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第33話

 俺はすぐに立ち上がり、左側の大型ヒサルキにスパイラルクラッシュをお見舞いした。

 俺の連続回転タコ殴り攻撃に、ヒサルキはヨロヨロしながら少しずつ小さくなっていく。


 あ、俺もタコ殴りって自分で思っちゃったよ。


「効いてるぞ、ユート。もう一息だ!」

 アプリが俺をけしかける。


 右側ではオオカミがもう一体の大型ヒサルキに飛び掛かったけど……。


 ボム!


 鈍い音が聞こえた。

 巨大ヒサルキのパンチがオオカミにヒットしていた。


「ウヲヲヲーーーーーン」

 ヘンテコな鳴き声を残してオオカミは防護ドームの後ろの方に吹っ飛んで行った。


 ダダダダダダダダダダ。


 アイリのアサルトライフルがさく裂し、オオカミを吹っ飛ばしたヒサルキの右手を粉砕した……けど。


 すぐに修復されてしまう。

 やっぱりキリがない。

 っていうかもしかして、エネルギーが供給されてる最初のヒサルキがいるのはあっち側なのかも。


ダダダダダダダダダダダダ。


 アイリはアサルトライフルを打ち続けているけど、巨大ヒサルキはアイリとの距離を少しずつ詰めている。まあ、アイリなら大丈夫だよね。


 しっかし俺、攻撃しながら向こうの様子も把握しちゃうなんて、どんだけ冷静なんだ。すごいって自信持っていいのか、俺?


 って思ったけど、これもどうせ、魔法少女の力なんだろうな。


「そんなことないよ。ユートの勇気の力さ」

 ああ、はいはいアプリ。


ダ……。


 ライフルの連射が止まった。アイリのことだから、またロケット弾でも出すんだろうけど。


 と、その時だった。向こうの巨大ヒサルキがものすごいスピードでアイリに突進し始めた。


「あのね、ヒサルキは一匹だけの時はもっとものすごい速さだったんだ」


 さっきのアイリの声が頭をよぎった。

 まあ、アイリのことだから……。


 おい! 何も武器出せてないじゃないか!


「きゃああああああ!」

 アイリがしゃがみこんだ。


 「アイリーーーーーーーー!」


 俺はありったけの力を振り絞って地面を蹴り、杖を正面に構えたまま猛スピードでアイリに迫ったヒサルキに突っ込んだ。


 ボーーーーーーーーーーン!


 ものすごい爆発音がして辺りは白い煙に包まれた。


「キイイ」「キイイ」「キイイ」「キイイ」「キイイ」「キイイ」


 視界が開けると、無数のヒサルキがピョンピョンとその場でジャンプしていた。

 その中に一体だけ、俺をにらみつけるヒサルキがいた。


 やつが最初のヒサルキか!?


 そいつは今までにない超高速で俺に向かってきた。

 俺は杖で防戦する。

 ヒサルキは何度も何度も三角飛びで俺に襲い掛かってくる。

 その度に俺は、杖でヒサルキを打ち付けて吹っ飛ばすのだが、ひるまずに向かってくる。


 うう、ホントはキモくて怖いんだけど、俺がやられたらアイリさんが危ないからなあ。

 俺、まだ冷静だよ。

 ああ、そう言えば、アイリさんと出会ったあの日俺は……ってこれ、走馬灯ってやつじゃないだろうな。


 あ、まだ出会って足掛け3日しかたってなかったっけ。走馬灯で思い出すことなんかほとんどないじゃん。

 なんか怒涛の日々でもう3年ぐらいたったみたいな気分になっちゃってたよ。


 まだ死亡フラグも走馬灯も早いよな。


「そうだぞユート、転生なんてないからね」

 ああもう、アプリうるさい!


 でも俺とヒサルキとの一騎打ち、互角が続いてまたしてもキリがない。


 アイリは頭を抱えてしゃがみこんだままだ。やっぱり女の子なのかな。あ、こういうこと言っちゃいけないんだっけ。だいたい俺の方がリアル世界では間違いなくヘタレだしね。


「アイリ、君は最強の魔法少女だったんじゃないの?」

 アイリのアプリが言った。


「え?」

 アイリが顔を上げてこっちを見た。

 そしてすっくと立ちあがった。


「ユート君、ごめん! 今行くから!」

 アイリはそう言って両ほほを両手で叩いた。


「うおおおおおおおお!!!!」

 そう叫んでアイリがこっちに突進してきた。


「私が代わる!」


 そう言ってアイリは素手で超高速三角飛びで向かってくるヒサルキと闘い始めた。


 そうだよね、アイリは格闘技だって俺よりずっと強いんだから。


 あれ、そう言えば分裂したヒサルキたち、ピョンピョン跳ねてるだけで、攻撃して来ないな。


「君の一撃があいつらの闘うエネルギーを奪っちゃったんだ。さすがだよユート。外からのエネルギーはあの最初のヒサルキにまだ流れ込んでると思うけどね」


 アプリが説明し、続けた。


「でもさ、もう一歩だからユート、デバッグの方法考えてよ」


「え? 俺が? だって俺、毘沙門天使えないし。ドームの中にいるみんながデバッグすればいいんじゃないの?」


「そうはいかないよ、あっち見て」


 4人の魔法少女はいつの間にか防護ドームを出て、俺がさっきまで闘っていたもう一つの大型ヒサルキを攻撃していた。


 ああ俺、アイリの方ばっか見てた。ぜんぜん冷静じゃなくなってたよ……。


「アイリは白兵戦してるから、兵器によるせん滅型デバッグが使えないし」


「うーん。そんなこと言われてもなあ……」


「ユートさん、さっきはすいやせんでした」

 いつの間にか脇にオオカミが来ていた。


「あれ? あっちに行かなくていいの?」

 うわ俺、オオカミだとちゃんとしゃべれちゃう。

 もう森のどうぶつたちと一緒だな。

 あ、森のどうぶつたちに転生するのっていいかも……。


「転生なんてないからね」


「ん? アプリさん、どういう意味っすか?」


「ああ、こいつの言うことは気にしなくていいからさ」


「そうすか? いやね。あっしはこっちに加勢しろって言われましてね」


「そうなんだ……あ!」


「どうしました、ユートさん?」


「君を見て、ちょっと思いついた」


「あっしを? あっしはオオカミですぜ?」


「うん。だからさ」


 ヒサルキが猿だっていうなら効くはずだ。

 あれを呼び出せるかな。

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