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『起死回生-シニモドリ-』能力(スキル)は僕にとって都合がいい
『起死回生-シニモドリ-』能力(スキル)は僕にとって都合がいい
斐古
現代ファンタジー異能バトル
2025年04月15日
公開日
1万字
連載中
主人公のクズイは、自他ともに認めるクズである。 特に他人からすった金を元手に、賭け事をするのが大好きである。 そんなある日、クズイは怪しい男から財布をするがすぐにバレてしまう。 渋々返そうとしたクズイは次の瞬間、ズタズタに切り裂かれた。 死の淵に彼が願ったこととは――――。 能力《スキル》と呼ばれる特殊能力が存在する世界で、とにかく治安の悪い街の片隅で密かに行われる異能力バトル。 『起死回生―シニモドリ―』能力《スキル》に目覚め、死に戻ったクズイの何度目かの人生が幕を開ける――――!!

第1話 他人は僕をクズと呼ぶけど、僕もそう思う

 他人ひとは僕のことを『クズ』だと言う。

 実際のところ、僕自身も僕は『クズ』だと思ってるから否定はしない。


 もし僕を『クズじゃない』というのなら、ソイツは眼科か脳外科にでも行った方がいい。視力がだいぶ落ちてるか、脳みそが腐っているかのどっちかだ。早めに受診したまえ。



 ちなみに僕は『クズ』と言っても、タバコは吸わない。

 ニコチンとかタールとかだったかな。約5300種類の化学物質が含まれていて、そのうちの70種類以上が発がん性物質だって?

 そんなの身体に悪いじゃないか。肺がやられたら、逃げる時に大変じゃないか。それに息苦しいのはしんどいから、僕は嫌だ。



 酒は少し飲む。

 とは言っても、付き合いで少し飲むだけだ。進んで飲むわけではない。それに昔の人は言ったじゃないか。『酒は百薬の長』だと。未成年飲酒禁止? 知らんよそんなの。どうせ裁かれるのは酒を飲ませた方だ。

 でもまぁ、そんなに美味しいものでもないし、僕は『飲むより飲ませる方が好き』だ。言うだろ? 『酒は飲んでも飲まれるな』と。



 次はお金についてだ。

 正直に言おう、僕はお金が『大・好・き』だ!

 お金はいい、持ってるだけでいい。特に賭け事で増えるお金は最高だ!

 他人は僕のことを『クズ』と呼ぶ次に、『守銭奴』と呼ぶ。いいじゃないか、僕にピッタリなあだ名だ!


 僕はお金を増やすことに関して、手段は選ばない。

 賭け事ではイカサマもするし、平気でスリもする。今みたいにね。

 ちなみに僕が『飲むより飲ませる方が好き』なのは、こうした方が相手が泥酔して容易にお金を手に入れられるからだ。

 そうやって他人の金で賭け事をして、他人の金をぶんどり、僕の有り金にする。最・高だね!



 おっと、僕の話が過ぎてしまったね。

 まぁこんな感じで生きていれば、『クズ』だのなんだのと呼ばれるようになる訳で。良い子のみんなは、こうならないように気をつけるんだよ。

 特にここいらは治安が悪いからね。



 僕は路地裏に入る。そして、先程すった財布の中身を確認する。


「さーて、いくらくらいかなぁ〜……わぁーぉ!」


 僕は思わず、歓喜する。万札がひーふーみー……十数枚は入っているのではないだろうか!

 思わず頬が紅潮する。今日はついてる、なんて素晴らしい日だ!


 さっきの人、変な格好だったけど持ってるものは持ってるんだな。僕はウッキウキで財布の中身をいただく。


「それじゃあ、早速……」

「おい」


 突然声をかけられ、僕は振り返る。

 そこには黒のロングコートに、黒いズボン。それにマスクも黒という、黒づくめの男性。

 それは紛うことなき、先程の変な格好の人……財布の持ち主が立っていた。

 財布をすった僕が言うのもなんだけど……僕が女子供だったら、即悲鳴をあげて通報する案件の不審者の格好だよ。


「なんですか?」


 僕は平然と聞き返すと、男性は財布を指さす。


「……それ、俺の財布」


 ――――ちぇっ……見つかったなら仕方ない。


「あぁ、そうだったんですか! 拾ったものでして……持ち主が見つかって良かったです!」


 僕は財布を持ち主に返そうと、男性に右手を伸ばした……はずだった。


「……えっ?」


 一瞬のことで、何が起きたのか分からない。ただ分かったことといえば、僕が男性に向かって伸ばしたはずの右手が、いたことだけだ。


「う……うわぁぁぁぁぁあああっ!!」


 状況に思考が追いついた瞬間、僕は右腕を抑えながら地面を転がっていた。いたい、いたい、痛い、痛いっっっつ!!


 腕の切り口から、熱い液体がドクドクと音を立てて吹き出す。それは止まることを知らないかのように、赤く広がっていく。


「……俺の前で、白々しいウソをつくな」

「……っ! な、何……を……!?」


 無意識に、奥歯がガタガタと震える。いや、奥歯だけでは無い。全身が目の前の男に恐怖し、震えているのだ。


「……それを知る必要は、お前には無い」

「はぁ……?」


 男の影から、が現れる。


 それは大きな刀と剣を持った、まるで……。


「死に、が……」

「……せめて楽に死ね」


 身体に二本の刃が突き刺さる。僕を突き刺した刃は鋭い切れ味で貫通し、そのまま切り裂くように引き抜かれる。


「が……はっ……!!」


 骨と肉が絶たれ、血管から血が溢れる。腕を切り落とされた時よりも勢いよく吹き出す血で、僕の周りはあっという間に血溜まりと化した。


 ――――いたい、いたい……さむい、さむい……。


 僕の身体から血が抜けていく度に、今まで感じたことの無い寒さが襲ってくる。


 ――――いたい……いや、さむい……さむい……。


『ゴフッ』っと、喉に上がってきたものを吐き出す。


 遠くから、足音が聞こえる。あの男が去っていく音だ。


 ――――クソ……こんなことなら、もう少し離れたところで財布の中身を確認するんだった……。


 薄れゆく意識の中、僕はかろうじて繋がっている左手を無意識に伸ばす。何か、何か……。


 微かな感覚に、ほとんど見えていない視線を向ける。

 何度も触った、この感触……。


「五万は……とって、やったぜ……」




 血に染まった万札を握りしめながら、僕は息を引き取った。

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