で、何だって? 三方から攻撃!?
俺が正面から行くの?
いや俺、杖で物理攻撃しかできないんですけど。
もう毘沙門天出しちゃおうかな……。
「それは最後の切り札だろ。さあユート、ボクと行こう! 君の勇気を示すんだ!」
アプリがまたかっこいいことみたいに言った。やっぱ俺の心読んでるな。
「はああ……」
もういいや。死んだっていいし。
俺は正面から背の異様に高い変な女に向かって突進した。
あれ? 俺、こんなに体軽かったっけ?
なんか気持ちいいな。
下半身は相変わらずスース―するけど。
あ、変な意味じゃないからね。
その時だった。
ヒューーーーーーガガーン。
何かが飛翔する音がした後、猛烈な爆発音が辺りに響き渡り、もうもうと白い煙が上がった。
アイリのやつ、今度はどんな武器を使ったんだ。
「SMAWロケットランチャーだよ。アイリ、対戦車砲弾を撃ち込んだみたい」
アプリが教えてくれた。
いやいやそれ、オーバーキルでしょ。いくらさっき機関砲で失敗したからといって……。
「ぼぼ! ぼぼぼぼぼぼぼぼっぼぼぼぼぼ!!!」
煙の中から気持ちの悪い声が聞こえてきた。
ぼぼぼーぼじゃなかったけど……いやなんでもありません。
あーこれ、だめなやつだ。最強なんじゃなかったの? アイリさん。
「ごめーん。微妙に外した。ユート、お願い!」
おい! 俺は初心者だぞ。何言ってんだよ……。
煙が薄くなり、背の高い女が再び姿を現した。
ボロボロの白いドレスがゆっくりと形を戻していた。
よく見ると、砲撃で欠損したと思われる体のあちこちも修復されていっている。反対側に曲がっていた腕がくるりと元に戻った。まじキモい……。
長い黒髪の間に見える顔は真っ白で、地獄の闇が迷い出てきたような真っ黒な目がこちらを向いた。口の中はなぜか真っ赤だ。
うう……フェイスより怖いよ。
「ぼぼぼっぼぼぼぼぼぼぼぼっぼぼぼぼ」
女はそう叫んで俺の方に突っ込んできた。
うわ、逃げられない!
「うわああああああああ」
俺は恐怖に叫びながら杖を振り回した。
あ、この杖ってスマホなんだよな。アプリのやつ、バグデーモンにぶつかっていい気味だな。
怖すぎてもう一人の俺が冷静になっちゃってるよ。
ボム、ボム、ボム、ボム。
何度か鈍い音がして杖が何かに当たった感触があった。
ドーン。
吹っ飛んだ女がトイレの壁に激突し、壁にめり込んだ。
いや俺、やせぽっちのチビなのに、なんでこんな力があるの?
「ナイス! 魔法少女の男子!」
右の方からミウさんの声がした。
って魔法少女の男子ってなんだよ。矛盾してない!?
まあその通りだけどさ。
その時だった。
キラキラ七色に輝く光の粒の塊りが帯のようになって、壁にめりこんでいる女に襲いかかっていった。ミウさんの魔法だろうな。
「ぼぼっぼぼっぼぼぼぼぼぼっぼぼ」
ぼぼぼは同じだけど、さっきと違って悲鳴のような声になっている。効いてるみたいだ。
「さあユート! 毘沙門天でデバッグだ! 君の力を開放するんだ!」
あのさアプリ。かっこよさそうに言わなくていいから。
「オン ベイシラマンダヤ ソワカ オン ベイシラマンダヤ ソワカ オン ベイシラマンダヤ ソワカ」
今回は作法にのっとって三回唱えてみた。
ん? ちょっと余裕出てきた?
って調子に乗ってる場合じゃないよな。だいたい俺、闘いたくなんかないんだから。毘沙門天様、お願いします!
いつものように空間に亀裂が生じて光があふれ出し、槍と多宝塔を持った毘沙門天が姿を現した。
いつものように? これ定番化しちゃった?
俺やっぱ闘い続けるの? 勘弁してよ。
諦めだけはいいって言ったけど……やっぱ覚悟は決められません。
お願いだから転生させて……。