【鏡よ鏡…この世で一番美しいのは誰?】
【それはあなた様でございます…】
世界中の誰もが知っているグリム童話『白雪姫』の有名なフレーズです。外見の美しさを自負する継母の女王が、義娘である白雪姫に嫉妬して殺そうとするという、実に恐ろしいお話です。
この作品に出てくる鏡は、単に〈魔法の鏡〉としか称されておらず、その正体は明かされていません。これは私見ですが、あれは人間が心の奥底に秘めている負の感情、つまり誰しもが抱いている心の闇の象徴である女王の憎悪と妄想が混ざり合い、あの〈魔法の鏡〉という形で分かりやすく具現化されたものなのではないかと…そう思っていました。でも……もし本当に魔法の力が宿った鏡が現実に存在しているとしたら…今これを読んでくださっている読者の皆さん、あなた達ならどうしますか?
「ねぇ見てほら!木咲先輩と姫野先輩だよ!」
「わぁ~!本当に美人で可愛い!!♡」
「2人仲良く歩いていて、マジ尊い!!♡」
「ふふっ…ねぇ由希、後輩の子達が私達の事を見てるよ」
「そ、そうだね…えへへ…」
私、姫野由希と木咲恵美は、小学校時代からの幼馴染。現在通っている女子高で、私達は校内一の美女コンビと注目を集めていました。
「きゃぁ~!木咲先輩が手を振ってるぅ!!♡」
「ヤバ過ぎぃ~!!♡」
特に恵美はサービス精神旺盛なタイプで、このようにまるでアイドルのように振る舞い、自分の美貌に誇りを持っていたのです。
ある日、恵美は私に奇妙な物を見つけたという話を聞かせました。
「鏡?」
「うん、昨日パパが地下の物置を整理してたらね、なんかおっきな鏡が出て来てさぁ。でも、パパもママもこんな鏡知らないって言うんだ。もしかしたら、お爺ちゃんが昔買ったやつかもね」
恵美のお爺さんは大の骨董品好きで、家の地下に作られた物置にあちこちの地方や海外で買い集めた骨董品を仕舞っていたそうです。
「…それで、その鏡どうしたの?」
「うん、私が貰っちゃった。だってお爺ちゃんが買ったやつなら捨てるなんて出来ないし、それに丁度部屋の鏡台が割れちゃってさ、新しい鏡が欲しいと思ってたんだよねぇ。そうだ、良かったら見に来ない?」
「え?う…うん」
私は恵美の家に行き、その鏡を目の当たりにしました。大凡170センチくらいの西洋鏡が、彼女の部屋の壁に立て掛けられていました。それはまさに、『白雪姫』の継母が使っている魔法の鏡のようでした。私がそう言うと、恵美が鏡の前に立ち、ふざけてあの台詞を口にしたのです。
「鏡よ鏡、この世で一番美しいのはだぁれ?…」
私も彼女のおふざけに乗って、「…あなたが一番の美人です」と答えて、2人で笑い合いました。
ところがそれ以来、恵美の様子がいつもとは違うように感じ始めました。
鏡を見せてもらった次の日から、彼女は学校生徒達に、「この学校で一番美しいのはだぁれ?」と、頻繁に聞くようになったのです。恵美はまるで何かに取り憑かれたかように聞き回っていました。そして、恵美の行動は日毎にエスカレートしていき、生徒達は気味悪がって段々と彼女から遠ざかっていきました。
「ね、ねぇ恵美…最近なんだか様子が変だよ?何かあったの?」私が心配して聞いても恵美は、「何でもない」としか答えませんでした。
それから一週間ほど経ったある日の事、恵美が私に言いました。
「由希って本当に綺麗だよね……私と由希、一体どっちが美人なんだろうね……」
恵美はまるで氷のような冷たい目つきで、私を見ながらそう言いました。
「ねぇ由希……久しぶりに私の家に来ない?」
「え?…い、良いけど……どうして?」
「また見せてあげる……鏡を…」
「鏡って…あの鏡?」
「うん……」
私は彼女の家へと行きました。そして、再びあの西洋鏡を目にした時、私はその鏡から以前見た時とは違う、背筋が凍るような異様な気配を感じたのです…。
すると恵美は私を鏡の前に立たせ、「さぁ、由希も聞いてごらん?『鏡よ鏡…学校で一番美しいのはだぁれ?』って…」と、鏡を指差して言いました。
ただならぬ不気味な空気に耐えながら、私は恐る恐る鏡に聞きました。
「……か…鏡よ鏡……学校で一番美しいのはだぁれ?……」
鏡に問いかけましたが、何も起こりません…。
『やっぱり…ただの鏡だよね…』そう思ったその時、「あなたが一番の美人です…姫野由希様」という声が聞こえたのです。
私はゾッとして、その部屋から逃げようと振り向いた瞬間……
「あなたが死ねば、私だけが一番…」
包丁を手にした恵美が、私に襲い掛かりました。