実際のところ、僕自身も僕は『クズ』だと思ってるから否定はしない。
もし僕を『クズじゃない』というのなら、ソイツは眼科か脳外科にでも行った方がいい。視力がだいぶ落ちてるか、脳みそが腐っているかのどっちかだ。早めに受診したまえ。
ちなみに僕は『クズ』と言っても、タバコは吸わない。
ニコチンとかタールとかだったかな。約5300種類の化学物質が含まれていて、そのうちの70種類以上が発がん性物質だって?
そんなの身体に悪いじゃないか。肺がやられたら、逃げる時に大変じゃないか。それに息苦しいのはしんどいから、僕は嫌だ。
酒は少し飲む。
とは言っても、付き合いで少し飲むだけだ。進んで飲むわけではない。それに昔の人は言ったじゃないか。『酒は百薬の長』だと。未成年飲酒禁止? 知らんよそんなの。どうせ裁かれるのは酒を飲ませた方だ。
でもまぁ、そんなに美味しいものでもないし、僕は『飲むより飲ませる方が好き』だ。言うだろ? 『酒は飲んでも飲まれるな』と。
次はお金についてだ。
正直に言おう、僕はお金が『大・好・き』だ!
お金はいい、持ってるだけでいい。特に賭け事
他人は僕のことを『クズ』と呼ぶ次に、『守銭奴』と呼ぶ。いいじゃないか、僕にピッタリなあだ名だ!
僕はお金を増やすことに関して、手段は選ばない。
賭け事ではイカサマもするし、平気でスリもする。今みたいにね。
ちなみに僕が『飲むより飲ませる方が好き』なのは、こうした方が相手が泥酔して容易にお金を手に入れられるからだ。
そうやって他人の金で賭け事をして、他人の金をぶんどり、僕の有り金にする。最・高だね!
おっと、僕の話が過ぎてしまったね。
まぁこんな感じで生きていれば、『クズ』だのなんだのと呼ばれるようになる訳で。良い子のみんなは、こうならないように気をつけるんだよ。
特にここいらは治安が悪いからね。
僕は路地裏に入る。そして、先程すった財布の中身を確認する。
「さーて、いくらくらいかなぁ〜……わぁーぉ!」
僕は思わず、歓喜する。万札がひーふーみー……十数枚は入っているのではないだろうか!
思わず頬が紅潮する。今日はついてる、なんて素晴らしい日だ!
さっきの人、変な格好だったけど持ってるものは持ってるんだな。僕はウッキウキで財布の中身をいただく。
「それじゃあ、早速……」
「おい」
突然声をかけられ、僕は振り返る。
そこには黒のロングコートに、黒いズボン。それにマスクも黒という、黒づくめの男性。
それは紛うことなき、先程の変な格好の人……財布の持ち主が立っていた。
財布をすった僕が言うのもなんだけど……僕が女子供だったら、即悲鳴をあげて通報する案件の不審者の格好だよ。
「なんですか?」
僕は平然と聞き返すと、男性は財布を指さす。
「……それ、俺の財布」
――――ちぇっ……見つかったなら仕方ない。
「あぁ、そうだったんですか!
僕は財布を持ち主に返そうと、男性に右手を伸ばした……はずだった。
「……えっ?」
一瞬のことで、何が起きたのか分からない。ただ分かったことといえば、僕が男性に向かって伸ばしたはずの右手が、
「う……うわぁぁぁぁぁあああっ!!」
状況に思考が追いついた瞬間、僕は右腕を抑えながら地面を転がっていた。いたい、いたい、痛い、痛いっっっつ!!
腕の切り口から、熱い液体がドクドクと音を立てて吹き出す。それは止まることを知らないかのように、赤く広がっていく。
「……俺の前で、白々しいウソをつくな」
「……っ! な、何……を……!?」
無意識に、奥歯がガタガタと震える。いや、奥歯だけでは無い。全身が目の前の男に恐怖し、震えているのだ。
「……それを知る必要は、お前には無い」
「はぁ……?」
男の影から、
それは大きな刀と剣を持った、まるで……。
「死に、が……」
「……せめて楽に死ね」
身体に二本の刃が突き刺さる。僕を突き刺した刃は鋭い切れ味で貫通し、そのまま切り裂くように引き抜かれる。
「が……はっ……!!」
骨と肉が絶たれ、血管から血が溢れる。腕を切り落とされた時よりも勢いよく吹き出す血で、僕の周りはあっという間に血溜まりと化した。
――――いたい、いたい……さむい、さむい……。
僕の身体から血が抜けていく度に、今まで感じたことの無い寒さが襲ってくる。
――――いたい……いや、さむい……さむい……。
『ゴフッ』っと、喉に上がってきたものを吐き出す。
遠くから、足音が聞こえる。あの男が去っていく音だ。
――――クソ……こんなことなら、もう少し離れたところで財布の中身を確認するんだった……。
薄れゆく意識の中、僕はかろうじて繋がっている左手を無意識に伸ばす。何か、何か……。
微かな感覚に、ほとんど見えていない視線を向ける。
何度も触った、この感触……。
「五万は……とって、やったぜ……」
血に染まった万札を握りしめながら、僕は息を引き取った。