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第3話 大食の悪魔

一 人間オークション


みながうっすらと目を開ける。

頭が重い。

ぼやけた目で見ると、見慣れた風景が飛び込んだ。

いつもステージから見ているホール。

ただファンの代わりに何台ものモニターが並んでいる。

そこには外国人や見覚えのない人の顔が映っていた。

「うっ…」

頭を振る。

自分はさっき更衣室にいて……

『なにこれ!?』

両手がステージ上から鎖でつながれている。

繋がれている手首には大きなナンバープレート。

それにステージ衣装を着ていることが理解できなかった。

さっきはシャワーを浴びようと裸だったのに……

他のメンバーも気が付いたように周りを見る。

「なに?」

「どうなってるの!?」

「これなに!?」

全員が自分が置かれている異様な状況に気が付きパニック気味になる。

「はいはいみんな!目が覚めたかな?」

「社長!?」

ステージの横にはみなたちの事務所の社長がいた。

「君たちはこれから海外デビューするんだよ」

「海外デビュー?っていうかなにこれ!?どうなってるの!?」

みなが体をゆすり腕に力を込めるが鎖はびくともしない。

「さあ―!みなさん!お待たせしました!ただいまより人間オークションの開催です!」

ステージにマイクを持った相田が上がってきた。

「今日ここに出品されたのは手塩にかけたアイドル達!しかも全員JK!煮るなり焼くなりお好きに調教してやってください!!」

「君たちは海外の富豪に買われるんだよ。これからは海外で暮らすんだ」

社長が冷酷な笑みを浮かべて言った。

「1番に1000万!!」

「1300万!!」

「3番に1000万!!」

モニターに映った顔から次々に声が飛ぶ。

その度に社長がしている指輪の石が赤く光るのを、みなは見た。

『なに?光ってる!?』

「ではみなさん!まだ汚れを知らない蕾をご覧ください!!」

相田が叫ぶと傍らから三人の社員が現れて懐から取り出した拳銃の引き金を引く。

しかし銃から出たのは弾に非ず、水だった。

その水が次々にみなたちの衣装を溶かしていく。

「いやああああ――!!」

「ちょっと服が溶けるんだけど――!!」

次々とみなたちの柔肌が露になっていく度に値段は吊り上がっていった。

大事なところ以外は露になった頃、みなたちには一億円の値段が付き、オークションは終了した。

モニターが次々と消えていく中で社長が支持を出す。

「じゃあ撤収だ。輸送中に騒がれるとまずいから、また眠らせとけ」

社員が薬品を嗅がせると、みなたちは再び意識を失った。



二 みなの危機


軍曹たちとのカラオケが終わったダンテとベルゼバブ二世は地下鉄の駅に向かって歩いていた。

同じ方向にライブハウスがあるビルがある。

「もしかして帰り際のみなちゃんに遭遇するかも……!!」

ダンテはあらぬ期待を想像した。

「いいんですか?王子。地球に来て遊んでばかりで大帝の命令やる気あります?」

「人間界を支配しろってやつだろ?」

「一応、覚えてたんですね」

「それならもう実行済みだ!!たった一週間で俺は大帝と呼ばれている!!」

「その大帝になんか意味あるんですか?」

「ある!!地球の大帝は俺だということがな!!」

「あっ!そうだ王子」

「なんだ?」

「さっきのライブハウスにいたアイドルグループ、なんか記憶にあるなと思ってたんですよ」

「なんだそれ?」

「俺の交際範囲から入ってきた噂話なんですが、あの事務所ヤバイって」

「ヤバイって潰れるとかか!?」

「そんなもんじゃないですよ。あそこが手がけたアイドルグループ、今まで四組も移籍か解散してるんですよ」

「それってよくあることじゃねーのか?」

「移籍したあと誰も知らないんですよね。噂じゃあ、表向きは移籍だけど、裏では人身売買してんじゃないかって」ダンテはしばし沈黙している横でベルゼバブ二世は続ける。

「思ってたより人間界に悪魔がいますよね。あのライブハウスにもかなり強い気配があったし」

「たしかにな……」

話すうちにライブハウスがあるビルの前に来た。

「ん?」

建物を包む禍々しいオーラを視認したダンテは足を止めた。

普通の人間には見ることも感じることもできない。

道行く人々は誰一人気にもとめずに通過していく。

「なんだこりゃ?普通じゃねーな」

ダンテはつぶやくと、人通りのある正面から裏に回った。

人がいない裏側、オーラは一層強くなる。

ダンテは建物に意識を集中した。

――助けて!!!――

刹那、ダンテの頭の中を助けを呼ぶみなの声が走った。

「ベル!おまえの言ったとおりだ!行くぞ!!」


三 悪魔の力


バーン!!

