「タカシくーんっ!! オカン事件のまとめ動画見たよっ!! りっちょん最低よねえっ!」
朝、クラスに入るとデデデと峰屋みのりが寄ってきてそんな事を言った。
「あ、ああ」
「新宮、おまえ勇気あるなあ、カメラピクシーの突撃に割り込むなんてちょっとできねえよっ」
「ミノタウロスってあんなに怖いんだなあ、三十階のボス攻略動画だとわりと簡単に倒せるのばっかりだから解ってなかったぜ」
いったい何事だ?
動画は昨日も出てただろう。
「ふん、新宮は事態が解って無いのか、公式のまとめ動画が出たんだよ。編集デーモンはもったい無い事に「六本腕」師匠だったぞ。チェックしてないのか?」
東海林がメガネをくいっと上げてそう言った。
マジか、「六本腕」師匠といえば、名作「ゆかにゃんがドラゴンを見た日」をまとめた凄腕編集デーモンさんじゃないか。
「昨日はすぐ寝たからなあ」
俺はDスマホを出して、動画アプリをチェックする。
ぶっ!
日間動画ランキング一位?
早朝登録で再生数が五十万を越えている?
な、なんだこれ?
「バズッたねえ、タカシくんっ、Dチューバーのスターダムだよっ」
「リボンちゃん可愛いよなあっ、新宮の気持ちわかるぜっ」
「あ、ピクコン発見、通報しなきゃっ」
クラスメートが俺に寄ってきてわっしょいわっしょい状態になった。
「新宮のかーちゃん、強くて優しそうでいいよなあっ、戦えて癒やせる『僧兵』クラスはすげえ、異世界では十七のピチピチギャル!! 見て見てえっ!」
「あ、ありがとう、というか通してくれ」
俺はクラスメートにもみくちゃにされながら席についた。
きっと金星をあげた相撲取りはこんな感じなんだろうなあ。
「なんだか褒められ慣れてないみたいねえ、そういう所も可愛いね、タカシくんっ」
峰屋みのりは前の席にすわり、俺の机に頬杖を付いて下から見上げる感じで俺を見た。
なんだか東海林も椅子を移動させて、俺の席に向けて座った。
「【オカン乱入】をネタスキルと言って正直すまなかった。動画をみたら、すごいシナジースキルだったな」
「スキル名カードを最初見た時、タカシくん凄いがっかりしてたよねー」
「レア箱開けてスキルがネタネームだったらな、俺でもあの顔になるだろう」
うわあ、なんだか自分のやった事を逐一他人に見られていると思うと恥ずかしいものがあるな。
「新宮の母親が死んでいて、異世界転生して、60レベル超えの凄腕冒険者になっていて、それを呼べた、というのが奇跡的だな。このスキルは、普通の場合、役に立たない普通の母親が呼ばれて困るだけのスキルのはずだ」
「そう考えるとラッキーだったな」
「レベル60って凄いの?」
「うむ、良い質問だ峰屋さん。今、Dダンジョンの最深部を攻略中のアメリカのホワッツマイケルパーティのリーダー、マイケル氏が昨日の時点で72レベルだ」
「すっごいじゃないっ!! S級配信者クラスなのっ?」
「新宮の母親の技量、戦技スキル持ち、あのメイスも多分魔法の品物だ。そう考えるとS級配信者と同等だな」
「そんな凄い人を、一日三回、三分呼べるんだ、タカシくんすごーいっ!」
「迷宮攻略にとても役立つスキルと言えよう。フランスで三本目が出た先祖召喚系【サーバント召喚】のプロトタイプスキルなのだろう」
「フランスで三本目が出たのか」
「新宮、お前はニュースにうとすぎるぞ、Dチューバーたるもの常に情報にセンサーを働かせてだな……」
「おフランスの人は誰を呼んだの? 東海林くんっ」
「今度は外人部隊に居たお婆ちゃんが出たそうだ、鞭を使って強そうだったよ」
「また呼ばれたのは軍人の先祖か」
「三代前までの戦闘力が高い祖先となると自然に軍人が多くなるのだろうな」
「はあ、私も【サーバント召喚】欲しい~~、横穴探そうかしら」
「どうも外れの横穴も多く開けられているようで、中に魔物が居て殺される動画も出ていたよ」
「ぎゃー、こわいーっ、でも横穴あったら万が一って入っちゃうよね」
「運営は悪魔だからね、人の欲望を突くのが上手い、気を付けねばいけないよ、峰屋さん」
「怖くて危なくて、それでいてとても魅力的だねえ、Dダンジョン」
東海林はよく研究しているな。
そういう所は偉いな。
峰屋さんは意味なくくねくねするのをやめてくれ、サッチャンを思いだしてしまう。
先生がのっそりやってきてホームルームが始まった。
「新宮の動画が世間でバズっているな。先生も見たぞ、新宮は頑張ったな、見ていて思わず応援していたよ」
「あ、ありがとうございます」
「このクラスにも新宮に続けと思ってDチューバーを始めようとする奴はいっぱいいるだろうが、ちょっと立ち止まって足下を見ろ。やめろとは言わないが、年間何万人も死んでいる危険な場所だ、まずは準備して、安全な場所を見極めてからだな。動画を見ているおまえたちに言うまでもないが、迷宮では簡単に人が死ぬ。正直新宮のようにソロで迷宮に潜るのはやめてほしい所だ。簡単に金が儲かる、簡単に名声が得られる、迷宮はそんな場所だが、運営は悪魔だ、十分気をつけて挑んでくれ」
先生は良いことを言うな。
迷宮ではもの凄い数の死者が毎日出ている。
俺も沢山の死者を見てきた。
迷宮は甘い場所では無いんだ。