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17話 番犬

 そこで気になって、聞いてみた。すると、直ぐに笑って欠伸をしていた。

 眠かっただけみたいで、安心した。アニオタみたいだから、僕みたく夜更かしでもしていたのかな。


 昨日は、完全に違うことだったけど。ゲームは、一面クリア出来たけど。


「はあ……やっぱ、帰ろうかな」

「大丈夫ですよ。俺がついてるし、一応哲弥もいるし」

「は〜い、一応いるっすよ」

「二人とも、ありがとね」


 放課後になって、美術室の前に来た。帰ろうかと思ったけど、二人が教室まで迎えに来た。

 逃げることもできないまま、手を引かれた。周りに、クスクスと笑われてしまった。


 正直、かなり恥ずかしかった。夏服になったから、体温が直に感じられる。

 暑さから来るものなのか、それとも違うのか分からない。確かに分かることは、嫌じゃないってことだ。


「頼も〜」

「折原、いい加減その入り方やめ……横井!」

「横井くん! 来たんだね! 待ってたよ」

「この子ね〜ずっと待ってたんだよ〜ニヤニヤ」

「やめてよ!」


 僕が知らないところで、ボケていたのね。相変わらず、真顔だからシュールだね。

 眉毛ひとつ動かさないで、ボケている。いつものことみたいで、数人がツッコンでいた。


 僕に気がついたみたいで、喜んでくれた。あっという間に、取り囲まれてしまった。

 目立つの嫌いなんだけど、これは悪くないね。僕のこと、心配してくれている。


 顔を見れば、一目瞭然だった。あまり話したことがない後輩もいて、笑顔になった。


「横井が、戻ってきてよかったよ。寂しいもんな」

「別に、絵は一人で描くものだし」

「冷たいな〜なあ、今日部活の後用事あるか? もしよかったら、カフェにでも」

「別に、用事はな」

「おあいにくさま、先輩は俺と用事があるので」

「番犬のお出ましか。ちぇ、邪魔者は退散しますよ」


 りんごを描くというお題だったため、真剣にデッサンしていた。そこで三年の部長が、声をかけてきた。

 椅子を持ってきて、わざわざ隣に座ってきた。用事があるかと聞かれたから、ないと答えようとした。


 するといつの間にか、後ろに来ていた粕森くんが言葉を遮ってきた。

 少し睨み合っていたけど、部長がため息をついていた。嫌味みたいなことを言って、自分の定位置に戻った。


 よかったのかな? 名前は覚えていないけど、心配してくれているのにね。

 粕森くんを見ると、少しだけ顔が怖かった。だけど僕と目が合うと、いつも通りの笑顔になった。


「粕森。邪魔するのなら、帰れ」

「す、すみません。大人しくしています」


 先生に言われて、シュンとなってしまった。背中を丸めて、椅子に座った。

 不貞腐れたようで、口を尖らしていた。その様子が可愛くて、笑いそうになった。


 我慢して、集中することにした。少しだけ腕は落ちたけど、許容範囲内かな。

 いつも通りに受け入れてくれて、本当によかった。これも、粕森くんと折原くんのおかげだよね。


 恥ずかしいから、言葉には出さないでおこう。だけど、本当に感謝しているよ。


「うっしょ……んー」

「無理しないでください。俺が持ちますよ」

「ダメだよ。元はと言えば、僕の仕事なんだから」

「そんなことないですよ。好きな人の役には、立ちたいので」

「そ……うなんだ」


 委員会の仕事で、重たいものを持っていた。資料室から、図書室まで運ぶことになった。

 先生と目が合ったから、頼まれてしまった。その道中に、粕森くんと目が合った。


 事情を話すと、手伝ってくれた。ちなみに、一緒にいた折原くんは光の速さで帰ってしまった。

 重たい箱ばかりで、僕には持てない。そのため、正直言うと助かる。


 量にかなりの差があって、申し訳ない。断ったけど、歯の浮くようなセリフを言われてしまった。


「こっちから行ったほうが、近道ですよ」

「あっ……でも」

「大丈夫です。効率重視で行きましょう」

「う、うん。分かった」


 三年の教室の近くの階段に着いた。図書室に行くのなら、こっちからの方が近い道である。

 まだあいつが、教室にいるかもしれない。悪いことしているわけではない。


 だけどできたら、鉢合わせしたくない。同じクラスだから、毎日顔を合わせている。

 必要以上の接触は、避けたいのが本音だ。粕森くんは、そのことに気がついていた。


 しかし僕の顔を覗き込んで、優しく微笑んだ。確かに、言う通りだと思う。

 いつまでも逃げているわけには、いかないよね。だから大人しく、後ろを着いていくことにした。


「横井……と、千隼」

「よっ、碧。行きましょう、先輩」

「あっ……うん」


 教室の前を通ると、あいつが出てきた。目が合って、咄嗟に背けてしまった。

 名前を呼ばれたけど、話したくない。それに気がついて、粕森くんが話しかけてきた。


 歩きたいのに、足がすくんでしまった。早く、この場を立ち去りたい。

 だけどどうしても、体が言うことを聞いてくれない。足が鉛のように、重く感じてしまう。


「先輩、荷物一回置きましょうか」

「えっ……そ、うだね」


 心臓が煩くなって、呼吸が乱れてきた。息ができなくなってきて、辛くなってきた。

 時間が経過しても、やっぱり怖いんだ。何か言ってきているけど、何も聞こえない。


 怖い顔をして、睨んできている。あの時のことが、脳裏をよぎってしまう。

 前はあいつの声しか、聞こえなかった。それなのに、今はノイズになっている。


 だけど粕森くんの声は、クリアに聞こえた。そのおかげで、少しだけ楽になった。

 言われた通りに、荷物を廊下に置いた。すると頭を撫でてくれて、優しく微笑んでくれた。


「お前ら、やっぱりそうなのかよ」

「どういう意味だよ」

「そのままの意味だよ。堂々と、よくも俺の前で」

「お前、いい加減にしろよ。先輩がどんな人か、分からないなんて言わせねーぞ」


 よく分からないことで、喧嘩をしている。ゆっくりとした口調なのに、棘しか感じられない。

 多分、自惚でなく僕に関してのことだろう。だって明らかに、あいつは僕のことを見ている。


 ただ睨んでいるだけでなく、今にも泣きそうだった。久しぶりにしっかりと見たけど、少し痩せたような気がする。

 お昼の時間、僕は粕森くんと折原くんと食べている。だから知らなかったけど、もしかして食べていないのかな。


 少し心配になったけど、僕にその権利はない。もう別れているし、関係ないだろう。

 あいつと目が合ったけど、思わず目を逸らしてしまった。怖いという感情が、心配よりも勝ってしまったからだ。


「俺よりも、自分が知ってるって言いたいのかよ!」

「なんで、そうなるんだよ! 一回、落ち着けよ!」

「落ち着いていられるかよ! お前は昔から、俺の欲しいものを掻っ攫っていく!」


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