「集って下さい」
ガラス張りの会議室のような部屋から、あれは。
オカルト研究部のノブコさんですね。
そのノブコさんが手招きをしています。
「嬢ちゃんと、お母さんも一緒に行きましょう」
カブランさんが、私とお母さんの横に来て言ってくださいました。
でも、私が行ってもいいのでしょうか。
「私なんかが行っても良いのかしら。知らない人ばかりだし」
お母さんがとても不安そうに言いました。考える事は私と一緒です。
部屋にいる人の中に、私はまだ見知っている人が数人いますけど、お母さんには全くいませんからとても不安でしょうね。
あっ、マモリ様が、部屋に入る前に私達を手招きしてくださいました。
お母さんの顔からも、不安が消えて笑顔がこぼれます。
そして、お母さんは私の顔を見ました。
大きな机に、次々恐い顔の男の人が着席します。
私とお母さんは入り口付近の席に座って、入って行く人を見つめます。
横にカブランさんが座って下さいました。
一番奥の真ん中の席に、マモリ様と旧仲信作先生が座りました。
2人の後には、大きなモニターがずらりと並んでいます。
最大のモニターには世界地図があります。
「あれが気になるのか? あれは、現在の世界情勢だ。赤いのが侵略軍の占領した地域だ。配信動画から想定して表示してあるそうだ」
カブランさんが私の視線に気がついて説明して下さいました。
「赤い範囲が多いですね」
「うむ、それに比べて日本は赤い範囲が小さいだろう。世界では、既に日本列島が何個も入るほど赤くなっている。恐らく日本はなめられているのだろうな」
「うふふ、日本人は自国が最高と思っていますが、他の国から見たら、弱小国なのでしょうね」
「ふむ。まあそのおかげで、派遣された敵司令官が間抜けで助かっている。マモリ様を正当評価も出来ていねえ。感謝するしかねえな」
「あの、アフリカの色が白で、他が青なのは何故でしょう」
「ふむ、さすがは嬢ちゃんだな。モニターの左端を見てくれ。あれが現在配信されているアフリカの動画だ」
私は言われたモニターを見て、全身に鳥肌が立ちました。
お母さんの顔も驚きの表情になります。
「な、なんですか、あれは??」
「ふふふ、大勢の難民であふれかえり、食い物がなくなって大混乱している。人間同士で殺し合っているのさ」
どのモニターにも、人々が争っている映像しかありません。
みにくい殺し合いが行なわれているようです。
「ひどい」
お母さんが小さく言いました。
「アフリカは、もう、何処が安全で、何処が危険かもわからない。だから、青ではなく白にしてあるそうだ。侵略軍は、安全地帯と言って、アフリカを攻めないと宣言したが、それは「お前達同士で殺し合って自滅しろ」と言ったのかも知れねえなあ」
私とお母さんの視線は、殺し合う人間の映像に釘付けになりました。
「我が、義勇軍は、初戦を勝利する事が出来ました。いよいよ、日本の自衛隊と侵略軍の戦いが始まります。早ければ明日、私は明後日と想定しています」
ノブコさんが話を始めました。
見ると、作戦会議室の大きな机の椅子は全て埋まり、ガラス張りの部屋の外にも人が大勢集っています。
ノブコさんが少し移動して、世界地図を写していた大きなモニターの前に立つと映像が切り替わります。
映像は、侵略軍に同行している動画配信者の映像になりました。
モニターの映像は細かく分割されて、様々な映像がいっぺんに見ることが出来ます。
私は、家でYHKの放送しか見ていないので、こんなことになっているとは全然知りませんでした。
でも、おかしいですね。
「自衛隊の映像がありません」
お母さんがぽつりと言いました。
私の思ったことを口に出して言ってくれました。
「うふふ、そうですね。普通は、自衛隊のように情報を隠すのが当たり前です。こんな軍事機密を堂々と配信なんかさせるわけがありません。侵略軍は、正々堂々戦っても負けるとは、つゆほども思っていないようです」
ノブコさんがうれしそうに答えてくれました。
そして、続けます。
「義勇軍は、侵略軍を消滅させました。次の侵略軍の攻撃までは少し時間の余裕があるでしょう。この模様は、全世界にマーシーの幻覚チャンネルから配信されました。当然、自衛隊も見ていたはずです。そこで、マモリ様」
ノブコさんが急にマモリ様を呼びました。
「は、はい」
不意だったため、マモリ様は驚いた表情で返事をしました。
マモリ様は、なにかをマグカップで無心に飲んでいました。
驚いて恥ずかしそうな顔も、とても美しくてかわいいです。
「自衛隊に行って、援軍を申し出て下さい。条件的には受けてもらえると思います。共闘して、敵軍を撃退出来れば、世界の希望になると思います」
「さ、さすがは、ノブコですね。本当にさすがです」
マモリ様がとてもうれしそうです。
――えーーっ!!
な、なんですかーー!!
ノブコさんの顔がみるみる真っ赤になります。
表情が乙女になって、両手で顔をおおって、下を向きました。
「ででで、ですが、一応私達は、政府からテロリスト認定されています。危険なので、使者にはマモリ様に行って頂きたいと思います」
「うん、わかった。すぐにいくよ」
「いいえ。今日はもう遅いので、明日で大丈夫です。明日の早朝に行ってください」
「あ、あの、あの、私も行きます」
「私も行きますわ」
ユウキさんとエイリさんです。
下手をすれば、自衛隊に殺されるかも知れないのに間髪入れずに言いました。
すごい二人ですね。
私も行きたいのですが、とても言うことができませんでした。
「危険ですよ」
ノブコさんが心配そうな顔をします。
「大丈夫。僕がマモリます」
「うふふ、では、2人も行ってください。ただ、顔出しはまずいのでキュートルブルーとキュートルイエローの姿で行ってください。それだと、ミミイさんにも行って頂かないといけませんね。ミミイさんはキュートルグリーンの姿で行ってください」
「はいですのぉ」
「では、車の運転は俺が行こう」
銀髪オールバックのイケメンがいいました。
鋭い目つきですが、とても素敵な男性が言いました。
「では、車の運転はクートさんに御願いします」
画面は、地図に変りました。
ノブコさんはさらに続けます。
「これは、推定ですが自衛隊の防衛ラインを入れた地図です。東西に別れ、侵略軍を迎え撃とうと準備をしていると思います。どちらも500メートル級の河の付近に布陣するでしょう。侵略軍は、どうどう国道を進んでいます。先行するのは旅団が一つずつ、遅れて魔導師を含む旅団が続きます。合流すれば1万6千人ずつの師団となるでしょう。我が義勇軍は東西に一部隊ずつガンネスファミリーとファルコンファミリーで行ってもらいます」
地図に侵略軍の部隊が赤く追加されます。そして、義勇軍が緑で表示されました。
私はこのあたりから、国会議員のように睡魔に襲われて居眠りをしてしまったようです。
後で、お母さんに「見事な居眠りでした」と言われました。