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第16話 私の存在

「ね?教えてほしいんだけどタカ君から見て私ってどんな存在?」

俺の家で、ソファに隣並びで座っていると奈々が肩にもたれかかり、体育座りになって顔を見上げながら聞いてきた。顔を下に向ければそのままキスが出来そうなほどに距離が近い。

3か月前に初めて家に来た時は、『男の人の部屋に入るの初めてだから緊張する』なんて恥じらいながら言っていたが今ではすっかり慣れてくつろぐようになっていた。


「どんな存在って……彼女だけど、どういうこと?」

「ふふーん。」

彼女という言葉にニヤけて変な声で笑っている。ほっぺをギュッと引っ張ったりすぼめて変顔にしたりちょっとした悪戯をしたくなった。


「あ、そうじゃなくてね。就活でさ、面接とかで頑張ったことって聞かれたらバレーボールの事を答えるつもりで、それは担当の先生からも良いって言われたの。強みも忍耐力やチームワークとか部活で培われたものを答えるつもり。それでね、性格からこんな業種が向いてるとか自分で思っているの周りの人が感じているのって違うかもしれないから聞きたかったの。」


顔との距離がほんの数十㎝で聞く話題ではない気がしたが、奈々がカップルモードではないと理解した俺はしばらく考えてから口を開いた。


「奈々はさ、好奇心旺盛でたまにぶっ飛んだ発言をすることもあるけれど、真っ直ぐに前を向いて突き進んでいく芯の強さがあるところがいいところだと思うよ。言われたことを素直に受け止めて実践するところも、やると決めたことは絶対に達成してやるって負けず嫌いで根性があるところも凄いと思うし、努力家だよね。あとは、誰とでも仲良くなって社交的だし、場を明るくする力があるというか……元気もらえるというか……ひまわりとか太陽のような中心的存在かなって思うよ。」


「……。」

奈々は唇を口出してジッと俺を見つめている。


「な、何?どうした?」


「タカ君がそんな風に思ってくれているのが嬉しくて。なんかさ、適正テストみたいなの受けても正確性とか悪かったし、文章打ったりPC操作もロクに出来ないし、私に仕事務まるの?って不安になって……。」


(そういうことか……。今日、いつもより元気がなかったのは自信を無くしていたからなん

だな。)


「長所と短所って表裏一体だと思うんだよね。大らかな分、あまり細かいことは気にしない面もあったりさ。みんなで賑やかにワイワイ引っ張るムードメーカーだから静かな場所だと緊張したり落ち着かないタイプだけど、逆に図書館のような場所で黙々とやる方が落ち着く人もいて人それぞれなんだよ。黙々とやる人は1つのことに突き詰めてやるのが好きだったり、自分のペースで動きたいとか個々に得意不得意や好き嫌いがあると思うんだよね。だから、テストだけで判断されるものじゃないし結果だけで評価したりもしないよ。会社だって正確性が高い人だけを求めていたら、思い切った行動や異業種の新規事業に舵を切る人はあらわれないだろうし、色んな性格の人がいるから回るんだよ。だからさ、あんまり気負いすぎない方がいいと思うよ。」

「タカ君、神!ありがとう!!!」


(……神!?とりあえず少しは元気出たってことでいいのか???)

神という言葉一つでジェネレーションギャップを感じたが、今いう場面ではないと思ったので黙っておいた。


「よしよし、いい子。いい子。」

俺は奈々の髪をぐしゃぐしゃにしながら撫でるとくすぐったそうにバタバタとし始めた。


「ねー、今、犬あやしているように私に触れてるでしょ?」

「ん?そうかな?」

俺はわざとニヤリと笑い反応を楽しんでいると不意打ちでキスをしてきた。そして小さく舌を出して俺の唇を舐めた。


(……!!!)


「犬のように扱うからだよ!犬ってペロペロ飼い主舐めたりするでしょ。その真似」

今度は奈々がニタニタしながら笑う。時々、突拍子もないことをしてくるのも奈々の特性かもしれない。


「じゃあ今、奈々は犬の真似しているって事でいいんだよな。思いっきり可愛がろうか」

そう言って顎やお腹など犬が撫でられて喜ぶところを全力でくすぐった。奈々は手足をバタバタしながら笑っている。


(真面目な話をしていたと思ったら、急に犬になるんだもんな……。くすぐりあいっこなんて学生時代でもした覚えないぞ。)


コロコロと違う顔を見せる奈々に翻弄されながらも俺はこの付き合いを楽しんでいた。


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