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DANTE~ダンテ
DANTE~ダンテ
秦江湖
現代ファンタジー都市ファンタジー
2025年04月14日
公開日
1.3万字
連載中
悪魔大帝ルシファーの息子、悪魔王子ダンテが人間界を禍と恐怖で満たし支配するために人間社会に降臨した。

第1話 悪魔が来る

一 原始の記憶


『昨日お伝えしました女性の遺体遺棄事件は、その犯行手口から頻発している連続殺人事件と同じ犯人である可能性が高いと警察発表がありました』

繁華街のビルにある液晶ヴィジョンでは世間を騒がせている連続殺人事件の報道が流れていた。

「怖いよね~まだ捕まってないんでしょう?」

何気なしに見ていたカップルの女が男に腕を絡めながら言う。

「しかも女ばかり狙うとかヤバすぎ」

「ズタズタに切り刻むらしいじゃん。それで捨てるんだろ。絶対イカれたヤローだよな」

「しかもこの辺が多いんでしょう?被害者」

「そうそう。でも君は俺がいるから安心だね~」

一時間前に知り合った男女。

二人とも派手系で、特に女の方は煽情的な雰囲気を醸し出している。

男から声をかけて意気投合した二人は、そのまま道を折れてホテル街へ。

表通りから離れる程、静かで暗くなり、道に佇む者の雰囲気も違って見える。

濁った目から欲望を秘めた視線が女に注がれた。

ホテル街をしばらく歩くと、一軒のホテルの前で男は足を止めた。

「ここなんてどうよ?」

「へー!綺麗なホテル!」

「ここで飲み直さない?」

「飲むだけじゃないでしょ?」

「まあね」

「いいよ!寒いし早く入ろう」

部屋に入りシャンパンをオーダーする。

二人はしばらく飲むと、女の方がシャワーを浴びると言ってバスルームへ行った。

「あのての女は軽くて楽勝だな」

一人残った男は口元を吊り上げてつぶやくと、スマホを開いた。

音声を消して動画を見る。

画面には泣きじゃくる女が切り刻まれる様が映っていた。

次も。

その次も。

この男こそ殺人鬼だったのだ。

スマホをテーブルに置くとバッグからサバイバルナイフを取り出す。

そのままバスルームへ。

音を殺してドアを開けると目の前にはシャワーを浴びている無防備な背中があった。

女はすぐ後ろの殺意には気が付かずにシャワーを浴びている。

これから自分が殺されることなんて一欠片も思っていない。

『まずはその白い肩にナイフを突きたてて、そのまま背中を切り裂いてやる……』

男の頭の中では背中を切り刻まれ、恐怖と痛みと絶望で動けなくなった獲物を意のままに蹂躙するヴィジョンが浮かんでいた。

『行っくぜー!!』

歓喜を抑えきれない表情でナイフを振り上げると、そのまま女の肩に突き刺した。

「ぎゃあああああああああぁぁぁ!!」

鮮血が吹き上がり悲鳴が響いた。

ナイフを握った男の手が、ナイフごと手首まで食われている。

「な!なんだこれーー!?」

女の白く細い肩にナイフを突きたてるはずだった。

しかし、ナイフが振り下ろされた瞬間に女の肩がバックリ割れてナイフごと男の手を呑み込んだ。

無数の牙が肉と骨を噛み砕く。

グチャグチャ…バキバキッ…ブチン!!

「いだあああーー!!」

男の腕が女に噛みちぎられ、泣き叫びながら男が膝を折った。

「フフフ…どうしたの?」

ゆっくりと振り向いた女がお湯を滴らせながら微笑む。

右肩に開いた口はグチャグチャと音を立てながら血を滴らせながらナイフと男の手を食べていた。

「あわわわ……た、た……ひい…ひい…」

恐怖に震える男は舌が回らず言葉にならない。

「楽しませてくれるんでしょう?おいで」

女の顔が残虐に歪んだ笑を見せると、股から胸の下までバリバリッ…と、まっすぐ割れ、無数の牙が並んだ巨大な口が現れた。

「うわああああああああぁぁぁーーっ!!!!」

男の断末魔がバスルームに響いた。

ゴキゴキ!!バリ…バリ…

バスルームからは骨を砕き、肉を咀嚼する音がするだけだった。

人は忘れていた。

遥か太古の……原始の記憶を。

その恐ろしい姿を見るまでは。

見たら細胞に刻まれた恐怖と絶望が呼び起こされる。


悪魔の餌でしかなかった記憶を!!




