「………」
あいつが書いたネームを思い出す。
「あれで新人賞落ちか…」
凡人の俺から見たらよく書けてるネーム。
それをみた担当者曰く繊細な感情がうまく書けないなら過激な内容にしてみてはとの事らしい。
といってもあいつも俺もまだ学生だ。
「学生に過激な漫画書かせるのもどうかとは思うが…」
そんなことをつぶやきながら俺はスーパーを後にする。
あいつのために料理を作ってやらないと余裕で餓死するのがあの
玄関の扉を開ける。
「帰ったぞー」
返事は帰ってこない。
寝てるのか…?
まぁ…いつもの事か
俺はキッチンに立ち調理を開始する。
調理音だけが俺の家に響く。
「さて…キャベツは確か野菜室だったな」
俺はサラダを作るため野菜室を開ける。
そこには…そいつがいた。
というか…《入っていた》
「なんでお前は冷蔵庫の野菜室に入ってるんだよ!!」
俺は慌ててそいつを引っ張り出す。
出てきたのは白く長い髪を持つ少女だ。
冷たい体温も相まって雪を連想するその少女。
「って…!待ってろ!今あっためてやるからな!」
すると少女は口を開いた。
「私を…抱いて?」
「できるかぁ!」
作りかけたホットミルクを危うくこぼしそうになった。
「
「
ああ…そうだった…
コイツ…もとい雪はこういうやつだった。
「はぁ…飯食べたら付き合ってやるから頑張れ。締め切り近いんだろ?」
「突き合ってくれる?」
「漢字が違うぞ漢字が」
きょとんと首を傾げる少女は相変わらずその表情を変えない。
「まったく…バカなこと言ってないで早く原稿書かなきゃだぞ?」
急いで作り終えた目玉焼きとサラダを用意する。
「ご飯…食べさせて」
「はいはい」
いつも通りご飯を雪の口に運んでやる。
「うまい~」
満足そうに笑みを浮かべる雪
これが、俺たちの日常。
イラストレーターとして天才的な才能を発揮し、16歳という若さですでにイラスト集などを販売している【
だが彼女はいかんせん感情が薄い。とくに羞恥心が。
そんな彼女の世話をするのが俺…もとい【
雪の担当がおれの実の母親ということで、母から
「一人じゃコロッと死んじゃいそうな子がきたからお世話よろしく!」
とか言われたのを今でも覚えている。
最初は本当に苦労した。
なにせ服は着ないわ髪は乾かさないわ食事はこぼすわで大変だった…本当に。
だから基本雪が何かをするときはいつも俺が一緒だ。
出ないと本当に危なっかしくて仕方がない。
「ごちそうさま~」
そうこう考えてるうちに雪が朝食を食べ終わり2階…つまり雪の部屋へ上がろうとする。
「樹も」
「はいはい」
雪が言ってたモデル。じつは男キャラの腕や足などは俺をモデルにした方が書きやすいというので協力しているのだ。
今回は喉とかか?
そんなことを考えながら俺は雪の部屋に入る。
衣服や下着、そしてネームが散乱しているその部屋はいつ入っても目のやり場に困る場所だった。
そんな中、雪は唯一きれいなデスクに腰掛け俺の方を向き、開口一番言った。
「服脱いで」
「え?」
予想だにしなかった言葉に俺は固まる。
「どこまで?」
「全部」
「いやだが?」
「なら私がパンツ脱ぐからパンツは脱がなくていい」
「どういう理屈だ!!」
ツッコんでいるのもつかの間、本当に雪はパンツを脱ぎ、部屋に投げる。
「私は脱いだ…さぁ樹も」
ついさっき腰かけたばかりの椅子から立ち上がりぐいぐいと顔を使づけてくる雪。
俺は後ずさりをしたがベッドが邪魔でこれ以上後ろに下がれないところまで来てしまった。
「えい」
「おわ!」
素っ頓狂な声の元、押された俺は雪のベッドにあおむけで倒れた。
「服…脱がないなら私が脱がす」
そういって雪は俺の上にまたがり俺の服のボタンを外していく。
「ちょっとまて!いったい何のモデルに使う気だよ!」
「今書いてる少女漫画のお色気シーン」
「大丈夫か!?それ!R18にならないか!?」
「大丈夫…多分」
いや…冷静に考えろ樹!雪がもしこのシーンをネームにつぎ込んだら?母さんにその原稿が渡ってしまう!
というかそもそも母さんは俺がネームのモデルを手伝っていることも知ってる!ってことは絶対!あの親のことだから確実にいじってくる!
「OK落ち着け雪…なにも大丈夫じゃない…ていうかこのモデル行為に関しては拒否権を使わせてもらう!」
「却下。私との約束」
「う…」
雪との約束。それはここで生活するにあたって二人で決めたルールだった。
「だ…だが!俺たちは学生だ!絶対ダメだろこんなこと!」
「私は樹ならいいよ」
雪の口から出た言葉に硬直する俺。だがその間にも雪は表情を変えず服を脱がしてくる。
「次は下」
「だあああああ!まて!お願いだから待ってくれ!」
「うるさい…」
抵抗しようにも馬乗りになられてるせいでうまく体を動かせない。というかこいつがパンツはいてないせいで下手に動くわけにもいかない。
「てい」
気の抜けるような声とは裏腹に思い切りズボンを脱がされ俺のズボンが宙を舞った。
「………変態」
「どっちがだよ!」
もはや叫ぶようにツッコむ俺をみてもなお雪は表情を変えず俺の体をじっくりと観察していた。
「樹ってセックスしたことある?」
脳がフリーズした。
「わっつ?」
「ふぁっく」
「あるわけないだろ!」
「いい体なのに…」
俺の体をさわさわと触りながら雪がそんなことを言う
こうなってしまっては俺にはどうすることもできない。
天才特有の尋常じゃない集中力を発揮し雪は真剣な表情で俺の体を見つめる。
俺はなるべく早く終わってくれと願い俺に馬乗りになりペンを走らせる少女に協力するしかなかったのだった。
しばらくして書き終わったのか俺から降りる雪。
「続きは今度」
「誤解を生む言い方はやめろぉ!」
服を急いで着る俺は雪に向かって叫ぶ。
雪は本当に変わった。
初めて会ったときは、無表情というのは変わりなかったが、誰に対しても冷たかった。だが今は溶け切っている…
「どうしてこうなったのかね」
雪の部屋の前で乱れた服を整えながらそんなことをつぶやく。
「あら」
「ん?」
目の前に、母がいた。
「あら…今夜は赤飯かしらね」
その言葉に今俺が置かれている状況を整理する。
異性の部屋の前に疲れた様子で乱れた服を整える男…
「違う!誤解だ母さん!!」
必死に叫ぶが満面の笑みを浮かべるだけで聞こうとしない母さん。
思えばいつも雪に振り回されてばかりだ。
ほんと…
「天才の考えていること…わからねぇ!!」
そんな叫びが廊下をこだまするのだった。