高橋社長も居なくなったのでリーディングプロモーションから出る事にした。
峰屋みのりとエレベーターに乗って一階まで降りる。
芸能関係者なのか、顔を強ばらせたおじさんおばさんが足早にビルに入ってきていた。
ビヨリン!
Dスマホが鳴った。
出して見ると泥舟からだった。
『タカシ、見た? 中継』
「見たよ、凄い事になったな」
『それもそうだけど、タカシの剣だよ、同じ形だよ、今どこにあるの?』
「……部屋」
『ヤバイ、アウトローが攻めてくるかも』
「それはヤバイ、急いで帰る」
『今どこなの?』
「峰屋と五反田。芸能プロの勧誘を聞きに来た」
『あ、そう、良い条件出た?』
「ろくでもなかった、そしたら緊急放送でそれどころじゃ無くなったから帰る所」
『僕と鏡子さんがマンションで詰めるから早く帰って来て』
「ありがとう、助かる」
俺は電話を切った。
泥舟は気が回って有能だな。
「泥舟くん、なんだって?」
「剣が心配だから俺の部屋に詰めてくれるって、鏡子ねえさんも呼ぶって」
「た、たいへんだっ!! そりゃそうだよ、サッチャンさまを傷つけられる剣と同形なんだからっ、急ごうよ!」
「そうだな」
俺たちは白ベンツに乗り込んだ。
「高梨さん、急いで街に戻って」
「はい、お嬢様」
運転手さんは高梨さんというのか。
覚えておこう。
車は丁寧にそれでいて急いで川崎に向かう。
高梨さん、腕が良いな。
「心配だね」
「大家さんに迷惑が掛かってなければ良いけど」
不良Dチューバーが集まって騒ぎになっていたら困るな。
多摩川を渡り、川沿いの道を南下していく。
駅前には行かずまっすぐ行って第一国道を横断する。
俺たちの街に入った。
高梨さんに道を説明して俺のマンションまで行って貰う。
俺のマンションの前には武装したDチューバーが集まっていた。
「わっ、もうこんなに」
「あっ」
そして、鏡子ねえさんがブラスナックルを両手にはめて無双していた。
それはそれは、ゲームみたいにバッタバッタとDチューバーたちをなぎ倒していた。
「わあっ」
「わあ……」
「これ以上は入れませんよ、お嬢さん、どうしましょう」
「下りるわ」
「危ないですよ」
「タカシくんがいるし、鏡子おねえちゃんもいるから」
高梨さんが俺の目を見た。
「お嬢さんをよろしくおねがいします、タカシさん」
「解りました、近くの駐車場で待っていてください」
「かしこまりました」
俺と峰屋みのりは車を降りた。
「おお、タカシ~~!! 馬鹿がいっぱい来たぞ」
「ありがとう、鏡子ねえさん」
泥舟も槍で武装しているな。
マンションの入り口は住人らしいDチューバーさんが守っていた。
ナギサさんがなんだかオロオロしている。
「ナギサさん、ごめんなさい、騒ぎになってしまって」
「あ、タカシ君、良いのよ、タカシ君のせいじゃ無いんでしょ」
「まあ、そうですけど」
パトカーがやってきた。
『武装しているDチューバーは直ちに解散なさい。命令に従わない場合は逮捕拘束します』
「おいっ、狂子、あの剣は司馬竜一さんの物で、おめえのもんでも、タカシのもんでもねえんだよっ!! 返しやがれっ!!」
「迷宮に落ちてたもんは私のもんだし、タカシに譲った、ぬるい事言ってねえで帰れっ!!」
司馬組関係者なのか?
こんな所で遊んでいていいのか?
鼻血を出しているデブの前に出た。
「司馬竜一というのは誰?」
「あ、タカシ!! お前の持ってる剣は人のもんだぞっ!! 返せっ!!」
「というか、司馬組関係者がこんな所で遊んでいて良いのか? サッチャンが全滅させるって言ってたが」
「い、いや、俺はその、司馬組の関係者じゃあ、ねえけど……」
「じゃあ、関係無いな」
ちょっと知っていて、ダメ元で押しかけて来たか。
「お、おめえのじゃねえんだ、返せよっ!!」
「お前に返して、それでお前はどうするんだ?」
「え、司馬組に、その渡して……」
「今晩にも殲滅させられる組にか?」
「う、うるせえええっ!! 理屈ばっか言いやがってっ!! しねーっ!!」
鼻血デブは剣を抜いた。
鏡子ねえさんがするりと懐に入り込み、見えない速度で、頬を殴った。
顔が百八十度ぐるりんと回ってデブはキリキリ横に回りながら吹っ飛んだ。
「ころす」
「あ、鏡子さん、やめて下さいね、殺すのはやり過ぎです、本官にお任せ下さい」
この前の警官さんがにこやかに笑いながら鏡子ねえさんを止めた。
どうやらDチューバー犯罪対策のDチューバー警官さんみたいだな。
なんとなく、武道スキルの匂いがする。
本官さんが鼻血デブを拘束すると、他の不良Dチューバーどもはブツブツ言いながら駅の方へ向かって行った。
「おい、デブ、司馬竜一って人はどうなったんだ?」
「あ? ああ竜一さんな、死んだぞ、権八さんと女の取り合いで喧嘩になってなあ、昨日今日Dチューバーになったやくざのボンボンが権八さんに勝てるわきゃねえだろ」
「権田権八ですか、八階の半グレですね」
本官さんが教えてくれた。
「なんで、それを鏡子ねえさんが持っていたんだ?」
「うーん、死体から拾った気がする」
「おうよ、今日の放送を権八さんが見て、そういやあんな剣あったなって、情報通がタカシの所にあるって調べたから取ってこいって言われたんだ」
「なるほど」
「タカシ、お前は終わりだ、権八さんに狙われたら誰も助からねえっ、ひっひっひっ」
「きたらころす」
鏡子ねえさんは物騒だな。
本官さんは鼻血デブを連行してパトカーに押し込んだ。
「それでは本官はこれで失礼します」
「いつもありがとうございます」
「いえいえ、これが仕事ですからね」
にこやかに笑って本官さんはパトカーにのって去っていった。
「どうもお騒がせしました」
俺がナギサさんに頭を下げると彼女は微笑んだ。
「びっくりしたけど、店子さんたちはDチューバーですからね、わりと心強いのよ」
入り口を閉鎖していたDチューバーさんたちは居なくなっていた。
一度、ちゃんとお礼を言いたい物だな。
お蕎麦でも持って行くかな。