「どうだ、
「ああ、大分違うね。力が流れやすくなったというか、不思議な感じ」
「力の流れが解るようになるんだよな」
その特長の一つが、運動力の感知だ。
体に流れる重力や筋力の動きが直感的にイメージ出来る。
これがあるから、跳んだりはねたりが上手くできるし、吹き飛ばされた時の受け身とか、盾で攻撃を受け流したりが上手く出来るようになるんだ。
スキルでは無い基礎能力なんだけど、どんなコモンスキルもかなわない長所だと思う。
「おお、こんなに違うのか、泥舟ちょっと歩いてみろ」
「こうかい、お爺ちゃん」
「「お~~」」
年寄り師匠たちが感嘆の声を上げた。
「練れたのう」
「ベテランの足運びじゃわいな、軸がまったくぶれておらんわ」
「そうかな」
泥舟は照れて笑った。
というか雲舟先生はDチューバー化してないのに、動きが見えてそうだな。
それはそれで凄い鍛錬だな。
「槍の大会で年若いのに妙に老成された動きの選手を見るが、あれもDチューバーかのう」
「そうじゃろう、剣道の方でもDチューバーと一般の差が広がって困っておるよ」
「同じ条件で試合させるといかんなあ」
「サッカーなんぞはDリーグを作って隔離したつもりが、Dリーグばかり人気になったらしいわい」
「そりゃ超人的なプレイの方が見たいわなあ」
サッカーと野球は、Dチューバーと一般選手を分けてリーグを作っている。
だが、人気が出るのはDリーグばかりというのが現実らしい。
「やれやれとんでもない変革期じゃな」
「あと十年ぐらいは落ち着かんじゃろうて」
「ワシらはちょっと飲んで帰るが、タカシたちもどうだ?」
「いやあ、飲み屋はちょっと」
「そうか、まだ早いか、惜しいのう」
「では、またな、タカシくん、今日は楽しかったぞ」
「はい、また、雲舟師匠、厳岩師匠」
「またなあ」
爺さん師匠ズは飲み屋街の方へ歩いていった。
「私たちはファミレスで打ち上げをしよーっ」
「え、やだ」
「えー、なんでなんで、タカシくんなんでー」
「毎日外食ばっかりだとな」
「ぶーぶー」
「ああ、じゃあ、タカシの家でオークハムサンドパーティをしよう」
うわ、また迷惑な企画を考えるな鏡子ねえさんは。
「良いね、サンドイッチパーティだ」
「やるやるー、からあげも買おうよ」
お惣菜を挟むとなんだか、俺の思う粗食ではないのだが。
まあ、楽しそうだから良いか。
外食よりは安いだろうし。
「その前に、
「そうだな泥舟」
俺たちは地獄門に隣接する複合商業施設に入った。
三階にあるしょぼくれた『三間堂』は俺の行きつけの買い取り屋だ。
専門は呪文巻物とか聖典だな。
ドアベルを鳴らして中に入る。
店は一面のガラスケースの中に呪文巻物や聖典が並んでいる。
一角が改造されて『
「やあやあ、タカシ少年! ひさしぶりだね。ややっ!! みのりんに狂子さんに泥舟くんっ!! 『Dリンクス』で来てくれたのか、ようこそようこそ」
「売りに来ましたよ清美さん」
俺を出迎えてくれたのは、店主の清美さんだった。
メガネの元気なお姉さんだ。
「さて、何を売ってくれるのかな」
「【元気の歌】と【
「【
「見てたんですか、東海林にやってしまいました」
「ああ、なんとも惜しい。でも、
三点で十万になった。
【元気の歌】が六万、他の物が二万ずつだ。
「今度は【威力増幅の歌】を出しておくれ、高く買い取るよ」
「そうそう出る物じゃないですよ」
「何を言っているのだ、きっと出るよ、そう『Dリンクス』なら、ね」
まったく、調子が良いんだから。
「ここはレア
「今は無いねえ、レア
市場にレア
「それではまた来ます」
「ありがとう、また来てくれたまえ」
俺たちは『三間堂』を後にした。
「元気なお姉さんね」
「アウトローが店を襲ったらあの店主はどうするんだ?」
「魔法で戦うよ」
「Dチューバーなのか!」
「レア
「良いなあ」
彼女が居た『ダークライジング』はS級配信パーティだったけど、六十七階で強悪な魔物の群れとぶつかり相打ちになった。
生き残ったのは彼女ともう一人だけだったという。
それ以来、彼女は買い取り屋をやって生活をしているらしい。
「配信冒険者もいろいろあるんだな」
「S級なのにもったい無いわね」
「まあ、人の人生だから、何とも言えないよ」
「そうだな」
泥舟がスマホでの計算を終えたようだ。
「それじゃ、二万通しで」
売り上げを分配してくれた。
余りは自分の財布とは別の財布に入れて、『Dリンクス』のお金として管理してくれているようだ。
五階の狩りだというのにもの凄く儲かるな。
「よし、これで美味しいパンを買ってタカシくんの部屋にいこーっ!」
「沢山食えるぜっ」
俺は、粗食が食べたかっただけなのに。