校門前、待ち合わせ五分遅刻。
待ちぼうけの俺はスマホを見て笑う。着信は二分前だ。
『ごめん、教授に捕まった💦
少し遅れる』
『🙇♀️🙇♀️🙇♀️』
これに『気にすんな』と返すのがもう日常になっている。
別に悪意がある訳じゃないんだよな、こいつの場合。極度のお人好しとは思うけれど。
これが寝坊ってなら少し言うけど、そうじゃない。知り合いも多くて捕まるし、頼られると嫌と言えない性格だ。
前に見越して二十分前に家を出て、途中で困ってる婆さん助けて結局遅れてきたこともあった。十分遅れて、貰ったって飴玉二つ握りしめてきた時には可愛くて笑った。
だから俺は待つことにしてる。この時間も悪くないと思うから。
パステルな水色に綿飴みたいな雲が浮かんでいる空をぼんやりと見ている。
ザッと強く吹いた風が桜を散らして舞に舞う。
春の終わりを知らせるみたいな儚さは寂しさも連れてくる。
ふと吹き込んだ切なさに気を取られて見上げていると、突然ドンッと背中から突進されて声が出た。
「凌ちゃん、おまたせー!」
明るさを詰め込んだ声がする。腰に腕を回して抱きつくって、距離感バグってるんだよいつも。
少しだけ視線を下げる先に、ふわふわの猫っ毛。大きな目に、男にしては可愛い顔。自覚はない。
そんなのが満面の笑みで抱きついてくるんだ、勘弁してくれ。
「教授に資料運ぶの手伝ってって言われてさ」
「お前、ほんとお人好しだよな」
「ううっ、ごめん。いつも凌ちゃん待たせてる」
手を合わせてごめんねのポーズ。これもあざとい、狙ってるのか? いくら小さくて可愛いからって同じ男にときめいて、そろそろ危ない妄想に突入しそうでこっちは頭抱えてるってのに。
「ところで、何か落ち込んでる?」
こちらを見上げて聞かれて……ちょっと言いにくい。柄にもないから。
でもじっと見上げられたらいたたまれなくて白状した。
「あー、桜散るな〜て」
バツも悪く頭かきながら言う。なんか恥ずい。
でも返ってきたのは茶化しじゃない笑顔だ。
「ほんとだね。次は花火と祭りかな?」
「は?」
「楽しみだね」
そう、満面の笑みで返してくるこいつを通して見方が変わる瞬間。今を惜しむ俺と、次を待ち望むこいつ。
だから今、俺は素直に笑えるんだ。
「だな」
「うん!」
二人連れ立って歩くそこに、フラワーシャワーみたいな花が散った。