二 魔界王子


赤黒い太陽が空を焦がす世界。

その最深部にある宮殿の玉座には黒い炎のような体と三対の翼をもつ巨大な悪魔がいた。

魔界を統治する大帝ルシファー。

そのルシファーから命が下る。

「命令だ!!人間界へ行けーッ!!ダンテ!!」

「断る!!!」

ルシファーの命令を即断で拒否したこの悪魔。

黒い炎をまとったような姿に、ルシファーと同じように三対の翼をもつ。

漆黒の逆巻く髪に紫色の瞳。

この悪魔こそ大帝ルシファーの息子、魔界王子ダンテである。

「なーにー!断るだとー!!」

ルシファーの吐く息が炎に変わる。

「いかに父上であろうとも、この俺に命令はできぬ!!」

「またそれか!?思春期もいい加減にしろよ!!傾奇者かおまえは!?」

「このダンテ、生来誰にも縛られず!繋ぎ止めることもできぬ!!」

「わしは大帝だー!大帝!!!」

「俺は神だッ!!!」

激高した二人の足元から黒い炎が逆巻き吹き荒れる。

「いや、神じゃまずいでしょ」

「えっ」

柱の陰から二対の翼をもった銀髪で冷たい印象の悪魔が呆れたように頭を振りながら現れた。

「おまえさー、悪魔が神とかどっからそういう思考になるんだよ。いくら我が子でも呆れてくるよ」

ルシファーがダンテを蔑むように見た。

「それよりベル!おまえいつからいたんだ?」

ダンテが銀髪の悪魔に聞いた。

「ずっとそこにおりましたが」

この銀髪の悪魔は魔界の宰相であるベルゼバブの息子、ベルゼバブ二世。

ダンテとは幼馴染でもある。

「ちょうど良い。おまえから説明してやってくれ」

ダンテとの会話を投げ出すルシファー。

いつもの親子の風景である。

「かしこまりました」

恭しく頭を下げるとベルゼバブ二世はダンテに説明を始めた。

「王子。ざっくり言うと人間界を支配してこいということです」

「なに?支配?」

「はい。次なる神との戦いに備えて人間の力を我々のものにするのですよ」

「神との戦い?あいつらやる気ねーだろ?」

「はあ~…あなた本当に魔界の王族なんですか?」

「こいつは引きこもりのニートだからな」

ベルゼバブ二世の疑問にルシファーが頬杖をつきながら答える。

「ニートではない!!高等遊民だ!!」

「はいはい。続けますよ」

「……」

「神との戦いは数千年間休戦状態にあります。しかし天界にはその数千年の間に人間の信仰心という力が流れ込み、我々悪魔との力の差は広がる一方です。その力をもって、今度こそ我々を徹底的に叩こうという動きがあるのですよ。だからその人間の力を我々が利用しようということです」

「人間ねえ~あいつら俺たちの餌でしかなかったじゃねーか。そんなありがたがるもんか?」

「人間は神が造り出したものですが、神でも予測のできない力をもっています。目覚ましい進化も遂げました。もちろん我々も人間がここまで文明を発達させるなんて予想してませんでしたからね」

「まあ……奴ら、神の御子とやらもぶっ殺しちまうくらいだからな」

ダンテの言う神の御子とはキリストのことである。

神の御子であるイエスを人間が殺したことは当時の悪魔にとっても驚愕する事件だった。

「まあ、そのあとで精神的に人間を支配することに成功するんですよね。神は」

「も、もしかして、俺に死んで来いって…?」

ダンテの顔に嫌な汗が浮かぶ。

「いえいえ。そんなたいそうなことをルシファー様はできません。悪魔の力をもって、ストレートに人間を恐怖と畏怖により屈服させるのです」

「そういうことだ!!行け―!!ダンテよ!!人間界を災いと恐怖に満たしてこい!!」

「かしこまりました」

ベルゼバブ二世は跪いて返答すると、ダンテの腕を引き歩き出した。

「ちょっと待て!!俺はまだ行くとは言ってないぞ!!おい!!ベル!!離せ!!」

ダンテは引きずられるように王宮を後にした。


王宮から離れた崖の頂にダンテとベルゼバブ二世はいた。

ここからは王宮とその下に広がる魔界が一望できる。

ダンテの数少ないお気に入りの場所の一つだ。

そこに髪をなびかせながら二人は立っていた。

「本当は行きたいくせに。なんでいちいち反抗するんですか?」

「いいんだよ!一回は断りたいんだよ!!」

「反抗期ヤバイですね」

小馬鹿にしたように笑う。

「なんかおまえからは。俺に対する畏敬の念を全く感じないんだよな。いい?俺は魔界大帝ルシファーの息子だよ?」

「はいはい。人間界…地球に行くならロシア、ブルガリアですかねー。女の子カワイイし」

「悪いなベル。行き先は決まっている」

「はいはい。知ってますよ。あそこでしょう?」

「ああ!行くぞ!!日本へ!!!」

清々しくも野望に燃えたダンテの後ろには、赤黒い灼熱の太陽が燃えていた。










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