ぼくは
小学2年生から、ぼくは算数が苦手になった。
足し算・引き算はできるよ。
ぼくの敵は【九九】だ。
ニニンがナントカっていうあれが、ぜんぜん覚えられない。
物覚えが悪いとか、そういうわけじゃないみたい。
国語の漢字の読み書きは、すぐに覚えたよ。
植物や鉱石の名前も、しっかり覚えている。
ゲームに出てくる
九九だけがダメ。
だから、かけ算ができない。
テストのときは、数字を足し算して答えていたんだけど、学年が上がるとどんどん難しくなっちゃって、今日のテストは0点だった。
どうしよう。
もうすぐ夏休みなのに。
友だちと遊ぶ約束したのに。
お父さんやお母さんに知られたら、夏休みが勉強まつりになるよ。
そんなのはぜったいイヤだ。
0点の答案用紙を、家族に見られないようにしよう。
そういえば、この前読んだマンガに「黒歴史は
この答案用紙はぼくの黒歴史だ、
ぼくは家の物置小屋からスコップを持ち出して、自転車に乗って出発した。
行き先は、泳いじゃダメって言われていて、あんまり人が近寄らない海岸。
そこなら、砂遊びをする子もいないから、きっと見つからないと思う。
だれもいない海辺に来たぼくは、辺りを見回して答案用紙をうめる場所を考えた。
どこにうめようか?
そうだ、あそこの大きなガジュマルの木の下にしよう。
ぼくは岩に巻き付くようにはえている木に近づいて、スコップで根もとの砂や土をほった。
地面がやわらかいから、とてもほりやすい。
なるべく深くほって、穴の底に答案用紙を置いたとき、だれかに後ろからいきなり声をかけられた。
「はいさーい!」
「うわぁっ?!」
びっくりして、さけんじゃったよ。
海水浴できない海辺に、いるのはだれ?!
あわてていたら、ブワァッと風がふいて、答案用紙が飛ばされてしまった。
大変だ!
もしもだれかに見られたら、ぼくの黒歴史がバレちゃう。
ぼくは声をかけてきただれかより先に拾うため、答案用紙を追いかけた。
服がぬれてもかまわず海に入っていたら、後ろでだれかがさけんだような気がする。
何を言ったか聞こえないし、それどころじゃない。
なかなか答案用紙をつかめなくて、必死で追いかける。
あとちょっとで追いつけるって思ったとき、急に海が深くなって、ぼくは転んでしまった。
起き上がれない! 足がつかない! こわい!
泳ごうとしたけど、上手く泳げない。
助けてって言おうとしたら、口の中に海水が入ってきた。
しょっぱい! 息ができない!
苦しくて頭がぼうっとしてきたとき、だれかがぼくの後ろから手をのばして、水の中から助け出してくれた。
水を飲んじゃってむせていたら、ぼくの背中をさすってくれている。
だれ? って聞こうとした。
けど、ゲホゲホとむせて、しゃべれない。
やっとしゃべれるようになって、後ろにいる人をふり返って見たら、
「え? キジムナー?」
キジムナーなら、島ではだれでも知っている。
人間に似ているけれど、人ではない「
だけど、見た人はほとんどいない。
ぼくも見るのは初めてだよ。
めったに会えないキジムナーが、ぼくを助けてくれたんだ。
「助けてくれたの? ありがとう!」
「お、おぅ」
感動したぼくが
あんまりベタベタされるのは、好きじゃないのかな?
でもその後、キジムナーはぼくの手を引いて立ち上がらせてくれた。
キジムナーは優しいって聞いたことがあるけど、そのとおりだなって思う。
立ち上がって足もとを見たぼくは、水面に立っていることに気づいた。
キジムナーは水の上を歩けるって図書館の本に書いてあるよ。
その力で、ぼくも水の上にいるんだ。
「よし、とにかく岸にもどるぞ」
「うん」
キジムナーに手を引かれて海の上を歩き始めたとき、ぼくたちの足元に光るものが現れた。
光は円をえがいて、そこに知らない文字がいっぱいうかび上がってくる。
「うわっ! なんだこの光!」
キジムナーもビックリしている。
キジムナーの力とはちがうみたいだ。
なにか見えない縄みたいなものが足元からのびてきて、ぼくたちにからみついてくる感じがした。
足もとにある光の円は、ゲームやアニメに出てくる
「なんかこれ、
だからぼくは、そう言った。
でも、キジムナーの力じゃないなら、だれの力だろう?
光の円の真ん中に開いた穴に、ぼくとキジムナーは引きずりこまれた。
これってもしかして、マンガやアニメによくある異世界転移?