「おっと……悪いな、天音。家まで案内してくれるか」
「……はい、せつくん。もちろんです。こちらですよ」
――一度自死を選んだハズの俺がまた天音と同棲することになるとは……。とは言え、それはつまり、この街――〈
天音に導かれるように、右手――東側を歩くこと数分。商業区を抜けると、
「お待たせしました、せつくん。ここ――〈オクタゴン〉が今日からせつくんのお家ですよ」
「立派な建物だな……」
敷地の周囲は道路で囲まれ、この〈オクタゴン〉だけが良い意味で浮いていた。敷地の入口の
「せつくんが気に入ってくれると嬉しいんですけど……」
「新居ってアガるんだよな……っしゃ天音、早速入ろうぜ」
「はい!せつくん」
天音は小さな黒いハンドバッグから取り出した鍵を、
白い正八角柱の建物――〈オクタゴン〉の玄関ドアの鍵穴に鍵を差し込み、天音が扉を開ける。するとまず、高級感のある、広々とした玄関が俺たちを出迎えた。そしてその奥には家具家電が揃い、綺麗に整理整頓されたリビングが広がっている。
「おお……!天音……良い物件買ったな」
「ふふ、せつくんが喜んでくれて嬉しいです」
スニーカーを脱いでリビングへと足を一歩踏み入れる。フローリングが敷かれた正八角形のリビング、その中央に置かれた
それらに使用感は
「流石マイハニーだな」
「ふふ、もうせつくん、まだまだ序の口ですよ。あ、せつくん、簡単に一階の説明をしておきますね」
「お、頼む」
「この各階正八角形の〈オクタゴン〉、一階はその中央にこの正八角形のリビングがございます。このリビングを囲み、外周に沿う形で八つの部屋――水回りやその他設備が配置されていまして、この玄関からリビングを正面にして立ったとき、時計回りに、玄関、キッチン、倉庫、トイレ、エレベーターと階段の区画、ランドリー、バスルーム、シャワールームという形です」
「
「
天音の視線に合わせてリビングの真上を見上げると、リビングの天井は三階までの高さがある。二階と三階の全面ガラス張りの窓、その奥に見えるのは、この〈オクタゴン〉の外周に沿って配置された各個室の扉と、各個室にアクセスするための円状の廊下――要するに
二階、三階は全面ガラス張りの窓からリビングを一望できる構造になっている。二階、三階の高級感のあるデザインは、ホテルのイメージに近そうだ。
「一階のリビングを囲う各設備の真上にそれぞれ個室がある形ですね。エレベーターと階段の区画がございますので二階と三階には各七部屋個室があることになります」
「そうか、一応は十四人まで住めるのか。シェアハウス物件だしな」
リビングの隅の、テレビを観ながら
「ええ、私としてはせつくん以外要らないのですが……」
「あら過激。でもさ、この異能至上主義の新世界……戦い方としてはクラン――仲間を集めるのが正攻法だよな」
「流石ですね、せつくん」
そう返事をして、天音は丁寧な所作で、早速ソファで
――そう、「クラン」。先程病室のニュースでも、「S級クラン〈
「確かにクランを作って戦力を強化する方は数多くいらっしゃいますね。単独で動くよりはずっと安全ですから。〈
――〈十天〉。この新世界の頂点である世界上位十名――神級異能を持つ最強の集団……。
「大陸を動かしたり一国を滅ぼしたりってレベルの奴らだろ。まあ仲間要らんわな、
「そうですね。ですが新世界はそうでない者が大半ですからね……。
「それは当然YESなんだが……ああ、これは単純な疑問だ。そもそもクランって組む意味あるのか?別に知人同士なら
「はい、クランの実績に応じてランクが上がったり下がったりという制度がありまして、そのランクに応じて毎月国からクランに報酬が支給されます。目的は異能犯罪への
「それで〈高天原幕府〉とやらはS級……最高ランクか?」
「はい。〈十天〉の第五席に
「〈十天〉か……。そりゃS級だわ……。よし、じゃあ取り
「はい!あ、せつくん、でしたらスマートフォンを出していただけますか」
「スマホ……?」
俺は下に履いた黒のスキニーの右ポケットから、先程
「ありがとうございます。では
「……これか」
「VS」と記載されたアプリアイコンをタップすると、クランの名前らしきものがずらっと縦に表示された。画面下部に表示されているメニューバーの中で、何人かのデフォルメされた人が武器を見るイラストが光っているのを見るに、現在はこの「クランランキング」が表示されているようだ。
「ありがとうございます。そしてですね、メニューバーの一番右、『クラン情報』というイラストをタップしてください」
メニューバーの中の「個人ランキング」というアイコンも気になったが、
「これさ、クランマスターになるんなら『結成』、クランメンバーになるなら『加入』ってことだよな。どっちがクランマスターやるんだ?」
「せつくんはどちらがやりたいですか?」
「クランマスター」
「ふふ、そうですよね。でしたら『結成』を選んでください。私は『加入』を選んで無線通信をすれば無事クラン結成、というわけです!」
「あー、もし天音がクランマスターやりたいんなら譲るけど……
「いえ、私はせつくんに仕えるメイドですから」
――この子は「壊れて」しまっている。天音はメイド服を着ている理由を、「俺が好きだと思ったから」と言っていたものの、俺が大学を
「……わかった。じゃあ俺がクランマスターになるぞ」
「はい!」
天音が笑顔で返事をする隣で、「結成」を選択すると、次に、「クラン名を入力してください」という文章が表示された。
「クラン名……」
「せつくんの自由に決めていいんですよ」
「どうせならカッコいいのが
「ふふ、そうですね」
「――〈
「……〈神威結社〉……ですか。せつくんの語彙力から考えると、その……超ダサいですね」
「えっ」
「未だ厨二病が抜けてないというかなんというか……酷いネーミングセンスです」
「おーきつ。天音時々毒吐くよな」
「あっ、いえ、私はそういうところも含めてせつくんが好きなんですよ?」
「あ、ダサいのは否定しないのね……」
「コホン、では入力してください」
顔を赤らめ、両の頬に手を添えて照れていた天音は、その恥じらいを誤魔化すように軽く咳払いをすると、俺にクラン名の入力を促した。俺は鋼の意思で「神威結社」と入力し、「決定」をタップしようとした。
その瞬間、少しだけ身震いしてしまった。