ふと気が付くと、僕は薄暗い空間に座っていた。
そのままボーっとしていると『大丈夫?』と聞かれたので『大丈夫』と答えた。
少しずつ思い出した。
クラスの友達と、木造の旧校舎へ肝試しに行こと誘われたんだ。
フェンスを乗り越え、グラウンドを駆け抜け、靴も脱がずに旧校舎へ上がった。
『ギャー、こえー!』
みんなで探索するのかと思ったら、思い思いに教室の扉を開けたり、勝手に走り出したり、持って来た木の棒でその辺の物を叩いたり。
女子がいたら『ちょっと、男子!』とか言い出す感じだ。
僕は怖がりだから、友達みたいにはしゃげず、暗闇に目を慣らしながら手近な教室へ入ってみた。
黒板も、机も椅子も、普段使っている物と変わらないけど、壁や床が木でできているだけで、昔にタイムスリップしたみたいだ。
そこで何か光る物を見かけ振り返ると、足がもつれて転んでしまった。
そこで頭でも打ったのだろう、意識を失ってしまった。…らしい。
「オレの顔を見て倒れるから、どうした?って思ったよ」
「あ…、ゴメン」
「別に良いって。暗いから緊張してたんだろ」
「何かが光った気がして…」
「光った?…もしかして、コレ?」
彼は掛けていたメガネを、軽く指で押し上げた。
「そう…、かも」
「きっと月の光が反射して光ったんだ」
「うん、そうだね」
「そろそろ立てそう?」
「僕は大丈夫だから、先に行って」
「何言ってるんだよ。ビックリするたびに倒れてたら、行方不明扱いにされちゃうぞ」
「それもそうだね」
僕は、ヘニャっと笑った。
彼に手を引かれ立ち上がると、他の友達を探して歩き出した。
窓の外には満天の星空。
いつも見えている電車や車の明かりも、ここからだと見えない。
まるで、旧校舎だけが世界に取り残されたみたいだ。
僕たちは手をつないだまま、暗い廊下を歩きだした。
そう言えば、クラスメイトにメガネを掛けた男子っていたっけ?
家へ帰ったときに、コンタクト外してメガネにしたのかな。
それに、彼の名前も思い出せない。
クラス替えしたばかりだけど、クラスメイトだから知らないはずもないし。
あと、彼の手が、フライドチキンの骨みたいに細いのも気になる。
まあ、いっか。
今日、仲良くなったんだし、これからもっと遊べば良いんだから…。