ホールの扉が開くと、社長、相田たちが一斉に振り向く。

そこには怒りに震えたダンテがいた。

「なんだおまえ?」

「どうやって入ってきた?」

社長たちの問いかけにダンテは反応しなかった。

固まったように動かない。

その視線はステージ上につるされ、大事なところだけ溶けかけた布で隠れているみなの姿に注がれていた。

小さな布が空調の風でヒラヒラ揺れる。

「なんとか言えやコラッ!!」

相田が怒鳴るとダンテの体がぶるぶると震えた。

ブッ!!!!

鼻血を噴き出して倒れるダンテ。

社長たちは言葉を失ってしまった。

「なにやってんですか。寝てる場合じゃないですよ」

後ろから現れたベルゼバブ二世に揺すられて起き上がる。

「あなた悪魔でしょう?この人たちを操っている」

ベルゼバブ二世が社長を指して言った。

「はあ?なに言ってるんだこいつ?」

相田たちが首をかしげる。

「おまえら、普通の奴じゃないみたいだな」

双眼を光らせた社長の体がむくむくと大きくなる。

「えっ!?社長…?あれ…?」

相田たちは意識を失ってその場に倒れる。

「コントロールが切れたか」

ダンテが血を拭った。

変わり果てた社長はコウモリの羽を生やし、身の丈は3メートルはありそうな巨体となった。

頭からは無数の蛇がドレッドヘアのように生えている。

獣と人が混ざったような体躯はまさしく「悪魔」だった。

「ヌー!!よくも見破ったな!!このザクゲリウス様の変身を――!!」

「こんな醜いやつが隠れていたとはな」

「人間の分際で俺様を目の前にしながら微動だにしないことは誉めてやろう」

「オイ。こいつらを操って悪事を働かせていたのはおまえか?」

「そうだ!!人間に罪を犯させて我が糧とする!!人間どもにはわかるまい!!」

ダンテは吊るされたみなたちに目をやった。

怒りで沸騰している今、さっきのようにはならない。

「それにこのての女共は一人くらい犯しながら食うのが美味いんだ!ゲッゲッゲッゲ」

「てめーは許さねえ」

「ゲッゲッゲッゲッゲ!!非力な人間がなにを言う!?頭からかじり殺してやるわ!!」

「なるほど!たしかにこの体じゃあ負担だな!見せてやるぜ!!俺の本当の姿を!!!」

「なにっ」

ドオーン!!

爆発したかのような轟音と閃光が走った。

「ああっ……」

そこには三対の翼を持ち、黒い炎をまとったようなダンテがいた。

周囲には稲妻のようなオーラが発生している。

「お、おまえ…悪魔だったのか!?」

「ああ。それもてめーのような下郎とは違うな」

「ほざけ――っ!!!」

ザクゲリウスが巨大な熊のような爪を立てて振り下ろした。

「うおらあっ!!!」

ダンテは振り下ろされたザクゲリウスの爪めがけて、黒い炎をまとった拳をくりだした。

ドオオ――ン!!!

