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第14話 俺の知らなかった事

「おじさん達は俺の配信料をくれってごねてるんだ」

「なんやて? なんでや?」


 おじさんは目をそらした、おばさんがキッとかーちゃんを睨んで口を開く。


「あなたが死んでしまってからタカシくんを引き取って、こっちは金銭的迷惑を被っているのよっ!! 狩りのお金ぐらいくれても良いじゃ無いですかっ!!」


 かーちゃんの表情がみるみるうちに険しくなった。


「それでタカシはダンジョンアタックをしとったのか……」

「あたりまえですよっ!! 働かざる者食うべからずですよっ!!」


 おじさんはおばさんの肩を軽く叩いて小声で「やめろやめろ」と囁いた。


「だって、悔しいじゃないっ!! タカシなんかお金ばかり掛かって、こっちはちっとも儲からないのよっ!!」

「困った親戚の子供を引き取って、儲からないやと?」

「今は月二十万は払ってるけどね」

「か、狩りが出来ない時期だってあったしっ! その時は食事も出していたのよっ!!」

「今は……、タカシに食事を……、出して無いんか……」

「おまえ、やめなさい、ねえちゃんは、ねえちゃんはおっかない……」


 かーちゃんはメイスを振り上げて、思い切りリビングの応接テーブルに振り下ろした。


 ドッカーン!!


 小洒落た応接テーブルが粉々に砕けた。


「ひいいいっ!! 北欧の高級応接セットのテーブルがっ!! これは高いのよっ!!」

「よしおーっ!! うちの貯金はどうしたあっ!! ざっと四千万はあったはずやーっ!!」

「「「!!」」」


 え、かーちゃんは死ぬ前は俺とアパートで二人暮らしで、スーパーにパートに出てたじゃんか。

 四千万もの貯金があったの?


「お、おじさんと、ミサエおばさんと、お、俺で分けた、一千万ずつ」

「あのクソ畜生どもめかっ!! その上で、お前はタカシに狩りをやらせて儲けをむしり取っていたんやなっ!!」

「い、いや、ダンジョンが出来て、製薬会社も厳しいんだ、タカシの金があれば、その、生活水準を落とさなくてすんだし」

「そんなのタカシの知った事やないでっ!!」

「か、家族、だからさ、助け合わないとさ、な、ねえちゃん判ってくれよ」

「わからんっ!! タカシ、行くで!」

「え、どこへ」

「ここはタカシの牢獄や、さっさと自由の世界にいくで」


 そうか、そうだな。

 もう、我慢しなくて良いのか。


 俺は床に落ちた貯金通帳と判子を拾った。

 おじさんとおばさんは肩を落としてぐったりしていた。

 みどりはニヤニヤしていた。


「おとうさんもおかあさんも酷いよ、タカシが可哀想だよっ、私はずっと反対してたんだよ。だから私だけはゆるしてね、タカシ」


 俺は一瞬で頭に血が上った。


「ふざけんな、お前が何時俺の味方をしてくれたよっ!!」

「え、いつも私は……」

「おじさんとおばさんも嫌いだけど、みどりがこの家の中で一番嫌いだっ」

「わ、私は何時もタカシの事を可哀想だって思って……」


 この嘘つきみどりはボロボロと涙を流し始めた。

 死ねよっ。

 思わず手がでそうになったが、かーちゃんが止めてくれた。


「女の子をなぐったらいかんよ」

「あ、うん、そうだね」

「いくで」


 俺は振り返っておじさんとおばさんに頭をさげた。


「五年間お世話になりました」


 叔父夫婦は何も言わない。

 みどりだけがわんわん泣いていた。


 玄関から外に出た。

 なんだか凄い開放感があった。

 ああ、たしかにここは牢獄だったんだなあ。


 かーちゃんが抱きしめてくれた。


「タカシ、ごめんなあ、ごめんなあ、こんな事になるなら貯金の事とか、ちゃんと教えておくんやった」

「いいよ、かーちゃんも好きで死んだわけじゃないし、でも、貯金って何?」

「あー」


 かーちゃんは涙を拭って照れくさそうな顔をした。


「タカシのとうちゃんからな、一年に一回、一千万ぐらい振り込まれてきたんよ。うちはなんか腹立たしくってなあ、なるべくお金に手をつけんとこうと思ってな、タカシが成人したらあげようと思って貯めといたんや」

「ああ、それで……」


 自分の働いたお金で俺を育てようとしてくれてたのか。

 それはなんだか良い話で、胸がほっこりした。


「俺のとうちゃんってどんな人だったの?」

「なんや偉そうな人でなあ、でもイケメンやってん。タカシによう似とるで」


 俺たちは歩きながら話した。


「なんで別れたの?」

「さあ? 急に『用事が出来た、何時か必ず迎えにくる』とか言ってそれきりや。その頃、お腹にタカシがいるのが解ってたけどなあ、それで引き留めるのも卑怯やなあって思うてなあ」

「かーちゃんらしいや」


 なんだか、余さんみたいな人だな。

 でも、まさかな。


「んで、どうするの?」

「アパート借りようや」

「でも、保証人とか要るんだけど」

「うちがおるやないかいっ」

「いや、一日九分しか世界に居られない保証人はどうよ」

「まあ、なんとかなるわ、おっと、そろそろ時間や、銀行で貯金を下ろしてアパートを借りるんやで」

「ありがとう、かーちゃん助かったよ」

「何言うてんの、だいたいうちのせいや、タカシは悪うない」

「それでも、ありがとう」

「うん」


 かーちゃんは笑って光の粒子になって消えていった。


 さて、銀行に行くかな。

 当座の軍資金を下ろさねば。

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