そこで気になって、聞いてみた。すると、直ぐに笑って欠伸をしていた。
眠かっただけみたいで、安心した。アニオタみたいだから、僕みたく夜更かしでもしていたのかな。
昨日は、完全に違うことだったけど。ゲームは、一面クリア出来たけど。
「はあ……やっぱ、帰ろうかな」
「大丈夫ですよ。俺がついてるし、一応哲弥もいるし」
「は〜い、一応いるっすよ」
「二人とも、ありがとね」
放課後になって、美術室の前に来た。帰ろうかと思ったけど、二人が教室まで迎えに来た。
逃げることもできないまま、手を引かれた。周りに、クスクスと笑われてしまった。
正直、かなり恥ずかしかった。夏服になったから、体温が直に感じられる。
暑さから来るものなのか、それとも違うのか分からない。確かに分かることは、嫌じゃないってことだ。
「頼も〜」
「折原、いい加減その入り方やめ……横井!」
「横井くん! 来たんだね! 待ってたよ」
「この子ね〜ずっと待ってたんだよ〜ニヤニヤ」
「やめてよ!」
僕が知らないところで、ボケていたのね。相変わらず、真顔だからシュールだね。
眉毛ひとつ動かさないで、ボケている。いつものことみたいで、数人がツッコンでいた。
僕に気がついたみたいで、喜んでくれた。あっという間に、取り囲まれてしまった。
目立つの嫌いなんだけど、これは悪くないね。僕のこと、心配してくれている。
顔を見れば、一目瞭然だった。あまり話したことがない後輩もいて、笑顔になった。
「横井が、戻ってきてよかったよ。寂しいもんな」
「別に、絵は一人で描くものだし」
「冷たいな〜なあ、今日部活の後用事あるか? もしよかったら、カフェにでも」
「別に、用事はな」
「おあいにくさま、先輩は俺と用事があるので」
「番犬のお出ましか。ちぇ、邪魔者は退散しますよ」
りんごを描くというお題だったため、真剣にデッサンしていた。そこで三年の部長が、声をかけてきた。
椅子を持ってきて、わざわざ隣に座ってきた。用事があるかと聞かれたから、ないと答えようとした。
するといつの間にか、後ろに来ていた粕森くんが言葉を遮ってきた。
少し睨み合っていたけど、部長がため息をついていた。嫌味みたいなことを言って、自分の定位置に戻った。
よかったのかな? 名前は覚えていないけど、心配してくれているのにね。
粕森くんを見ると、少しだけ顔が怖かった。だけど僕と目が合うと、いつも通りの笑顔になった。
「粕森。邪魔するのなら、帰れ」
「す、すみません。大人しくしています」
先生に言われて、シュンとなってしまった。背中を丸めて、椅子に座った。
不貞腐れたようで、口を尖らしていた。その様子が可愛くて、笑いそうになった。
我慢して、集中することにした。少しだけ腕は落ちたけど、許容範囲内かな。
いつも通りに受け入れてくれて、本当によかった。これも、粕森くんと折原くんのおかげだよね。
恥ずかしいから、言葉には出さないでおこう。だけど、本当に感謝しているよ。
「うっしょ……んー」
「無理しないでください。俺が持ちますよ」
「ダメだよ。元はと言えば、僕の仕事なんだから」
「そんなことないですよ。好きな人の役には、立ちたいので」
「そ……うなんだ」
委員会の仕事で、重たいものを持っていた。資料室から、図書室まで運ぶことになった。
先生と目が合ったから、頼まれてしまった。その道中に、粕森くんと目が合った。
事情を話すと、手伝ってくれた。ちなみに、一緒にいた折原くんは光の速さで帰ってしまった。
重たい箱ばかりで、僕には持てない。そのため、正直言うと助かる。
量にかなりの差があって、申し訳ない。断ったけど、歯の浮くようなセリフを言われてしまった。
「こっちから行ったほうが、近道ですよ」
「あっ……でも」
「大丈夫です。効率重視で行きましょう」
「う、うん。分かった」
三年の教室の近くの階段に着いた。図書室に行くのなら、こっちからの方が近い道である。
まだあいつが、教室にいるかもしれない。悪いことしているわけではない。
だけどできたら、鉢合わせしたくない。同じクラスだから、毎日顔を合わせている。
必要以上の接触は、避けたいのが本音だ。粕森くんは、そのことに気がついていた。
しかし僕の顔を覗き込んで、優しく微笑んだ。確かに、言う通りだと思う。
いつまでも逃げているわけには、いかないよね。だから大人しく、後ろを着いていくことにした。
「横井……と、千隼」
「よっ、碧。行きましょう、先輩」
「あっ……うん」
教室の前を通ると、あいつが出てきた。目が合って、咄嗟に背けてしまった。
名前を呼ばれたけど、話したくない。それに気がついて、粕森くんが話しかけてきた。
歩きたいのに、足がすくんでしまった。早く、この場を立ち去りたい。
だけどどうしても、体が言うことを聞いてくれない。足が鉛のように、重く感じてしまう。
「先輩、荷物一回置きましょうか」
「えっ……そ、うだね」
心臓が煩くなって、呼吸が乱れてきた。息ができなくなってきて、辛くなってきた。
時間が経過しても、やっぱり怖いんだ。何か言ってきているけど、何も聞こえない。
怖い顔をして、睨んできている。あの時のことが、脳裏をよぎってしまう。
前はあいつの声しか、聞こえなかった。それなのに、今はノイズになっている。
だけど粕森くんの声は、クリアに聞こえた。そのおかげで、少しだけ楽になった。
言われた通りに、荷物を廊下に置いた。すると頭を撫でてくれて、優しく微笑んでくれた。
「お前ら、やっぱりそうなのかよ」
「どういう意味だよ」
「そのままの意味だよ。堂々と、よくも俺の前で」
「お前、いい加減にしろよ。先輩がどんな人か、分からないなんて言わせねーぞ」
よく分からないことで、喧嘩をしている。ゆっくりとした口調なのに、棘しか感じられない。
多分、自惚でなく僕に関してのことだろう。だって明らかに、あいつは僕のことを見ている。
ただ睨んでいるだけでなく、今にも泣きそうだった。久しぶりにしっかりと見たけど、少し痩せたような気がする。
お昼の時間、僕は粕森くんと折原くんと食べている。だから知らなかったけど、もしかして食べていないのかな。
少し心配になったけど、僕にその権利はない。もう別れているし、関係ないだろう。
あいつと目が合ったけど、思わず目を逸らしてしまった。怖いという感情が、心配よりも勝ってしまったからだ。
「俺よりも、自分が知ってるって言いたいのかよ!」
「なんで、そうなるんだよ! 一回、落ち着けよ!」
「落ち着いていられるかよ! お前は昔から、俺の欲しいものを掻っ攫っていく!」