「服買いに行こ」
恋を教えてと言われて数日が経過したある日、雪が俺にそんなことを言ってきた。
「服?」
着ないのに?とは言わなかったが、顔に出ていたのか雪が微妙に不服そうな顔をする。
「前に樹に…服選んでもらえてなかったから」
「あ~」
以前のことを思い出す。
確か雪は、俺が適当に投げた服を俺が選んだと思い込んで着替えなかったことがあった。
「いいけど雪?服はちゃんと着替えるんだぞ?」
俺は雪にそう言うと雪はうなずいた。
「なら、買いに行くか。雪、準備しててくれ」
「わかった」
雪はコクリとうなずき、階段を上がる。
しばらくすると雪が着替えて降りてきた。
「これでいい?」
「ああ、いいぞ」
見たところ不自然なところはない。
さすがの雪も裸で出歩こうとは思ってないみたいだ。
「俺も準備できてるな…おし!行くか」
そういって玄関の扉を開ける。
目的地はここからそう遠くないショッピングモールだった。
「ところでなんで急に服を買おうと思ったんだ?」
「ネームのために…必要なこと」
「ああ…なるほどね」
要するに資料として服が欲しいわけだ。
「というか資料としてならいつも通り母さんと買いに行ったらよかったんじゃないか?」
「……バカ」
「なぜ罵倒された…」
「あの人…今日忙しいって言ってた」
「ああ…まぁ多忙そうではあるな」
母さんがダメだったから俺を頼ってきたと…
なるほどなるほど…
(女子の服買いに行くのとか初めてなんだけどな)
そんなつぶやきは口には出さず、目的地へ雑談しながら向かう。
「それから…」
「うん?」
どうやらまだ続きがあったらしい。
「樹の好み…知りたかったから」
まっすぐとこちらを見つめてそう言ってくる雪。
「俺の好み…?」
なんでネームを描くのに俺の好みが…?
一瞬頭に疑問符を浮かべるが、すぐに答えが出た。
(ああ…確か主人公を俺に似せてるらしいから俺の好みを反映させたいわけか…)
そんな結論を出し俺は深くは考えない。
胸のあたりがもやもやするが、この感情は小説にぶつけることにしようと決める。
しばらく歩いていると大きな建物が見えてくる。
「ついたな」
俺たちはショッピングモールの中に入り洋服店を見つけた。
見つけたのはいいんだが…
「俺入りずらいな」
女性用の服がずらりと並んでいる店内。
そこには下着などもあり、男の俺がなかなかに入りずらい雰囲気を醸し出していた。
「こっち」
雪はそんな俺のことを気にも留めず、俺の腕を引っ張り店内に入る。
「で…だ」
雪は気に入った服を選び試着室へ入っていった…まではよかった。
「これでどう?」
「お前もしかして…」
選んだ服は問題なかった。着方も問題ない。だが、いつも雪の私服を見ている俺はすぐにその違和感に気付いた。
「お前…下着付けてるか?」
「つけて…ないけど」
「なんでだよ!」
そうだ、サイズが合っていないせいで肩があらわになっているその服。
本来そこまで方が見えれば、見えるはずなのだ…
あの部分なんて言うかわからないが、要するにこいつは今…
「ブラ…してないよ?」
「だからなんでだよ!」
「選んでくれると…思って」
朝確認しなかった俺がバカだったか!?いや、そもそも下着を確認するとか普通にセクハラだから確認なんてしようがねぇ…
つまりこれは回避不能のトラブルなわけで…
「はぁ…下着もみてこい」
不思議そうな表情を浮かべる雪。
「いっしょに…みよ?」
「いやだが?」
無表情で淡々とそんなことを言う雪。
さすがに下着を選ぶのはハードルが高すぎる。
「周りの目もあるし、こんなとこ学校のやつに見られでもしたら終わるからな」
「大丈夫…きっといない」
そういって雪はぐいぐいと俺の腕を引っ張り下着コーナーへ連れてゆく。
「ちょ…まて!」
俺は静止の声むなしく、雪に連行されるのだった。