「ねぇ、私、青春やり直したいの」
日曜の昼間に満喫のカップルシートで両手を組み上目遣いというお願いのポーズで12個年下の彼女・奈々が唐突に、でも真剣な顔で俺を見つめている。
「は、はぁ……?ごめん、意味が分からない」
必死に理解しようと努めたが、サッパリ分からない。
「あのね、私って学生時代ずっとバレーボール一筋で生きてきたでしょ?強豪校だったから高校時代イコール部活で恋愛どころじゃなかったの。制服デートとか放課後に一緒に帰るとか憧れていたけれど出来なかったなって。それが心残りなの。」
奈々は県内でも屈指のバレーボールの名門校にスポーツ推薦で入学した。大学もバレー推薦で入ったが、1年目の夏に膝を壊してしまい選手生命が絶たれた。半年のリハビリのおかげで日常生活も趣味でバレーボールを楽しむことも可能になったが、プロや実業団としては実質不可能となり、21歳の大学3年生になった今は学業で就職先を探すため今は勉学に励んでいる。
「……うん、高校時代に恋愛が出来なくて心残りなのは分かった。それで俺にどうしようって言うの?」
「だから、青春をやり直したいの!!!」
俺の中で心残りと「だから」という接続詞が上手く結びつかず、なんて返そうか言葉に詰まった。
「やり直したいのは分かった。けれど、俺33歳のおっさんだよ?奈々は21歳で大学生だからまだいいかもしれないけれど、高校卒業して15年も経っているんだよ??」
「うん、知ってる。でもタカ君は私の彼氏でデートをするならタカ君しかいないもん」
「……。」
なんだか嫌な予感がするが、奈々は気にせず続ける。
「あのね、私、青春をやり直したいの。高校時代に出来なかった放課後デートとか校舎の裏でみんなに隠れてこっそりとか甘酸っぱいことやちょっとドキドキすることしてみたいの。」
「ん?放課後デートって……俺に制服着ろって言ってるわけじゃないよね?校舎裏って今やったらただの不法侵入で下手したら捕まるぞ?」
「それは嫌だよ、就職にも響くし。私がやりたいのは不法侵入でもコスプレでもないの。青春っぽいことがしたいの!」
冷静なのか夢見がちなのかよく分からない事を言っている。そして、青春っぽいこととはなんだ?高校を卒業して15年。青春なんて言葉からは程遠い存在になっていた俺だったが、彼女の一言で青春をリスタートすることとなった。