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第5話 お金が手に入るなら、ちょっと死ぬくらい安いものだよ

「さてさて〜、戦利品……っと」

「クズイ! 大丈夫!?」


 僕がチンピラたちから金目のものを漁っていると、念の為に遠くで待機させていたヒメカが走ってやってきた。


「やぁ、ヒメカ。見ての通り、僕は元気さ」

「それなら良かった……っつ!」


 ヒメカはチンピラたちの見るに無惨な姿を見て、口元を手で覆う。おや? ちょっと刺激が強かったかな?


「って! アンタ、その背中……!」


 そう言いながら、ヒメカは僕の背中を指さす。そういえばさっき、チンピラAくんの攻撃で服が破けたんだった。こりゃうっかり。


「まぁ、一回死んだからね。傷はもう治ってるし。こうしてお金が手に入るなら、ちょっと死ぬくらい安いものだよ」

「『ちょっと死ぬくらい』って、アンタ……」

「それより見てよ、ヒメカ。このチンピラくんたち、なかなかにいいもの持ってる。こりゃ質屋に入れたら、いい金額になりそうだよ」


 僕は笑顔でそう振り返る。ヒメカもきっと一緒になって喜んでくれるだろう。


 ……と、一瞬思ったりもしました。


 でも実際のヒメカは、何か言いたそうに僕を見ては、諦めたようにため息をつく。何故だろう?


 まぁ、いいや。ちょっと寂しいけど、価値観は人それぞれだからね。僕は強制したりしないよ。

 とりあえず僕は現金と金目のものを一通り漁ったあと、一応チンピラくんたちの死体に手を合わせる。君たちの死は無駄にしない、このお金は僕が有意義に使わせてもらうよ。


「……それじゃあ、そろそろここを離れようか。君も来るでしょ?」

「わ、私……!?」


 僕は黒髪セミロングのセーラー服メガネっ娘の彼女に、手を差し出す。


「ここにいたら危ないからね。それに騒ぎを聞きつけて、他の能力者狩りハンターやおまわりさんとかにこられても困るし」


 それに彼女には、約束の報酬をいただかないといけない。


「さっ、分かったら早く行くよ」

「は、はい……」




 僕の手を取った彼女を連れ、僕らはその場を離れた。




 ▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁




「……ここらまで来れば、大丈夫でしょ」


 僕らはあの場所からだいぶ離れたところで、追ってなどがいないか確認する。


「はぁ、はぁ……助けてくださり、ありがとうございます……」

「感謝なら、ヒメカに言いなよ。僕はお金のために君を助けただけだから」

「ちょっと! クズイ!」


 実際、彼女を助けたがっていたのはヒメカだ。

 僕は本当にお金のために助けたから、感謝されてもなぁ……。


「ゴメンね。コイツ、デリカシーとかそういうの一切持ってないから。アタシはヒメカ、こっちはクズイ。アナタは?」

「わ、私はツバキ。ツバキと言います。この度は助けていただき、ありがとうございます。ヒメカさん、クズイさん」


 彼女の名前は、ツバキと言うらしい。なんかぽいと言えば、ぽい名前だな。


「べ、別に……アタシと同じくらいの女の子を見捨てるとか、胸くそ悪いっていうか……寝覚めが悪いって言うか……」

「僕は別に、どっちでもよかったけどね」

「クズイ!」


 正直な感想を述べたら、ヒメカに殴られた。なるほど、これが所謂『暴力系ヒロイン』ってやつか。あいた。


「クズイがクズなのは仕方ないとして……アナタ大丈夫? どこか怪我とか……」

「だ、大丈夫です! 心配してくださり、ありがとうございます!」

「そ、それなら別にいいんだけど……」


 ヒメカはそう言いながら、自身の髪を指でクルクルといじりだす。不自然なヒメカの挙動に、僕は色々と察する。あぁ、なるほどね。


「そ、それで……? アタシたち、歳も近そうだし、と、とも……モニョモニョ……」

「こういうのはさっくり言った方がいいよ、ヒメカ。ツバキさん、だっけ? よかったらヒメカと、友達になってあげてよ」

「ななな、何を言って……!?」


 そう言うヒメカは慌てて僕の胸ぐらを掴み、そのまま勢いよく前後に揺らす。僕はただ、ヒメカの気持ちを代弁をしてあげただけなのに。



 ヒメカは『八方美人ハニートラップ能力スキルの影響で、あまり友達と呼べる友達がいない。

八方美人ハニートラップ』は言葉の通りであり、特殊なフェロモンのようなもので異性に対して強く発動する。

 男はヒメカのフェロモンのとりことなり、従順な下僕に。女からはそんなヒメカに対する嫉妬などで、友達ができないのだ。

 だから僕やテツローみたいな能力スキルで虜にできなかった男は、ヒメカにとって貴重な友達となったのだ。



 そんな友達のいないヒメカのために、僕は一肌脱いだというわけ。なんて優しい友人なんだ、僕は。


「そそそ、それに! ツバキさんだって、困っ……」

「いえ! 私はヒメカさんさえ良ければ、お友達になりたい……です……」

「ふぇあぇっ……!?」


 友達耐性がなさすぎて、上手く人語を話せていない。やれやれ、手のかかる友人だ。

 ここは手馴れている僕が、手本を見せてあげようじゃないか。


「改めて、僕はクズイ。よろしくね、ツバキさん」


 特にお金面で。


「ヒ、ヒメカよ……よろしくね、ツっ、ツバキ……」

「はい、よろしくお願いします。クズイさん、ヒメカさん」


 僕らはそれぞれ握手をする。


 こうしてヒメカは、僕の知る限り初めての女友達をゲットしたのだった。




 ちなみに僕の友人は今のところヒメカとテツロー、ツバキさんの四人だけど、ヒメカみたいに友達に飢えてないからモーマンタイだ。

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