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0107 さみしい笑い

本当は一瞬で帰ることが出来るのですが、僕はそんな気持ちにはなれませんでした。

クートは何も言わずに車を走らせます。車の中で僕達は、ミミイさんに変身を解除してもらって、幸魂女学園の制服姿になっています。

車は住宅街の道を走ります。

行くときには、気がつきませんでしたが、こうして落ち着いて風景を見ていると、普段とまったく変わりのない静かな町並みです。


「くふ、来る時に見つけてしまったんです」


お通夜のような車の中だと思っていましたが、ユウキはなんだかうれしそうです。


「なにを見つけたんですのぉ」


「うふふ、牛丼屋さんです」


「牛丼??!!」


「そうです。牛丼です。寄る時間はあるのでしょ」


「時間はたっぷりありますよ」


僕は、笑顔のユウキを見つめながら言いました。


「ほら、あそこ!! 行きましょう。きっとこれが最後に食べる牛丼屋さんの牛丼です」


「!!??」


何気なく言った、ユウキの言葉に僕は驚きました。

車が何台もすれ違います。

この道路には、侵略の影はありません。

いいえ、うすうす知っているけど、無理やり蓋をしているようにも感じます。

なにか、きっかけがあれば、一気に暴発しそうな危なげな緊張感を感じます。


「まずは、チケットを買わないといけません」


お店に入るとユウキが言いました。

エイリがだまってお金を入れました。

幸魂市の駅の近くにあった、牛丼屋さんと同じようなお店です。

チケットを買ってテーブル席につきます。

クートだけは、カウンターです。

番号が呼ばれて、一度に全員分がそろいました。


「いただきます!!」


その後は全員静かに食べ始めます。

僕は、箸が進みません。


「明日は自衛隊と戦うのですわね」


小さな声でエイリが言いました。

エイリも箸が進まないようです。


「ふーーっ!! おいしかった。お替わりを買ってきます」


ユウキが静かだったのは、必死で食べているためでした。

さっさと食べ終わると、お替わりのチケットを買いに行きます。


「あ、あたしも欲しいですのぉ」


ミミイさんが静かだったのもガツガツ食べているためでした。

お替わりは2人とも大盛りを買っています。

店内が僕達だけで良かったです。

すごく目立ちます。


「なんだか、悩むのが馬鹿らしくなってきましたわ。わたくしもお替わりをしますわ」


2人がモリモリ食べる姿を見て、エイリもお替わりです。


「ユウキには不安は無いのですか?」


僕は、美味しそうに牛丼を食べるユウキに聞きたくなった。


「えっ!?」


ユウキは驚いた顔をして僕を見ました。

でも、口からお肉がぶら下がってブラブラしています。


「くすっ」


ユウキの顔を見て、エイリがすこし笑いました。

ユウキはお肉を箸で口の中に入れると。


「うふふ、不安しかありません。でも、同じ位怒っています」


「怒っている??」


「はい。自衛隊は私達を見て、キュートルプリンセスと言いました。と、いうことは、マーシーさんの幻覚チャンネルを見ているということです。私達が侵略軍と戦って勝ったということも知っているはずです。その上で私達をテロリストとして殺そうというのです。真実がわからないのでしょうか?」


「もし、自衛隊と戦うことになったら、ユウキはどうしたい?」


「うふふ、逃げます。おばあさんのところへ帰って隠れます。日本人を守る人達とは戦えません。そのかわり、全てを自衛隊に任せて山の中でのんびり暮らします」


僕はユウキの答えを聞いて、急に食欲が出て来ました。

僕の選択肢の中には、明日自衛隊と戦って全滅させるという選択肢しか有りませんでした。

でも、逃げるという選択肢もあったのです。

僕はまた、ユウキと安土のお山の神社で仲良く暮らす生活が見えてきました。

そうすると、急に牛丼が美味しくなりました。


「僕もお替わりがしたいのですが」


文無しの僕は誰かにお金を出してもらわないと食べられません。


「では、俺が!」

「わたくしが!」

「私が!!」

「あたしが!」


4人が同時に言いました。


僕は頑張って、追加で4杯食べました。

男ですからね簡単な事です。ゲップ!





「ただいまーーっ!!」


ユウキとエイリが元気よく言いました。


「お帰りなさい。お疲れでしょう。お弁当を買っておきました」


地球防衛義勇軍の幸魂支部の会議室に戻ると、ノブコが笑顔で迎えてくれました。

机の上には牛丼弁当が置いてあります。

どう見ても、5個ではありません。10個ですね。さすがノブコです。

でも、僕のお腹は妊婦さんのようになっています。これは無理かも知れません。

さすがのユウキとエイリも目が泳いで挙動不審になっています。


「あの、自衛隊との交渉は失敗に終わりました。それどころか戦争になりました。申し訳ありません」


僕は、ノブコに深く頭を下げた。


「うふふ、クートさんからすでに聞いています」


「ああっ、そうか!」


この世界には、通信という連絡手段があって、離れていても連絡が取れるのでした。


「マモリ様!! 謝る必要はありません。マモリ様には全く落ち度はありませんから。それに一応、想定内です。なにも心配はありません。こんなこともあろうかとちゃんと手は打ってあります」


「えっ!?」


「うふふ、大丈夫です。万事わたしに、お任せください」


ノブコは自信たっぷりです。

どんな手を打ってあるのでしょうか? すごいですね。


僕は、安心して何気なく窓から外を見ました。

この地球防衛義勇軍の支部はガンネスの巨大倉庫内にあります。

外には巨大駐車場があり、窓からはその様子が見えます。

そこに今日助け出されたのでしょう、東京都の避難民がいます。

今日も大勢助ける事が出来たみたいです。

会長とお母さんとカブランの姿があります。

きっと、今日も大活躍してくれたのでしょうね。働き者ですね。


「これを見てください」


ノブコは1番大きなモニターを指しました。

そこには、有刺鉄線が道路一面に敷設され、土嚢の積まれた内側に機関砲がセットされている光景が映し出されています。

装甲車や戦車の姿も見えます。

市街戦の準備をして、待ち受ける作戦のようですね。


「これは、侵略軍に同行している配信者からの望遠での映像です。すでに自衛隊は準備を済ませているようです」


「ということは、侵略軍次第ですが決戦が明日かもしれないということですか?」


「はい」


ノブコは返事をしてコクンとうなずきました。


「激しい戦いになりそうですね」


「うふふ、はい」


ノブコはさみしそうに笑って返事をしました。

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