「おじさん達は俺の配信料をくれってごねてるんだ」
「なんやて? なんでや?」
おじさんは目をそらした、おばさんがキッとかーちゃんを睨んで口を開く。
「あなたが死んでしまってからタカシくんを引き取って、こっちは金銭的迷惑を被っているのよっ!! 狩りのお金ぐらいくれても良いじゃ無いですかっ!!」
かーちゃんの表情がみるみるうちに険しくなった。
「それでタカシはダンジョンアタックをしとったのか……」
「あたりまえですよっ!! 働かざる者食うべからずですよっ!!」
おじさんはおばさんの肩を軽く叩いて小声で「やめろやめろ」と囁いた。
「だって、悔しいじゃないっ!! タカシなんかお金ばかり掛かって、こっちはちっとも儲からないのよっ!!」
「困った親戚の子供を引き取って、儲からないやと?」
「今は月二十万は払ってるけどね」
「か、狩りが出来ない時期だってあったしっ! その時は食事も出していたのよっ!!」
「今は……、タカシに食事を……、出して無いんか……」
「おまえ、やめなさい、ねえちゃんは、ねえちゃんはおっかない……」
かーちゃんはメイスを振り上げて、思い切りリビングの応接テーブルに振り下ろした。
ドッカーン!!
小洒落た応接テーブルが粉々に砕けた。
「ひいいいっ!! 北欧の高級応接セットのテーブルがっ!! これは高いのよっ!!」
「よしおーっ!! うちの貯金はどうしたあっ!! ざっと四千万はあったはずやーっ!!」
「「「!!」」」
え、かーちゃんは死ぬ前は俺とアパートで二人暮らしで、スーパーにパートに出てたじゃんか。
四千万もの貯金があったの?
「お、おじさんと、ミサエおばさんと、お、俺で分けた、一千万ずつ」
「あのクソ畜生どもめかっ!! その上で、お前はタカシに狩りをやらせて儲けをむしり取っていたんやなっ!!」
「い、いや、ダンジョンが出来て、製薬会社も厳しいんだ、タカシの金があれば、その、生活水準を落とさなくてすんだし」
「そんなのタカシの知った事やないでっ!!」
「か、家族、だからさ、助け合わないとさ、な、ねえちゃん判ってくれよ」
「わからんっ!! タカシ、行くで!」
「え、どこへ」
「ここはタカシの牢獄や、さっさと自由の世界にいくで」
そうか、そうだな。
もう、我慢しなくて良いのか。
俺は床に落ちた貯金通帳と判子を拾った。
おじさんとおばさんは肩を落としてぐったりしていた。
みどりはニヤニヤしていた。
「おとうさんもおかあさんも酷いよ、タカシが可哀想だよっ、私はずっと反対してたんだよ。だから私だけはゆるしてね、タカシ」
俺は一瞬で頭に血が上った。
「ふざけんな、お前が何時俺の味方をしてくれたよっ!!」
「え、いつも私は……」
「おじさんとおばさんも嫌いだけど、みどりがこの家の中で一番嫌いだっ」
「わ、私は何時もタカシの事を可哀想だって思って……」
この嘘つきみどりはボロボロと涙を流し始めた。
死ねよっ。
思わず手がでそうになったが、かーちゃんが止めてくれた。
「女の子をなぐったらいかんよ」
「あ、うん、そうだね」
「いくで」
俺は振り返っておじさんとおばさんに頭をさげた。
「五年間お世話になりました」
叔父夫婦は何も言わない。
みどりだけがわんわん泣いていた。
玄関から外に出た。
なんだか凄い開放感があった。
ああ、たしかにここは牢獄だったんだなあ。
かーちゃんが抱きしめてくれた。
「タカシ、ごめんなあ、ごめんなあ、こんな事になるなら貯金の事とか、ちゃんと教えておくんやった」
「いいよ、かーちゃんも好きで死んだわけじゃないし、でも、貯金って何?」
「あー」
かーちゃんは涙を拭って照れくさそうな顔をした。
「タカシのとうちゃんからな、一年に一回、一千万ぐらい振り込まれてきたんよ。うちはなんか腹立たしくってなあ、なるべくお金に手をつけんとこうと思ってな、タカシが成人したらあげようと思って貯めといたんや」
「ああ、それで……」
自分の働いたお金で俺を育てようとしてくれてたのか。
それはなんだか良い話で、胸がほっこりした。
「俺のとうちゃんってどんな人だったの?」
「なんや偉そうな人でなあ、でもイケメンやってん。タカシによう似とるで」
俺たちは歩きながら話した。
「なんで別れたの?」
「さあ? 急に『用事が出来た、何時か必ず迎えにくる』とか言ってそれきりや。その頃、お腹にタカシがいるのが解ってたけどなあ、それで引き留めるのも卑怯やなあって思うてなあ」
「かーちゃんらしいや」
なんだか、余さんみたいな人だな。
でも、まさかな。
「んで、どうするの?」
「アパート借りようや」
「でも、保証人とか要るんだけど」
「うちがおるやないかいっ」
「いや、一日九分しか世界に居られない保証人はどうよ」
「まあ、なんとかなるわ、おっと、そろそろ時間や、銀行で貯金を下ろしてアパートを借りるんやで」
「ありがとう、かーちゃん助かったよ」
「何言うてんの、だいたいうちのせいや、タカシは悪うない」
「それでも、ありがとう」
「うん」
かーちゃんは笑って光の粒子になって消えていった。
さて、銀行に行くかな。
当座の軍資金を下ろさねば。