています。
「ふふふ、僕がいつもその手に引っかかると思ったら大間違いです」
「ニャンで、マモリ様は本当に大変な時にはあわてニャいかなあ」
「あっ、いつもより早く、ユウキ達が部室で呼んでいます。デェス行きましょう」
ユウキとエイリとノブコが、同時に爪を擦り合わせています。
呼び出されたわけは、安土様のあわてている理由ときっと同じでしょう
「かみさまー!! おこしくださーーい!!」
幸魂女学園の軽音部の部室にはすでに全員勢揃いです。
「やあ、呼んだ?」
「な、何を、のんきにーー!!!! たたた、たいへんでーす!!」
ユウキが眉毛をつり上げて言いました。
相変わらず可愛い顔をしています。
「はい、はい。いったい、何があったのですか?」
「これを見てください」
ユウキは、いつものネットの映像を見せてくれました。
それは、国会の映像です。
議員が勢揃いしている所に、軍服の男が入り込んできました。
「私は、アッガーノ王国極東方面軍司令官です。日本国に宣戦を布告するためにお邪魔しました。こちらの世界の作法をよく知らないので直接お邪魔させてもらいました。まあ、大日本帝国軍の様にトラトラトラとやっても良かったのですが、我々は奇襲というのを、弱い者が苦し紛れにやる作戦だと思っていますので、こうして私が宣戦を布告するために、お邪魔したしだいです」
国会の最中に、極東方面軍の司令官が十人程の護衛と共に不法侵入しました。
まさか、アッガーノ王国がこんなやり方をするとは思っていませんでした。
司令官は、恐らく安土様が教えてくれたロッカー司令官でしょうね。
とても、たいへんな状況です。
でも、僕はなぜか焦りはなく、落ち着いています。
「おのれ、不審者め! 衛視は何をやっている。警察をよべーー!!!!」
「これは、これは、岸破茂雄首相。不審者とはご挨拶ですなあ。いま、ちゃんと名乗りましたのに。テレビカメラはあれですか。日本国民の皆さん、こんにちは、これより我々アッガーノ王国が、日本を占領するため宣戦布告します。とても残念ですが、我々極東方面軍は、非武装の国民の殺害の許可が下りています。ですので、今のうちに逃げる事をおすすめいたします。逃げる場所は、アフリカ大陸を用意しました。この世界の人々の保護区です。一切の攻撃をしませんので、避難をおすすめいたします」
「バカが!! この、不審者を逮捕しろ!!」
岸破首相が、司令官を指さしました。
衛視が、警察官を呼んで来たようです。
「動くな!!」
警察官が銃をかまえました。
それを見て司令官の護衛が、腰の剣に手をかけました。
ここまでは、録画の映像だったみたいですね。
「ふふふ、ほう。せっかく丁寧にお話しておりますのに、不審者扱いですか? まったく下等な猿には言葉が通じないらしい。首相、先に銃をかまえましたが、それを、宣戦布告を受領したと受け取らせていただきます。おい、やれ!!」
ザッ、ザッと野菜を切るような音がします。
司令官の護衛の動きは素早く、警察官は全く動くことが出来ません。
警察官の首が切りとられ、護衛が髪をつかんでぶら下げています。
首のない胴体がドサドサと床に倒れました。
心臓がまだ動いているのか、頭の切り取られた首から血がビュッ、ビュッと噴き出します。
司令官の護衛が、警察官の首を高く上げました。
「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」
「きゃあああああああぁぁぁーーーーー!!!!!!」
国会議員が悲鳴を上げて扉に走ります。
「ふん、豚の様に逃げおってバカが!! 参議院選で少数与党を圧倒したくせに、消費税も無くさず、米価もさげられない無能共が!!」
「ぶひぃーーぎぃぃぃ!!!!」
「ちっ、本当の豚の様に悲鳴を上げるのが首相とは、日本国民に変わって言ってやるか! 泣けるぜ!! ――んんっ!??」
司令官が驚いています。
司令官の視線の先に一人だけ、逃げない人がいるようです。
「お、お爺様です!!」
ノブコが言いました。
「なんだ、じいさん。恐くて動けないのか? それともボケてしまって状況が理解出来ないのか??」
「なめるな、若造が!! ふふ、日本をある程度勉強しているようだが、まだ勉強が足らんようだな!! たとえ、死ぬとわかっていても巨大な敵に突っ込んでいけるのもまた日本人だ。硫黄島で戦った多くの戦士は、赤紙で呼び出されたばかりの、直前まで非戦闘員だったものだ。非戦闘員が国を、家族を守るためなら、歴戦の勇者のように戦うことができるのも日本人だ」
いいながら、信作爺さんが小指をズボンに擦りつけています。
夏祭りの時に、信作爺さんの小指にも紋章を付けてあります。
「あっ、信作爺さんが呼んでいる。デェス行こうか」
僕とデェスは、国会の議場の扉の外に移動しました。
「ふふふ、じじい!! くっくっくっ、日本人の中には、やはりいたか。私は少し感動している。じじい、名前は?」
「ふん、このわしを、じじいだと。まあいい、旧仲信作じゃ!!」
「私は、じいさんこそ、この国の元首にふさわしいと考える。あんたを暫定政権の元首と認めよう」
「おじいさん、呼びましたか?」
僕とデェスは、信作爺さんの横に護衛の為並び立ちました。
「ふふふ、マモリ様の言うとおりになったようじゃのう」
信作爺さんは、小声で僕に話しかけました。
「げえぇ、あ、あれは、デェスちゃん」
司令官の護衛から、デェスの姿を見て驚いている者がいます。
良く見たら、高橋四郎です。高橋一郎から三郎まで全員勢揃いです。
でも、あいつら、負けたらすぐに帰ったから、僕の事は知らないみたいです。
「ふん、そんな面倒臭いものはいらん。それより、わしを殺さないのか? 命を捨てる覚悟はとうに出来ているのじゃがなあ」
「ふふふ、私に上等を言ったんだ。これより、地獄を見せてやる。最期まで見ておいてもらおう。死んだ方がよかったと言わせてやる。ふふっ、一時間だけ時間をやる、戦闘の準備をするんだな」
僕達は国会議事堂の外に出ました。
「旧仲先生!!」
「ああ、岸破首相」
岸破首相は、テレビ中継を見ていたのか、旧仲信作じいさんを見つけるやいなや、話しかけてきました。
「旧仲先生、あんた、まさか首相をするつもりなのか??」
「ふふふ、あんたは、この後、どうするつもりなんじゃ」
「こっ、このあと…………一国の首相がこのような場所で過程の話などできませんなあ」
「くくくっ!! なら、あんたがそのまま首相をやるといいじゃろう。そして、楽しい安全な日本にするといい」
「ふふふ、そうですか。我々には、警察も自衛隊もある。アッガーノだかなんだかしらんが、叩きつぶしてやる」
「マモリ様、自衛隊はどの程度有効かのう?」
「おそらく、無力です」
「ふふっ、それは楽しみじゃ。マモリ様、ノブコの所へは行けますかのう?」
「できます。少し人気のないところへ行きましょう」
僕達は、人目のないところまで移動して、幸魂学園の軽音部の部室へ瞬間移動しました。