あーしは助けた探索者たちを連れて地上へのワープホールに辿り着いた。
え? 途中で魔物に襲われなかったかって?
もちろん、襲われたよ。
でも、あーしはそんな魔物たちを一掃しながらワープホールまで探索者たちを連れて行ったってわけ。
そこから地上に戻ったあーしたちを出迎えてくれたのは、ダンジョン協会の会員たち迷宮庁の職員だった。
彼らはあーしの配信を通じて現在の状況を細かく把握していた。
昼過ぎ――。
昼食を食べて一休みしたあーしは、ダンジョン協会の最上階――会長室に向かった。
会長室に到着すると、そこには会長や重役の人たち、あとは迷宮庁のお偉いさんたちが勢揃いしていた。
「姫川花緒さん、本当に素晴らしい活躍でした! あなたのおかげで、多くの命が救われました!」
ダンジョン協会の会長が涙を浮かべながらあーしに深々と頭を下げてくる。
「別に空手家として当たり前のことをしただけですけど」
「何という謙虚な振る舞い! さすがは史上最年少かつ最速で登録者が100万人を超えた英雄だ!」
会長を始めとして、役員たちも次々とあーしに賛辞を送ってくる。
「姫川さん、君はダンジョン協会で働く気はあるかね?」
「とりあえずA級……いや、S級の授賞式を行いましょう」
「彼女なら将来は重役として迎えられます」
すると迷宮庁の重役たちが割って入ってきた。
「お待ちください! ずるいですぞ、彼女は迷宮庁に是非ともほしい逸材です!」
「そうです! 彼女ほどの力はダンジョン協会よりも迷宮庁で発揮してもらいたい!」
「姫川くん、迷宮庁に来る気はあるかね? ダンジョン協会は非営利団体だが、迷宮庁はお国の仕事だ。特別国家公務員として将来は安泰だよ」
などとあーしを勧誘してくる。
特別国家公務員か……給料やボーナスはいくらぐらいなんだろう。
なんて思ったのは一瞬だよ。
あーしは全員の顔を見回した。
「ありがたいお話ですが、あーしはダンジョン協会の会員や迷宮庁で働く気はありません」
そしてバシッと言い放つ。
「あーしは配信者です。それにあーしの配信をご覧になってくれていたのなら、魔物の村でドラゴニュートが言っていた意味深な言葉も聞いていらしたでしょう?」
ふむ、と60代で白髪のダンジョン協会の会長がうなずく。
「ダンジョンの奥は異世界に通じていて、しかもその世界に凶悪な魔王がいる……か。ダンジョンが出現する前なら一笑に付すところだが、こうしてダンジョンが世界中に出現して魔物がいるとなると、まだ誰も到達していないダンジョンの奥には本当に異世界に通じる場所があるやもしれん」
あーしは力強くうなずく。
「ですから、あーし……わたしはまたダンジョンに潜ります。そして異世界に通じる場所を見つけます」
おおおおおおお、と会長室全体が沸きに沸いた。
「その若さでなんという信念の高さだ。いや~、あっぱれ!」
会長は満面の笑みを浮かべる。
「よし、こうなったらダンジョン協会は君の探索を全面的に支援しよう。まず君が使っているドローンを最新型にする。1体1000万円以上するドローンで、まだ一般的に公にされていないダンジョン産の特殊な金属で造られたものだ」
会長の話は続く。
「それにAIの性能も2ランクは上のものが搭載されている。超高性能のプロジェクト・マッピングや言語機能も満載だ。きっとも君のダンジョン探索の心強い味方になってくれるだろう」
「あの、会長さん。それは今までと同じ配信機能もあるんですか?」
「当然だよ。しかも高性能AIが君へのアンチコメントなどに瞬時に対応してくれる。BANはもちろんのこと、副垢で対応してきても瞬時に相手の身元を割り出して警察に通報がいく。その後の法的手続きはすべて協会がやるから安心しなさい」
「でも、そこまでしていただくても……」
「これぐらい朝飯前だ。何せ君は英雄なんだ。これまでの配信活動だけで君は現代ダンジョン配信界の伝説として名前が刻まれる。そんな英雄をサポートできるんだ。ダンジョン協会としては嬉しい限りだ」
あーしは感動した。
こんなあーしの活動が世間に認められたんだ。
「ありがとうございます。では、ありがたくドローンを使わせていただきます」
その後、あーしは準備を整えて出発した。
再びダンジョンの奥を目指して。
異世界に通じる場所を見つけるために。
お小遣い稼ぎは……うん、それはひとまずいいや。
〈ギャル空手家・花ちゃんch〉
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