「いぎゃああああ――!!!」

ダンテの拳に打ち砕かれたザクゲリウスの爪は腕ごと蒸発する。

「なにこの強さ―!!聞いてないよ!!」

「てめーは跡形も残さねー!!」

ザクゲリウスの頭の蛇が、みなを吊るす鎖を引きちぎると、その体をからめとった。

「どうだ――!!こいつを助けに来たんだろう!?これ以上は向かうと八つ裂きにするぞ!!」

ザクゲリウスは頭上にみなを掲げて勝ち誇る。

『なに……何が起きてるの…?今度は…?』

みなの意識は完全に眠ってはいなかった。

朦朧としながらも戻りつつあった。

「おああああ――!!!」

ダンテの魔力が増大して部屋全体が揺れだす。

「なに!?なにしてんのおまえ!?この人間がどうなってもいいいの!?」

「下郎ッ!!八つ裂きにする暇もなく食い尽くしてやる!!!」

「なにっ」

「魔蛇食尽!!」

ダンテの右手から無数の黒い閃光がザクゲリウスに突き刺さったかのように見えた。

「ぐげえええッ!!なんだこれ――!!?」

ザクゲリウスの体が次々に内部から崩壊して破裂していく。

「魔蛇食尽。魔力を食い尽くす。魔力の塊の悪魔は塵すら残らねー」

「ぎゃあああ――!!!」

ザクゲリウスは断末魔の悲鳴を上げて消滅した。

囚われていたなみは落下する。

『えっ…落ちる…』

瞬間、なみは自分の体が力強く抱きとめられるのを感じた。

『えっ……』

なみはうっすらと開けた目で自分を抱えてくれた者の顔を見た。

ぼんやりとだが黒い髪に紫色の瞳がわかる……

その瞳が優しく自分を見つめていた。

ワイルドなイケメン……

しかし朦朧としたなみは、再び意識が混濁して目を閉じた。

ダンテはなみをそっと床におろすと、怒りから醒めた。

……

ブッ……!!

またも鼻血を出して倒れるダンテ。

「ちょっと、またですか?しっかりしてくださいよ」

「ベル…おまえ今まで何してた?」

「ああ、LINEきたんで返信してました」

「おまえなあ……」

呆れたダンテは、倒れているみなたちに更衣室にあったタオルをかけると、社長のスマホから警察に電話してビルを後にした。



四 大食の悪魔ベヒモス


床からの間接照明だけの薄暗い部屋に、黒いフード付きのローブを纏った一団がなにかを囲むように円になって立っている。

中央には天井から縄で足を縛られた全裸の女が逆さ吊りにされていた。

女は

「ここはどこなの……?あなたたちは誰?」

泣きそうな問いかけに誰一人答えない。

ただ、無表情に女の白い体を見ている。

ギギギギ……バタン!

室内に同じようなローブを纏った者が入ってきた。

女を囲む輪の一部が崩れると、全員が跪く。

その中を進むと、女の前で止まった。

「誰!?誰なの!?」

「私はベヒモス」

ベヒモスと名乗る者は、なめらかな女の声で答えた。

「べ…? お願い!家に帰して!!お願い!!」

ベヒモスがローブを脱ぐ。

白く妖艶な裸体が間接照明に照らされると囲んでいる全員がごくりと唾を飲んだ。

女はそのまま、吊るされた女の真下に仰向けに寝転がる。

「さあ。始めて」

ベヒモスの声を受けて、一人が立ち上がると懐から大振りなナイフを取り出した。

「いやああああーーーっ!!」

吊るされた女が恐怖で絶叫する。

「ああ…いい声。ぞくぞくする」

下にいるベヒモスが舌舐りしながら言う。

「やめてやめて!!殺さないで!!やめて!!お願い!!」

泣き叫ぶ女。

バリバリバリ…

下に寝転んだベヒモスの腹が縦に裂けて、無数の牙を生やした巨大な口が現れた。

「いやああああー!!なにーー!?」

「うひゃはははは!もっと泣いて!もっと叫んでーー!」

ベヒモスが口を大きく開いて笑う。

「いやあーー!!!」

「やれ!!」

男はベヒモスの命令を受けて、柔肌にナイフを突き刺した。

「ぎゃあああーーーっ!!」

女の絶叫が響く。

腹に突き刺したナイフを男が一気に胸もとまで切り下げる。

真っ赤な鮮血が内蔵と一緒に滝のように下にいる巨大な口に流れ落ちた。

「ああ……美味しい……ぞくぞく……」

寝転んだベヒモスは血と臓腑を飲み込みながら、悦楽に身を震わせた。

照明に照らされた白い肌に、珠のような汗が浮かび、体は上気して桜色に火照っていた。

吊るされた女はビクッ、ビクッと痙攣している。

「堪らない!早く縄を切りなっ!!」

男が縄を切ると、微かに息がある女の上半身が巨大な口に落ちた。

バリバリッ!!ゴキ…グチャグチャ…バリバリ…!!

咀嚼する事に飲み込まれて、最後に片足だけがぼとっと床に落ちた。

「はあ……次……」

うっとりとした顔でベヒモスがつぶやくと、輪の中から二人が立ち上がった。

ギギギギ……

扉が開くと黒いスーツを着た男がかけこんできた。

「ベヒモス様!!」

「なんだ?食事中だよ」

「大変です!!ザクゲリウスが殺されました!!」

「なにっ」

報告を聞いたベヒモスの腹の口が閉じた。

「誰に殺された!?」

上半身を起こしたベヒモスの顔は物凄まじい形相となり、怒りの声はその場にいる全員を震わせた。

その咆哮は空気を振動させ、建物全体をきしませるほどだった。





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