さて、土曜日である。
今日は早朝に集合なので、早めに鏡子ねえさんとチアキに朝ご飯を食べさせる。
外はまだ暗いね。
「もう三十階か、早いな我々は」
鏡子ねえさんはパンをかじってドヤ顔で言った。
「俺とねえさんはレベルが高いからね。泥舟、みのり、チアキは順当な感じだ」
だいたいパーティ全体の平均レベルと走破階数は等しいと言われている。
まあ、装備によっても変わるのだけれども。
チアキがこっくりこっくりしながらミルクを飲んでいる、眠そうだな。
食事も終わって六時半、俺達はマンションを出る。
外では泥舟とマリちゃんがいた。
「おはよー、みのりはまだ?」
「あ、今来ましたよ」
真っ白なベンツが止まって『
「おはようおはよう『おはようおはよう~~、あかるい笑顔にさんさん太陽さんが~~♪ にっこり顔出しおはようさん~~♪』」
みのりがアカペラで【おはようの歌】を歌うとしゃっきりと目が覚めた。
皆で駅まで歩く。
朝方の街を行くのはなんだか良い雰囲気だ。
東の空が明るくなって雲がゆっくりと流れていく。
「マリちゃんは今日は鍛冶レッスン?」
「はい、今日は片手剣の作り方を教えてくれるそうです」
マリちゃんも鍛冶に燃えてるなあ。
「個人的に配信もして、レンタル鍛冶場のコマーシャルもしますよ」
「『
「はいっ」
駅に着いたので、キオスクで行動食を買い込む。
俺はいつものナッツバーだな。
チアキはおにぎりにお菓子だ。
マリちゃんもお菓子を買っているな。
「ゲドラ親方と食べようと思って」
「おお、お菓子チートだねぇ、良いかもっ」
「親方は異世界人だもんなあ。平気で日本語使ってるけど」
「あの鍛冶場に魔法が掛かっていて意思疎通できるそうですよ」
さすが迷宮の悪魔、そつがないな。
電車に乗り込む。
ちらほら冒険者姿の乗客もいる。
川崎は配信冒険者の街だからね。
京急川崎駅に着いて、いつものように複合総合施設を目指す。
立ち食いそば屋から出汁の良い匂いがする。
「『Dリンクス』だ、軽装だなあ」
「収納袋持ちだからな、良いよなあ」
そんな冒険者たちの声も聞こえてくる。
身軽に歩けるのは収納袋さまさまであるね。
重いリュックを持たないで迷宮を行けるのは相当楽なのだ。
戦利品でだんだん重くなるからね。
崎陽軒のスタンドでお弁当を買い込む。
マリちゃんにシウマイ弁当を一つ余分に渡した。
「ゲドラ師匠に差し入れで」
「わ、きっと喜びますよ」
角を曲がると、ガラの悪い配信冒険者が三人、フル装備で斬り掛かってきた。
「ぎゃはは、収納袋に装備が入っていては、まともに戦え……」
鏡子ねえさんが黙って見えないパンチで半グレを吹き飛ばした。
「あっ、てめえ、ずるいっ」
「うるせえっ」
【
「ねえさん、外界だから殺しちゃだめだよ」
「わかった、死なない程度にする」
「そうだ、出ろ、くつした!!」
チアキがポシェットから従魔の珠を出して投げた。
ボワンと煙が出て、くつしたが現れて半グレに体当たりをしてふっとばした。
「わおん?」
「火はだめ、噛み殺しても駄目な、死なない程度にふっとばせ」
「わおんっ!」
くつしたと鏡子ねえさんが嬉々として半グレをボコボコにした。
お巡りさんがやってきて、半グレ三人を捕まえて連行していった。
まったく、川崎は物騒な街だぜ。
エスカレーターに乗って地獄門のある広場に出る。
今日は土曜日だから、結構配信冒険者が集まっているな。
わりと初心者が多いようだ。
「『Dリンクス』よ~~!」
「生タカシくん、生泥舟くんだわっ!」
「チアキちゃ~~んっ!!」
「鏡子さ~~んっ!!」
「みのりんこっちむいて~~!!」
Dチューバーの追っかけの人も沢山来ていた。
笑顔で手を振った。
何だか、スターにでもなった気分だね。
門の近くではリーディングプロモーションの出店が出ていて、『Dリンクス』がらみのグッズも売っていた。
マリちゃんの絵のグッズも沢山あるな。
地獄門をくぐる。
独特のきな臭い匂いがして、気温が一度ぐらい下がる。
ロビーも配信冒険者でいっぱいだな。
「それでは私は行ってきます」
「できあがったら見せてね~~っ」
「はい、チアキちゃん」
マリちゃんが手を振ってポータルホールの隣の通路に行ってしまった。
「オバケ地帯~~」
「みのりの【オバケ嫌いの歌】があれば何と言う事は無い」
「魔法武器とか無いパーティは大変そうね」
「ゴーストが厄介だな、魔法で片付けるとMPコストがなあ」
オバケ階は、そこまでに魔法武器を何丁か用意しておけという階層なんだろうな。
一番安いのは、【
十五階~二十三階までで、稀にでる。
オバケ階でも割と出る。
うちはまだ出て無いな。
さて、ポータル石碑で二十階まで飛ぼう。