「ホントに上手くいくかな?」
「わからないけど、これしかない」
「うん……」
佐倉くんと彰太くんと考えた作戦は、ドアが開けられた瞬間に体当たりして隙を付き、全力で走って逃げようっていう作戦だった。
ほんの一瞬の隙を狙うしかない。
(もし捕まったら? 俺達どうなるん?)
チャンスは一度きりしかないし、失敗は許されない。
でも、このまま居ても状況は悪化するだけやし、助けが来る保証なんてない。
「……」
「想、大丈夫だよ」
「ああ、きっとうまくいく」
佐倉くんと彰太くんに肩を抱かれ何とか心を落ち着かせる。
どれくらいの時間そうしてたかはわからないけれど、ドアに耳を寄せていると遠くから足音と話し声がこちらに近付いてくるのがわかる。
自分の心臓が聞いたことないぐらいの音で鳴り響き、耳に
俺は震える身体をギュッと抱きしめ、静かにその時を待った。
ー コツコツコツ ー
ー カチャッ ー
ー ガチャリ ー
ドアの鍵が開けられ、誰かが入ってくる。
(今やっ!)
俺達は身体を低くして入って来た男の身体にドンッと体当たりすると、相手を突き飛ばす。
その一瞬、相手が怯んだ隙をかいくぐって、佐倉くんと彰太くんも前に走り出す!
(いけた!)
体当たりした男の横を通り全力で走り出そうとした時……俺はグイッと腕を掴まれ、後ろの男に羽交い締めにされた。
「っ…離してや! 痛っ!」
ギュッと力を込められ、必死で抵抗しようにも動けへん! でも、佐倉くんと彰太くんが前に走ってるのが見えてちょっと安心した。
俺が後ろから来ているかと振り返った二人は、俺が捕まってるのを見て驚いた表情をしたけど大丈夫……俺はなんとかするから。
「っ……佐倉くん、彰太くん! 俺に構わず逃げて!」
前に見える佐倉くんと彰太くんに向かって必死で叫んだんやけど、何故か二人共引き返してくる。
(アカン! アホか! なんで二人共戻ってくるねん!)
「佐倉くん……彰太くん! アカンて! グスッ……っお、れの事なんて放っといてええから……逃げて!」
涙が止まらへんけど必死で伝える。
俺を掴まえてる手はビクとも動かんし、俺は逃げられへん……ごめんな。
でも、二人が無事やったらいいから。
「っ……離せや! お、おれを傷付けたら……連夜さんがきっと怒るからなっ」
(こんなんハッタリや、でもちょっとでも
「……そうだね」
(えっ? 何で連夜さんの声が?)
「想を傷付けたら、俺は何するかわからないよ?」
「っ……うそや……」
「遅くなってごめん。もう大丈夫だから」
ギュッともう一度抱きしめられ、後ろを振り向くとそこには笑ってる連夜さんがいた。
「なんで……来たん?」
「当たり前だろ」
(なんでこんなに……優しいねん。勘違いして期待してしまうやん)
俺は連夜さんに抱きしめられながら、そんな事を考えていた。
「
「ごめんね、痛くない?」
「いてーよっ」
「ふふふ」
「でも……来てくれて、ありがとうな」
「彰太、遅くなってごめんね」
(よかった、彰太くんも夏目さんに会えて)
少し冷静になり俺達が体当たりしたのは、この二人だったんだと思うと申し訳なくなる。
(全力でぶつかったんやで? 大丈夫かな)
「あのさ、身体痛くない? 俺達全力でぶつかったし」
「ああ、痛いかも」
「ホンマに! ごめんな……」
「ふふふ、嘘だよ?」
「な、なんやねんっ、心配したのに」
「あーでもちょっと痛いから今夜は責任とってもらおうかな〜」
「な、なに言うてるんっ」
「何を想像したの?」
「っ……」
「あはははは」
連夜さんに
「てか、れ、連夜さんは何でここにいるってわかったん?」
「想の事なら何でもわかるからかな」
「? 答えになってないけど」
「ま、企業秘密だね」
「よーわからんけど……助けに来てくれてありがとう」
「想……」
― チュッ ―
「な、なにすんねん!」
「え? して欲しそうだったから?」
「っ……んなわけないやろ!」
俺の唇を塞いだ連夜さんに、目の前の彰太くんが信じられへん目で見てて、何か言いたそうに連夜さんと夏目さんを交互に見てる。
(あーもう! 気にせんとこ!)
「連夜さん、ちょっと離して」
「やだ」
「家やったらなんぼでもしていいから」
「……」
「あ、い、いまのは無し!」
スッとすぐに手を緩めて解放してくれたけど、完全に墓穴掘った? 連夜さんがニヤニヤしながら俺をみつめている。
(アホか俺は!)
「とにかく想も彰太も無事でよかったよ」
クスクスと笑いながら今のやり取りを見ていた夏目さんに言われ、余計に顔が火照ってくる。
「ありがとう。っあ、多部ちゃんは? ってか連夜さんの叔父さん達は?」
「多部は事後処理中だよ」
「マジか……はははは、こえ~」
(大丈夫なんかな? 多部ちゃん)
「想、勘違いしてるだろうけど、多部ちゃんはマジで誰よりも容赦ないからな」
「そうだね……」
「ああ」
何故か遠い目をしながら連夜さんも、夏目さんも、彰太くんもそう言ってるんやけど正直想像つかへんかった。
「でも、佐倉くんも無事でよかった~」
「っ……」
俺は連夜さんの腕から抜け出すと、彰太くんの近くにいた佐倉くんにギュッと抱きついて伝える。
佐倉くんは震えてた。
(やっぱ怖かったんやろな……)
「そ、想……俺から離れて? お願い」
「なんでやの~もう! 佐倉くんも怖かったんやろ? 震えてるやん」
「ち、違うよ。今は……想の後ろからの殺気で殺られてる……」
「ん? 連夜さん?」
「金髪……想を騙して危険な目に合わせた覚悟は出来ているな?」
空気がひんやりして、連夜さんが怒っているのがわかる。
「……はい、謝って済む問題じゃないですが、本当に申し訳ございませんでした」
「お前の処遇は後で考えるが、満足に暮らせると思うなよ?」
「っ……もちろんです」
(満足に暮らせないって、佐倉くんになんかするつもりなん?)
「……って、ちょ、ちょっと待って!」
「どうした?」
「連夜さん、佐倉くんに悪い事しようと思ってるん? 佐倉くんも彰太くんも俺の事必死で守ってくれたんやで」
「だけど想を騙して……」
「そんなん関係ない! 嫌やで! もし佐倉くんに何かする気なんやったら……俺……連夜さんの事……」
「大キライになるから!」
「っ……」
連夜さんの驚いた顔が見えるけど、俺は佐倉くんを守る為なら何でもするってもう決めていた。