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0100 幸魂の戦い

「うわぁっ!! さすがはカブランですね。こんなに大勢、救助してくれるなんて。アスランなんて、さっき帰って来ましたが4人でしたよ」


大勢の救助者と共に広い道路を歩いていると、交差点に集団がいます。

合流のために集団に近づくと、ピンクのフリフリスカートの服を着た、マモリ様がこちらへ小走りでうれしそうに近づいて来ると、そう言いました。


「それは、俺の力ではありません。すべては、このお嬢ちゃんのおかげです」


カブランさんが手柄を私にゆずって下さいました。

恐い顔をしているのに優しいお方です。

それを聞いて、マモリ様が私の方を向きました。


「ああっ、会長じゃないですか!! こんな危険な場所で手伝ってくれていたのですか。心から感謝します」


ごふっ、オカルト研究部の超美少女マモリちゃんです。間違いありません。


「は、はいっ!! いいえ、私のほうこそ助けていただいたのです。手伝うのは当たり前のことです」


ここまで言うと、私は体に力が入らなくなりました。

ずっと、出せる限りの大声を出して、あたりに人影が無いかを集中して探しながら、歩き続けてきました。

疲れていたのかもしれません。

そして津波のように、おとずれる達成感と安心感。

ふらふらと、よろけてしまいました。


そんな私の体をマモリ様は、ふんわりと優しく抱きしめてくださいました。

心配そうな顔が私の顔のすぐ前にあります。

近くで見ても、とても可愛らしい優しい顔です。

今日あったことが、ゆっくり次々思い出されます。

走馬灯のように。

私はこのまま死んでしまうのでしょうか。


うっとりするような優しい時間が過ぎていきます。

薄めを開けると目の前にはマモリ様の顔です。

私は変です。

同性婚というものがありますが、私は余りこころよく思っていませんでした。

女子校なので、女子どうしのカップルがいることも知っていましたが、私はこころよく思っていませんでした。


でも、今はなんだか、その人達の気持ちがわかる気がします。

同じ女性のマモリ様の胸に抱かれていると、溶けてしまいそうに心地良いです。

穏やかで甘やかな気持ちで満たされていきます。


「あれは、キュートルピンクじゃないのか??」

「そうだ、あの可愛い顔は動画で見たキュートルピンクだ! 間違いない!」

「きゅうとるぴんくー、かわいい」


私のまわりの人達から声がします。

小さな子供まで知っているみたいです。


「おお、あそこにいるのは、キュートルスリーのブルーとイエローだーー!!」


キュートルピンクとブルー、イエローの存在は、不安そうにしていた人達の表情を、安心した表情にかえてしまいました。

なぜか、キュートルスリーのブルー、イエローと呼ばれていた戦隊ヒーローの様な2人が、がに股で近づいてきます。

そして、せっかくマモリ様に抱きついている、私の腕を自分達の肩にまわして、グイッとひっぱり、私の体をマモリ様からひっぺがしました。


――なにをさらすんじゃーーこいつらーー!!


おっと、つい心の声が乱れてしまいました。


「あのー、会長!! いつまでひっついているつもりですか?」

「鼻の穴がおっぴろがって、みっともありませんわ」


この声は、同じ部活のユウキさんとエイリさんです。


「コスプレですか?」


「違います。本物です」

「違いますわ。本物ですわ」


「疲れているのなら、これを飲んで下さい。私達にはまだまだ仕事が残っていますよ」


「えーーっ!! また、あの苦いまずい薬ですかーー!!」


私は、回復薬を飲まされると、道路に並んでいる箱の所に連行されました。

箱には、水の入ったペットボトルと携帯食料が入っています。


「これを、配って下さい」


「はい」


私は、手伝いをはじめました。


「皆さん、配信動画が見られる人は、動画を見てください。おすすめはマーシーの幻覚チャンネルです。もうじき、侵略軍と義勇軍の戦いが、幸魂市で始まります。この戦闘は義勇軍が必ず勝ちます。義勇軍の勝利を確認したら、幸魂市へ移動します。それまで体を休めてください」


マモリ様が私の横で、携帯食料を配りながら言いました。

大勢の人が、携帯端末に目を落としました。


「全世界2億人の視聴者の皆さん、マーシーの幻覚チャンネルです。本日は幸魂市よりライブ中継です。ドローンまで使って、臨場感たっぷりの映像をお送りします。お送りする映像は、アッガーノ王国軍8000人対、地球防衛義勇軍3000人の戦いです。既に両軍は川を挟んで布陣していましたが、ご覧のように義勇軍の第1番隊が橋を渡ります。川には3本の橋があり、義勇軍は1000人ずつ3隊に分けて守っていましたが、王国軍が中央の橋の前に8000人で集結し、動かないため義勇軍第一番隊が橋を渡り前に進んでいます。先頭を真っ黒な甲冑に身を包み長い黒い角の兜をかぶりコング隊長が進みます。りりしい、りりしいのですが、一時的に8000人対1000人の戦いになりますが大丈夫なのでしょうかーーーー!!!!」


ドローンの映像なのでしょうか、上空から両軍を映し出します。

中世の軍隊のような敵侵略軍が最初に映し出されました。

前衛は鎧と盾を装備した歩兵隊、その後ろに弓隊、さらに後ろに騎馬隊がいますが、騎馬隊は少数です。その中央に団長が騎馬の上で腕を組んで橋をにらみ付けています。

最近のドローンは優秀なのでしょう、その表情まで、はっきり見えます。

鋭い目つきでヒゲをたくわえて、貫禄があります。


続いて、橋の上を歩く義勇軍を映し出します。

先頭の隊長が映されますが、全身が見た事も無いような真っ黒な甲冑を付けています。

どこか、未来のアンドロイドを想像させるような鎧姿です。

頭の立派な角が見事です。手には真っ黒にコーティングされた太くて長い棒を持っています。

それに続く兵士は迷彩服で、青竜刀のような刀を装備しています。

侵略軍と比べると軽装で、貧弱に見えます。


「弓隊かまえーー!!!!」


侵略軍の団長が声を出します。

義勇軍の橋の渡り終わりを狙うようです。


「てーーーーーーーっ!!!!!!」


大きな声が響きました。

橋を渡り終わった義勇軍の黒い隊長にむかって矢が雨のように飛んで行きます。

黒い隊長は、ゆっくり上空を見つめました。

少しだけ見えている口元が、ニヤリと笑った様に見えました。


「ぜんぐーーーーーん!! つっこめーーーー!!!!」


黒い隊長が叫びました。


「うおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーー!!!!!」


義勇軍全員の雄叫びが響きました。

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