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第15話 スメラギ追跡


 「おい、修! どこへ行くんだ!?」

 「そこでスメラギを見た気がするんだ、また逃げ出してきたのかも」

 「ええ!? あたしも行くよ!」

 「お前達は戻ってくれ、見間違いかもしれないし」

 「あ、修ちゃん!」


 真理愛の声を背中に受けながら、俺はぶさ猫が居た付近へと駆け出していく。

 サッと物陰に隠れたので確証はないけど、もし脱走しているなら八塚が帰ったときに居ないと寂しがるだろう。


 「確かこっちに……いた!」

 「……」

 「あ、こら逃げんな! 俺だよ!」


 一瞬、俺と目が合った猫は間違いなくスメラギだった。しかしヤツは踵を返してまたどこかへと走っていく。


 「くそ、学校から出たか……どうする?」


 事件が多い町に出て、授業ボイコット。それにより母ちゃん鬼の形相をして俺を叱るところまでが脳裏に浮かんだところで――


 「ぶにゃー」


 と、俺を待つかのように道路の反対側で俺に向かって一声鳴く。

 まるで『ついてこい』と言っているように聞こえたのは気のせいか? 何にせよここまで来たらあいつを捕獲しないと気が済まない。


 「絶対掴まえて真理愛の前に突き出してやる!」

 「ぶにゃー……!」


 この前、真理愛と遊んでいる時に可愛がられ過ぎて疲れているのを知っている。面倒そうに相手をしていたところを見るとこいつは真理愛が苦手なのだろう。


 「つかまえ――」

 「ふっ! ……ぶにゃ!」

 「くそ……!?」

 「気をつけろい!」

 「す、すみません!」


 商店街まで走って来た。

 事件で人が少ないものの、昼間はそれなりに人が居るのでぶつかりながら追跡を続ける。

 そろそろ足が疲れてきたころ、景色が商店街や住宅街から少し離れているオフィスや倉庫のある地域に足を踏み入れていることに気づく。


 「ぶにゃー」


 そして、とある雑居ビルの前でぶさ猫スメラギが鳴く。俺が近づいても逃げないところを見ると、ここに来るのが目的だったようだ。


 「何かあるのか? ……猫が俺をここに連れてくる……? あ、おい」


 俺が抱き上げようとした瞬間、スメラギは割れたガラスドアの隙間から中に入っていく。良く見るとこの雑居ビル、廃墟のようであちこちにひび割れた窓があり、人の気配はまったくしない。


 「ぶにゃー」

 「くそ、ここまで来たらこいつを連れて帰らないと気が済まないぞ……ん、空いてる……?」


 ドアに手をかけると、何の抵抗もなく開き中へ入ることができた。埃っぽい空気が鼻をつき、長いこと人が入っていなかったことを俺に告げる。外から見た感じ十数階建てのビルで、一階は受付と応接室のような部屋、それと事務室があった。


 「……」

 「おい、ぶさ猫。一体なんだってんだ?」


 俺の手から華麗に逃れながら、部屋をひとつひとつ物色していくスメラギの後をついていく俺。実はこいつが八塚の居場所を知っていて、それを探すためにここへ来た……


 「……なんてことある訳ないか。どうせ雌猫でも探しにきたんだろうな……」


 そのまま、二階、三階と階段を上り、部屋を物色して回る。腕時計を見ると、ちょうど四時間目が終わったところだった。

 もう逃げるつもりは無いようだし、気が済むまで付き合ってやるかと俺はため息を吐いて周囲を見渡す。


 「お……エロ本……廃墟には欠かせないアイテムだな……」


 それ以外にも、落書きがあったりお菓子や弁当のゴミ、ジュースのペットボトルなど、肝試しや不良のたまり場になっていることを物語る雰囲気を醸し出していた。

 きちんと企業が入っていた時は製薬会社か何かの建物だったらしく、稀に薬の資料が落ちていたりするのが興味深い。


 そして、俺達は六階に足を踏み入れる。


 「ここは……休憩室とロッカールーム、か」


 広々とした空間にあるテーブルと、別の部屋は社員用のロッカーが並ぶ部屋があった。ロッカーはほとんど開け放たれており、興味本位で誰かが調べたのだろうと推測される。


 「……」

 「ん? どうした? ……!?」


 不意にスメラギが顔を向けると、そこにはエレベーターがあった。これだけ大きい建物だ、もちろんついていることに異論はない。


 それだけならまだいいが――


 「動いているだと……!?」


 俺が冷や汗をかいていると、エレベーターは『13階』を示す場所でランプが止まった。

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