前方に軽自動車ぐらいに巨大な節足類が待ち構えていた。
「巨大……ダンゴムシ? 三」
「ぎゃー」
足が沢山なのがみのりは駄目っぽいな。
相手に気づかれないギリギリの距離で泥舟が
バキューン!!
魔力弾は正確にダンゴムシの目と目の間を打ち抜いた。
跳ね上がるように海老反りになってダンゴムシは動かなくなった。
残りは二。
ダンゴムシはこちらを見つけ、体を丸めた。
バキューン!!
泥舟の魔力弾がはじき飛ばされた。
背中の装甲値が高い。
そのままゴロゴロと通路を転がってくる。
勢いが付いて加速してるな。
このまま轢き殺すのが攻撃法か。
「まかせろっ、きゃりありありあああぁぁ」
ねえさんの目が真っ赤になった。
『金時の籠手』がガチャリガチャリと変形する。
「『ゆ、ゆっくりゆっくりゆっくりなりたまえ~~♪ あせってもしかたがないからのんびりいこうじゃないか~~♪』」
みのりが【スロウバラード】を掛けた、目に見えて回転と接近がゆっくりとなった。
ねえさんが胸の前で腕を十字に組み、回転ダンゴムシの巨体を止めた。
もう一匹の前に俺は出る。
ゆっくり回転しているダンゴムシの頭部目がけて『暁』を突き込んだ。
俺の前のダンゴムシは動きをとめ丸まりがほどけて天に腹を見せて死んだ。
「きゃりありありあるううぅぅうっ!!」
鏡子ねえさんがひしり上げながらダンゴムシの丸まった背中にラッシュしていく。
見えないパンチが無数にヒットして円形の打撃痕が背中にマークされ、[楔]の権能で内臓が破裂して巻き散らかされた。
「『ああ~~あ~~、あたまをすっきりおんどをさげろ~~♪ れいせいにれいせいになれ~~♪ クールになれ~~♪』」
みのりの【冷静の歌】で、鏡子ねえさんの
「なかなかヤバイ敵だった」
「狭い所をあの調子で動かれたらヤバイ」
「三匹が跳ね返りながら攻撃してくるんだろうね」
「みのり、【スロウバラード】助かった」
「いえいえ」
みのりは嬉しそうにはにかんだ。
「虫慣れしてきたか?」
「う、ううん、丸まったから」
「丸まれば大丈夫なのか」
「丸まると可愛いけど、ほどけてると気持ち悪いのよ」
乙女のこだわりは良くわからないな。
『鋼鉄ダンゴムシは強敵なのになあ』
『わりとタンクの奴がよく轢かれる』
『蟻スコップで道に穴を掘って落とすのが定石かな』
ああ、それで蟻スコップが出るのか。
穴掘りで突進を止めてそこから戦うのか。
ダンゴムシが粒子に変わっていく。
魔力霧が発生して、魔石とドロップ品が出る。
ああ、出ると思ったが、三色串団子が出た。
お約束だな。
鈍器のモーニングスターとダンゴムシヘルメットが出た。
意外に良さそうな兜だな。
『鋼鉄製の兜じゃ、装甲値は良いが、重い』
『重いのはなんだねえ』
『虫系から出る防具は優秀な物が多いぞ』
『でも虫防具だしなあ』
ダンゴムシヘルメットをかぶろうとした俺の手をみのりが止めた。
「駄目」
「だめなのか」
「駄目です」
有無を言わせない迫力なので、ダンゴムシヘルメットは収納袋行きとなった。
「カブトムシ兜とかクワガタ兜だったらいいのか?」
みのりに鏡子ねえさんが聞いていた。
「そっちなら有り、ダンゴムシは無し」
なにやら深刻な虫サベツの現場に立ち会っている気がするが、まあ、しかたがない、女子とは理不尽な物だ。
すこし行くと下り階段があった。
階段を下ると、二十八階だ。
まだ土壁階だ。
蟻スコップで削ると床を掘る事が出来る。
意外に能率的だな。
水場は無いが、安全地帯なので小休止する。
「あれ、ねえさん団子は?」
「チアキと喰った、みたらしが美味かった」
「小豆草餅が美味かった」
まったく食欲姉妹め。
段差に座ってナッツバーを囓る。
土壁に二つの横穴が掘ってあって、トイレットの看板があった。
ここは工事が楽そうだな。
「あと二階か、わくわくするなあ」
「タカシにいちゃん、ここも二十七階と似た感じ?」
「いや、今度は四つの大きめのホールが繋がって、キラービーとか、毒レインボー蝶とか、キャタピラーとかが出る」
「芋虫かあ、飛行敵は、私と泥舟兄ちゃんだね」
「みのりがぐるぐるの歌で落としてくれるしね」
「任せて、ハチさんと蝶さんは大丈夫!」
やる気になったみのりは頼りになるな。
だが、芋虫は駄目そうだな。
「泥舟の狙撃は頼りになるな、遠距離で一匹仕留められるのはでかいよ」
「飛行敵はアンブッシュして気付かれる前に終わらせたいね」
「あ、そうか、【気配消し】で撃って全滅させられないかな?」
「やってみよう、チアキちゃん」
「そうだね、泥舟兄ちゃん」
「うおんっ」
くつしたもアンブッシュするのか。
大丈夫かな。
『鉄砲隊は頼りになるねえ』
『遠距離攻撃はでかいわ、やっぱ』
『射手も頼りになるよな、ここの階』
トイレで用足しをして、手を洗い、出発だ。
俺達は第一ホールに繋がる通路を歩き出した。