今日の授業が終わった。
「タカシくんタカシくん、一緒に帰ろうよ」
峰屋みのりがデデデと寄ってきた。
「ああ、そうだな」
「ご一緒しましょう」
東海林も鞄を持って立ち上がる。
廊下を行くと泥舟がやってきた。
「あ、タカシ、峰屋さん、東海林君、こんにちは」
「泥舟くんっ、今日も楽しみだねっ」
「そうだね、今日はジョブチェンジしたいよ」
「大丈夫だよ、泥舟君なら、ねっ」
「そろそろ大丈夫じゃないか、5レベルあれば行けると思うよ」
俺もそう思う、泥舟がジョブチェンジをして、峰屋みのりも5レベルに上がったら、十階フロアボス突破を考えても良いだろう。
正直、鏡子ねえさんと俺で十階は軽々突破できるだろうが、『Dリンクス』全体の事を考えるとそれは不味い。
ある程度はレベルを合わせないとな。
昇降口で靴に履き替えて校舎の外に出た。
校門に鏡子ねえさんが待っているのが見えた。
今日はヘビ柄じゃなくて黒いボディスーツだな、買ったのかな。
「おお、きたな」
「こんにちは、鏡子ねえさん、格好いいね」
「へへー、良いだろう、みのりのママが買ってくれた」
「良く似合っているよ」
綺麗な革製の黒いボディスーツだ。
あちこちにクッションが入っているからバイク用かな。
「ママはもう、鏡子おねえちゃんに服を買ってあげたくてしょうがないんだよ。昨日もデパートで色々買ってた」
「ありがたいんだが、ちょっと申し訳無くて困るな」
「いいんだよー、ママも楽しいんだから」
「そうか?」
鏡子ねえさんは恥ずかしそうにして頬を指で搔いた。
うん、峰屋家で大事にして貰っているみたいだね。
なによりだ。
皆で歩いて家路をいく。
まだ梅雨前の空はにじんだような感じで良い気候だな。
「それじゃ、あとでタカシくんちに行くねっ」
「DIMAZONのマグカップ受け取っておいてくれー」
「解ったよ」
峰屋みのりと鏡子ねえさんはお屋敷街へ折れていった。
「それじゃ、後で迷宮で」
「わかった、またなー」
「またね、東海林君」
東海林が一軒家に入っていく。
泥舟の家まで行くと、誰かが立っていた。
「あれ、お爺ちゃん」
「こんにちは」
泥舟のお爺さんの雲舟さんだった。
和服がビシッと決まった姿勢の良いお爺さんだ。
「おお、タカシ君、お久しぶり」
「どうしたの、お爺ちゃん」
「ちょっと、タカシ君にお願いがあってな」
「なんでしょう」
「久しぶりに厳岩の顔を配信で見て懐かしくなってな、会いたくなったんじゃ。今日迷宮に行くのだろ、連れて行ってくれんか」
「わあ、師匠も喜びますよ。是非一緒に来て下さい」
「そうか、防具は当世具足で良いかの」
いや、合戦でもしにいくつもりか、雲舟爺さん。
「厳岩さんに会いに行くだけなんでしょ?」
「まあそうだが、迷宮は魔界じゃからな、出来るだけの装備をしたほうが良いかと思ってのう」
「浅い階なら、胴丸と槍ぐらいで良いと思いますよ。泥舟も陣笠だし」
「そうか。そういえば、泥舟、あの陣笠いいな、どこで売っておった?」
「ゴブリンからドロップしたんだよ」
「そうか、次回出たらワシにくれ」
「いいよ」
「そういえば今日は月曜日で師匠はいないかもしれませんよ。土日なら確実なんですが」
「まあ、居なかったら居ない時じゃわい。一狩りして帰ればよい」
なんか、狩りする気まんまんだな。
厳岩師匠の養老パーティに参加しそうだ。
雲舟さんも一緒にマンションに来て貰うことにして、泥舟と別れた。
マンションに近づく。
歩調を緩めるが、昨日のような後ろ頭にピリピリくる感じはないな。
【気配察知】の方にも違和感がある存在はいない。
マンションの玄関を入り、エレベーターに乗る。
高橋さんは何階の人なのかな。
早めに挨拶をしたくなってきたな。
部屋の前に置配された沢山のDIMAZONの段ボールがあった。
どんだけ買ったんだ鏡子ねえさんは。
あきれつつ、ドアを開けて運び込む。
大きい奴はローソファーっぽいな。
とりあえずいつもの戦闘ジャージに着替えてローソファーから段ボールを開封していく。
お、これはなかなか。
そんなに高級そうではないけど、良い感じの座り心地になるね。
いつも鏡子ねえさんが座る位置に大きい方を置いて、俺と泥舟の方に二つの小さなローソファを置いた。
わあ、なんだか部屋っぽさが上がったな。
あとの段ボールは全部鏡子ねえさんの買ったやつだから開けないでおいた。
ローソファーに座ってくつろぐ。
いいねえ。
そんな事をしていたら、ドアホンが鳴った。
出て見ると、峰屋みのりと鏡子ねえさんだった。
「きたよー、タカシくん」
「きたぞー、ぎゃあ、もう届いているのかーっ!」
鏡子ねえさんが俺の肩越しにローソファを見つけて声を上げた。
「鏡子ねえさん、どんだけ色々買ったんだ、沢山段ボールがきたよ」
「本当か、わあああ、嬉しいなこれ」
なんとなく解る。
通販が届くと妙に嬉しいもんな。
鏡子ねえさんはうしゃうしゃ笑いながら段ボールをばりばり開けた。
マグカップとか、スニーカーとか、鍋とか、色々な物が出て来た。
峰屋みのりはキッチンで食器類を受け取り洗っている。
なんでラーメン鉢まで買うのかな。
しかもネコが付いてる奴が六個。
ピンポーン。
今度は泥舟と雲舟師匠だった。
「こんにちは、あ、ソファー来たんだ」
「こんにちは」
雲舟師匠は赤い胴丸をして、籠手を付け、頭に鉢金を巻いて凄い気合いだな。
「お、じじい、誰? 強そう」
「やあ、君が鏡子ちゃんじゃな、配信で見たよ、わしは雲舟、泥舟の祖父じゃわい」
「わあ、お噂はかねがね、峰屋みのりです」
「私は鏡子だ、よろしくなっ」
「おお、生みのりんちゃんじゃな、さすがのかわいさだ」
「もう、やめてよ爺ちゃん」
「はっはっは、すまんすまん」
雲舟師匠は快活に笑った。