白旗を持った六人の半グレがいた。
「タカシ~~、降参するから見逃してくれ~~」
「降参って、別に戦って無いが」
「私は殺す!」
「ぎゃー、だから降参だ~~、俺たちは九階の免田一家の者だ、逆らわないので見逃してくれ」
「私は殺したい」
まあ、降参してる相手を殺すのもなあ。
何かの陰謀を廻らしているのかもしれないけど。
「まあ、戦わないなら、引っ込んでなさいよ。わざわざ見つけ出して殺さないから」
「私はわざわざ見つけ出したい」
「お、恩に着るぜタカシ、道中の魔物は倒しておいた、今なら戦闘無しで十階までいけるぜ」
「それは助かる」
「余計な事すんなっ」
鏡子ねえさん、どうどう。
「フロアボス戦、がんばれよ~~」
「応援してるぞー」
半グレたちに声援されて俺たちは歩き出した。
なるほど、魔物が出てこないので時間の節約になるな。
Dマップを頼りに九階をすいすい歩く。
「意外に話のわかる半グレさんもいるのね」
「半グレはみな嘘つきだ、なにか企みがあるにちがいない」
「まあ、戦闘が無いに越したことはない」
「タカシはやさしいからね」
よせやい、泥舟。
俺は照れくさくなった。
『あはは、なんで七階で多人数殺しが出たか解った』
『算数のせいじゃないのか?』
『さすがに算数はクリアしていた、十八人きっちりで待ち構えていたんだ』
『じゃあ、どうしてよ』
『一パーティが馬鹿でな、レイド組むの失敗してやがった』
『『『あー』』』
『待ち構えていた真後ろにオルトロスがポップして、初手火炎ブレス』
『あー』
そうだったのか、半グレたちはレイドを基本組んだりしないからな。
馬鹿げた話だ。
「魔物がいない洞窟は歩きやすいね」
「まあ、散歩みたいなもんだからな」
するすると歩いて十階への下り階段に到達した。
「この下が十階だ、フロアボスのフィールドまで歩く。フィールド前の安全地帯で大休止するぞ」
「うん、ちょっと疲れた。『きょうはいいてんき~~♪ おひさまわらってぴっかりこ~~♪ さあげんきをだしておかのむこうまであるこうよ~~♪』」
峰屋みのりの【元気の歌】に押されるようにして俺たちは階段を降りる。
十階だ。
なんだか久しぶりで懐かしい気持ちもする。
ここはボスフロア以外は全部の通路を知っている。
ここを根城にしているアウトローはいないので、治安も少し良かった。
安全地帯から離れるとオークが三体現れた。
「『デーブデーブ』」
初手、峰屋みのりの【罵声】だが抵抗されて、オークの目が真っ赤になった。
「うおっしゃあっ!!」
鏡子ねえさんが峰屋みのりに襲いかかろうとしたバーサクオークに横合いからパンチを三発ぶち込んだ。
ダダダンッ!
そのまま首に手を掛けて折る。
ボキン!
一匹のオークが泥舟に、もう一匹が俺に掛かってきた。
泥舟は冷静に膝に一発突きを打ち込み、そのまま穂先を跳ね上げて首を貫く。
「ぶぎーっ!!」
俺は間合いを一気に詰めてオークの斧をバックラーで跳ね返し、『暁』で心臓を貫いた。
「ぶっひー」
さすがに四人で戦うとオークも何でも無いな。
「ごめんなさい、抵抗されちゃった」
「ああ、バーサークしてると動きが単調になるから問題無いよ、気にすんなみのり」
「あ、ありがとう」
「失敗は成功の元ってね。今のうちは一杯失敗しよう、峰屋さん」
「うんっ」
峰屋みのりが期待に満ちた目で俺を見ているな。
えーと。
「まあ、どんまい」
「う、うん」
なんだか残念そうだな。
というか、女子に受ける慰め言葉なんか知らないよ。
経験値霧をみんなで吸って、ドロップ品をひろう。
鏡子ねえさんに食われる前にオークハムを救出した。
「ぐおう、タカシー、ハムくれよう」
「もうすぐ大休止で弁当を食うからがまんしなさい」
「ぶーぶー」
まったく手の掛かるおねえちゃんだな。
他にポーションと魔石、胸当てがドロップした。
胸当てはあまり良い品では無いので置いて行く。
ここを曲がるとレアスキルがあった横穴の場所に続く。
だが、まあ、今日はフロアボス戦だからいいや。
思い出に浸るのは十年後ぐらいにしよう。
フロアボスの前の安全地帯に行くのに、りっちょん受難の場所は通らない。
あの社長はスタッフの死体を上に上げて蘇生させたのかな。
なんとなく、迷宮に食わせたような気がするな。
寺院での蘇生は一回三百万円ほどかかる、しかも失敗の可能性もある。
失敗して灰になっても、三千万出せばもう一回蘇生にチャレンジできる。
だいたい五十%ぐらいらしい。
ここで失敗すると【
迷宮というのは金次第だし、情けも福祉も無い。
アタックドックが群れできた。
五匹だ。
「『ゆっくりゆっくりゆっくりなりたまえ~~♪ あせってもしかたがないからのんびりいこうじゃないか~~♪』」
初手に峰屋みのりの【スロウバラード】。
五匹の犬の速度がゆっくりになる。
「ナイスみのり」
「助かる」
「良い判断だ」
敵が多かったから【スロウバラード】は良い判断だった。
そんなに強く無くても数が多いのは致命的になりやすい。
俺も『暁』で犬の頭を斬り飛ばした。
泥舟が一匹、鏡子ねえさんが三匹倒して戦闘は終わった。
「マジックポイントは?」
「まだ半分あるよ」
「そうか、休憩中にマジックポーションを飲んで全快にしておいてくれ」
「ラジャっ」
峰屋みのりは敬礼をした。
ドロップアイテムは、魔石、アタックドックホットドック、犬の絵が描かれたジッポのライター、同じく犬の絵が描かれたジャンバーだった。
ジャンバーはかさばるが、冬に着るのにいいな。
持って行くか。
さて、フロアボスフィールド前の安全地帯に着いたぞ。