朝、クラスに登校すると、いつものようにみのりがデデデと走り寄ってきた。
「タカシくんタカシくん、大変だよ、マリエンライブ明日だよ、どうしよう」
「どうしようって、頑張ってきたんだろ」
「う、うん、頑張って練習したけど、初めてなんで不安なんだよっ」
「頑張ってきたなら大丈夫だ、マリアさんもいるし、俺たちもみんな付いてるし」
「そうだよそうだよ、みのりは心配しすぎっ」
「私たちも会場にいるしさ、大丈夫大丈夫」
「そ、そうかな、不安だよっ」
クラスメートに慰められても、みのりの不安は消えないようだ、
「平気だ、みのりは凄いから、大丈夫だ」
「あ、ありがとうタカシくんっ」
そうか、みのりのライブはもう明日か。
意外に早いもんだな。
これから彼女は世界的な吟遊詩人として巣立っていくのだろうなあ。
いつまで『Dリンクス』として一緒にやってくれるかな。
俺としては百五十階まで付き合って欲しいけど、なかなか難しいかもしれないな。
すごいシンガーになってしまうだろうし。
などと思い悩みながら自分の席に向かった。
「新宮、昨日はトレイン厨を退治してたな」
「チアキがカエル玉を取り上げたんで自滅したよ」
俺は収納袋から【シルバーバトン】を出して東海林に渡した。
「わ、これ、良い魔法の杖じゃないか、良いのかい」
「うちは魔法使いいないから、持って行ってくれ」
「やろー、新宮、うちの林道だけじゃなかったのかっ」
「気の多い奴めっ」
めざとく『ダーティペア』が見つけて絡んできた。
「いや、別に林道くんの好感度を上げるためのプレゼントじゃねえよ」
「二本出ていたとはちょこざいな」
「戦士か盗賊に良いのくれよう」
「姫川はハルバードだろ、良いの出たらやるよ」
「おお、つうか、泥舟の家の道場にハルバードの講座ねえのかな」
「泥舟のじいさんのところは日本の槍だからなあ、ハルバードはちょっと違うんじゃないか」
「なんかどっかで習いてえ、いまんとこ、槍部分と斧部分しか使えてねえ感じ」
ハルバードは斧槍とも言って、複合的な長柄武器だからなあ。
使いこなすと強そうだが。
「Dチューブで配信でも見ろよ」
「見てるけど、なかなかなあ」
ああいうのはどこで覚えたらいいんだろうなあ。
俺も、沖縄のテンペー術を覚えたいところなんだが。
道場とか探そうかな。
俺は席に着いた、みのりが吉田の席に、東海林とマリちゃんが椅子を引きずってやってきた。
東海林がシルバーバトンを持って手になじませている。
「意外に短い杖だな」
「打撃武器にもなるんじゃない、なんとなく」
「そうかな」
後醍醐先輩が「おーす」と言いながらクラスに入ってきた。
「タカシ、三十五階突入おめでとうだぜ、高校生日本一のタメになったな」
「いや、足を踏み入れただけですよ」
「それでもすげえぜ、俺たちもがんばらねえとなあ」
「そういや、新宮、『たこ焼き一番』がまたディスってたよ」
「またか」
「急いで三十五階に来たって事は賭けを飲んだって事だとかなんとか」
「あいつらはよお」
あいつらは明日、四十階のフロアボス戦だな、焦って失敗とかしないで欲しいが。
いくらサイトで情報がとれるといっても、初見の階層を五階あげてフロアボスチャレンジは結構きついと思うんだが。
それでも四十階を超えるとB級配信冒険者だ、高校生としては破格の出世だよな。
「高校生で三十階を超えたって事で結構雑誌とかで騒がれていたからなあ、夢をもう一度な感じなんだろうぜ」
「迷宮で無理すべきじゃないんだけどね、人間はすぐ死ぬから」
「うちも気をつけないとな」
東海林が腕を組んでしみじみと言った。
『オーバーザレインボー』は慎重だし良いと思うけどな。
「みなさま『おはようおはようおはようございます~~♪ すてきな朝、青い空、白い雲に今日の元気をはじけさせましょ~~♪』」
おはようの歌を歌いながら後ろのドアからチヨリ先輩が入ってきた。
「ついに明日ですわね、みのりさん、がんばりましょうねっ♪」
「はい、チヨリ先輩っ」
「日本の期待を両肩に背負った『Dリンクス』の歌姫みのりんさんのデビューですもの、世界的に期待は大きくてよ」
「そんなあ、マリアさんがいるからですよ」
「シャラップ! 世界の歌姫とデュエットできるだけでもものすごい事件なのですわ。やっぱり、全世界で二番目の『
「えへへ、運が良かったから」
初狩りで『
運良く、レアオーブもレアスコアも手に入ったし。
『Dリンクス』としても、みのりの【豪運】には助けてもらっているよな。
おっと先生が来た。
「おーう、みんな席につけ~、後醍醐と北村は自分のクラスにもどれ~」
「へーい」
「はーい」
さて、いつもの授業だ。