「ははっ、そんなおもちゃでこのレア魔剣『イナズマの剣』に勝てるとでも思っているのかっ」
「お前こそ、戦闘スキル舐めんな」
俺は冷たく言い放ち会議室のテーブルを蹴倒して動ける場所を増やした。
「が、がんばれっ、タカシくんっ!!」
「ケイン、あ、あまり酷い事にしないでくれ」
「お任せください、社長、こんな奴当たれば一発ですよっ」
「当てられればな」
ケインが大上段から斬ってきた。
軸線にブレがあるし、腰が引けてる。
プラスティックのおもちゃのバックラーで斬撃を弾いた。
「え?」
「え?」
「え?」
姿勢が崩れた所をすり足で移動し懐に入ってバックラーでケインの顔を殴る。
バキャン!
「ぐあっ!! か、顔はやめてくれっ!!」
「そうか」
ケインが気が狂ったような勢いで『イナズマの剣』を振り回す。
それを、バックラーで、プラ剣で、さらにバックラーでいなして弾く。
隙だらけの胴体にプラ剣を打ち込む。
バックラーを打ち込む。
蹴りをぶち込む。
「ぐああああっ、こんな、こんな事がっ」
「お前は本物の配信冒険者を舐めすぎだ」
バックラーは小さい盾と勘違いされがちなんだけど、実はあんまり盾ではない。
体感的には籠手に近い。
握りこんで敵の攻撃に当てて勢いを殺し、そのままシールドバッシュで面打撃をぶち込む武器だ。
俺は【剣術】のレベルより【盾術】のレベルの方が高い。
よく使うからね。
「タカシくん、強いっ」
「馬鹿な、勇者ケインはレベル40だぞっ」
鈍くなってきたケインの大剣の振りに合わせて、バックラーを奴の持ち手にぶつける。
ドギャッ!
「ぎゃっ!」
ケインは『イナズマの剣』を取り落とした。
ガランガランと大剣は床に転がる。
プラ製のバックラーも割れてきたな。
まあいい、大事なのは形で、形さえ保っていればスキルが乗る。
「あ、あうあうあう」
ケインが涙目で俺を見てイヤイヤをするように手を振った。
俺はまっすぐにケインの間合いに入り、腹にシールドバッシュと剣戟を加えた。
ドゴッドゴッ!!
「ぐわえええええっ!!」
汚い悲鳴を上げてケインは床に崩れ落ちた。
「命のやりとり無しで、レベルをどれだけ上げても強くなる事なんか無いんだ」
「うぐあああっ」
ケインは頭を抱えて泣いていた。
子供のように号泣していた。
「峰屋、【回復の歌】」
「はっ、はいっ、イエッサーっ!!」
峰屋はリュートを前に回し、つま弾きながら歌い始めた。
「『さあ目を開けて傷を癒やそうよ~~♪ 頑張った君の勇気を力に変える~~♪ 治れ治れ治るんだ~~♪』」
おお、リュートの伴奏が入るとすごく良い感じになるな。
ちょっと後半一音間違えて、しまったという顔をしたが。
煙が出てケインの傷が治っていく。
再度、掛かってくるかと思って奴を見ると、視線があった瞬間ひいいと言って体をすくめた。
「な、なんという……、タカシくん君は……、凄腕なのか」
「これくらい普通です、低層にごろごろ居ますよ」
「という訳で、高橋社長、私はケインさんみたいな偽物の
「そんな、私は……、よかれと思って……」
沈黙が室内を満たした。
ただケインがすすり泣く声だけが響く。
ビューイビューイ!!
なんだか聞いた事がない音がポケットの中からした。
峰屋みのりの方からも、高橋社長の方からも、ケインの方からもした。
Dスマホが鳴っている。
緊急地震速報? とは音が違うようだが。
スマホを出して見ると画面には『迷宮緊急発表』とあった。
クリックすると、記者会見場にいるサッチャンが映った。
『はあい♡ 冒険配信者のみなさ~~ん、デモンズダンジョン広報のサッチャンでーす♡』
「サッチャンさま、いつも可愛い……」
そういえば峰屋みのりはサッチャンのファンだったな。
『今日は緊急迷宮速報を使って、二点の迷宮の変更について説明しちゃうぞっ♡ 命に関わるから良く聞いてね』
「なんだ? よほど重大な変更なのか?」
高橋社長は壁掛けテレビのリモコンを取って、緊急迷宮発表を中継をしているチャンネルに変えた。
『まずは一点、カメラピクシーの仕様を変えまーすっ♡ 今現在、カメラピクシーは攻撃されると突撃モードに入り、魔力が尽きるまで暴れ回るようになっていましたが、これを変更します』
ああ、リボンちゃんの仕様が変わるのか。
なんだろう、喋れるようになるとか。
『人間はずっと一緒のカメラピクシーに心を許してしまうようで、我々もびっくりです。例えば、話題のタカシくんのリボンちゃんに攻撃をすると言って脅迫もできちゃうわけですよ♡ タカシくんはピクコンで気持ち悪いですよね』
ほっといてくれ。
『そういうのは楽しくありませんので、現時点から、カメラピクシーには『物理反射』『魔法反射』のスキルをパッシブで付けることになりました。つまり、メガテンでいうテトラカーンとマカラカーンですね』
まいどまいど思うのだけど、迷宮の悪魔は日本のサブカルチャーが大好きだよな。
『これで、カメラピクシーを攻撃すると言って脅迫はできなくなりました。タカシくん、良かったですね』
個人名を出さないでくれ。
でも、確かに助かる。
リボンちゃんの命を盾に脅迫されていたら、俺はやばかった。
ナイス変更だ。
「良かったね、タカシくんっ、これってどうなるの」
「カメラピクシーを攻撃した相手にそのまま反射してダメージが入るんだ」
「ああ、それは良いね、リボンちゃんもおかっぱちゃんも安心だ」
「なんだ、つまらん事を仰々しく告知しおって」
高橋社長が怒っていた。
『あと、もう一つは、どうでも良い変更なんですが、アイドル殺しの発生猶予申し込みを廃止いたしますっ♡』
「な、なんだと!!」
高橋社長は立ち上がった。
「え、どういう事?」
「お金を払ってアイドル殺しが発生しないようにしてもらっていたのを、やめるって事」
「え、それじゃDアイドルがヤバイじゃない!」
芸能界に取ってはこっちの方が大激震だろう。