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第11話

 で、何だって? 三方から攻撃!?


 俺が正面から行くの?

 いや俺、杖で物理攻撃しかできないんですけど。

 もう毘沙門天出しちゃおうかな……。


「それは最後の切り札だろ。さあユート、ボクと行こう! 君の勇気を示すんだ!」

 アプリがまたかっこいいことみたいに言った。やっぱ俺の心読んでるな。


「はああ……」

 もういいや。死んだっていいし。


 俺は正面から背の異様に高い変な女に向かって突進した。

 あれ? 俺、こんなに体軽かったっけ?

 なんか気持ちいいな。

 下半身は相変わらずスース―するけど。

 あ、変な意味じゃないからね。


 その時だった。


 ヒューーーーーーガガーン。


 何かが飛翔する音がした後、猛烈な爆発音が辺りに響き渡り、もうもうと白い煙が上がった。

 アイリのやつ、今度はどんな武器を使ったんだ。


「SMAWロケットランチャーだよ。アイリ、対戦車砲弾を撃ち込んだみたい」

 アプリが教えてくれた。

 いやいやそれ、オーバーキルでしょ。いくらさっき機関砲で失敗したからといって……。


「ぼぼ! ぼぼぼぼぼぼぼぼっぼぼぼぼぼ!!!」


 煙の中から気持ちの悪い声が聞こえてきた。

 ぼぼぼーぼじゃなかったけど……いやなんでもありません。


 あーこれ、だめなやつだ。最強なんじゃなかったの? アイリさん。


「ごめーん。微妙に外した。ユート、お願い!」


 おい! 俺は初心者だぞ。何言ってんだよ……。


 煙が薄くなり、背の高い女が再び姿を現した。

 ボロボロの白いドレスがゆっくりと形を戻していた。

 よく見ると、砲撃で欠損したと思われる体のあちこちも修復されていっている。反対側に曲がっていた腕がくるりと元に戻った。まじキモい……。


 長い黒髪の間に見える顔は真っ白で、地獄の闇が迷い出てきたような真っ黒な目がこちらを向いた。口の中はなぜか真っ赤だ。

 うう……フェイスより怖いよ。


「ぼぼぼっぼぼぼぼぼぼぼぼっぼぼぼぼ」

 女はそう叫んで俺の方に突っ込んできた。

 うわ、逃げられない!


「うわああああああああ」

 俺は恐怖に叫びながら杖を振り回した。

 あ、この杖ってスマホなんだよな。アプリのやつ、バグデーモンにぶつかっていい気味だな。

 怖すぎてもう一人の俺が冷静になっちゃってるよ。


 ボム、ボム、ボム、ボム。


 何度か鈍い音がして杖が何かに当たった感触があった。


 ドーン。


 吹っ飛んだ女がトイレの壁に激突し、壁にめり込んだ。

 いや俺、やせぽっちのチビなのに、なんでこんな力があるの?


「ナイス! 魔法少女の男子!」


 右の方からミウさんの声がした。

 って魔法少女の男子ってなんだよ。矛盾してない!?

 まあその通りだけどさ。


 その時だった。


 キラキラ七色に輝く光の粒の塊りが帯のようになって、壁にめりこんでいる女に襲いかかっていった。ミウさんの魔法だろうな。


「ぼぼっぼぼっぼぼぼぼぼぼっぼぼ」


 ぼぼぼは同じだけど、さっきと違って悲鳴のような声になっている。効いてるみたいだ。


「さあユート! 毘沙門天でデバッグだ! 君の力を開放するんだ!」

 あのさアプリ。かっこよさそうに言わなくていいから。


「オン ベイシラマンダヤ ソワカ オン ベイシラマンダヤ ソワカ オン ベイシラマンダヤ ソワカ」


 今回は作法にのっとって三回唱えてみた。

 ん? ちょっと余裕出てきた?

 って調子に乗ってる場合じゃないよな。だいたい俺、闘いたくなんかないんだから。毘沙門天様、お願いします!


 いつものように空間に亀裂が生じて光があふれ出し、槍と多宝塔を持った毘沙門天が姿を現した。


 いつものように? これ定番化しちゃった? 

 俺やっぱ闘い続けるの? 勘弁してよ。

 諦めだけはいいって言ったけど……やっぱ覚悟は決められません。

 お願いだから転生させて……。







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