取り戻して。受け入れて。キミの魂を、意志を、記憶を。
キミが私の命を救ってくれたように、今度は私がキミの魂を救います。
今はわからなくてもいい。何が正しいかなんて悩まなくていい。
キミが過ごした月日は、かけがえのないもの。
それを思い出せば、全てわかるようになるから……。
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俺がクラウスたちと出会ってから、半年が経つ。
その間に色んな街へ行って、色んな危機を乗り越えて、色んな冒険をした。
そんなある日、クラウスに言われたことをうまく飲み込めず、俺は目を白黒させながら聞き返す。
「えっ……? えぇ? ごめん、クラウス、もう一回言って?」
感じるのはバツの悪そうな雰囲気。
普段なら様々な話題が飛び交う朝食の席のはずが、このときに限ってみんなは黙り込んでいた。
聞き返されたクラウスはなんでもないことのように、いつも通り俺を見下ろして言う。
「あぁ、言ってやる。お前ぇは今日でこのパーティから抜けろ」
抜けろ……?
俺は思わず静かな食事処に響く声を上げた。
「なんで!? ぼくなにかした!? そんなこと、急に言われても困るよ!」
「急じゃねぇ。前から決めてたことなんだよ」
「それはクラウスがでしょ!? 酷いよ!」
テーブルを叩きながら、一人称が素になるほど怒りのままに言葉をぶつけると、クラウスは舌打ちして目を逸らす。
「ガタガタ言うんじゃねぇ。とにかくお前ぇはクビなんだよ!」
「クラウス……」
この半年で、俺は俺なりにこのパーティに馴染むことが出来ていた。
始めは怒鳴られるばかりだったクラウスにも、こうして怒りをぶつけられるようにもなった。
なのに、どうして……?
すると、横からクラウスの頭を細い腕が小突く。
ノエルだ。
「こら、なんでちゃんと説明しないの」
「……るせぇ」
その口振りから、なにか理由があることは察したが、今まで知らされていなかったのは変わらない。
俺はテーブルを囲む仲間たちを見ながら叫ぶ。
「ノエルは知ってたの!? みんなも!?」
俺から見たみんなの反応は二通りだった。
気まずそうに目を逸らすか、しっかりと俺の目を見返すか。
しかし、俺の問いに否定する声は上がらない。
「……ええ。クラウスだけじゃない。みんなで決めたことなの」
「そんな……仲間だって思ってたのにっ……!」
静かに言うノエルの言葉に、俺はめまいを覚える。
心の奥がぎゅっと苦しくなって、誰に突き飛ばされたわけでもないのに、後ろによろめいた。
俺は胸の痛みから逃れるために、その場から逃げようとすると――。
「待って、アキくん!」
「アキ!」
「アキ」
ノエルの叫びと共に、俺の腰にナナルが組み付いて、腕はヴァルにがっしりと握られる。
振り払うのは簡単だ。
ナナルは体重が軽いし、ヴァルにだって力では負けない。
俺はもうすでに、みんなと肩を並べられる冒険者になったのだから。
けれど――だからこそ、仲間に怪我をさせることはできなかった。
俺は何も言えずに、大人しく席に戻る。
そうすることでヴァルは手を離してくれたが、ナナルは俺の服を握ったままだ。
ノエルは俺が視線で話を促すと、ゆっくりと口を開いた。
「……私たち、この半年間ですごく変わった」
胸に手を当てて、ノエルは呻くように言う。
俺は俺が入る前の彼らを知らない。だから、その前後でどう変わったのかは知らないけれど、俺たちは半年前と比べてずっと強くなっているのは実感していた。
最初はパーティで戦っていた敵を、個々で倒せる程度には強くなった。
それこそ――。
「アキくんはあんまり興味なさそうだったけど、私たちはもう結構有名なパーティなんだ」
――俺一人が抜けても、十分に依頼をこなせるほどに。
そうか、と俺は俯く。
クラウスの気まぐれで拾われた俺だ。
みんなと比べて、冒険者としての経験が圧倒的に足りない。
ベテランのパーティの中にルーキーが混じっている状態は、この先のみんなにとってハンデでしかないのかもしれない。
そうならば、俺は自分を納得させることができる。
だって、俺はみんなが好きだから。
むしろ、ここまで連れてきてくれたことに感謝すべきなのかもしれない。
だったら、全部は言わなくていい。聞くだけ悲しくなってしまう。
俺は顔を上げて、了承の言葉を告げようと――。
「それはね。全部アキくんのおかげなんだ」
――え?
「こんなにすぐ名前が広まるなんて、私たちも思ってなかった。……ううん、それだけじゃない。アキくんがいなきゃ、切り抜けられなかったことがいくつもあった。今の名声なんて、その副産物」
「そ、そんなこと……」
俺は急に話がわからなくなった。
これまでの危機は、みんなが力を合わせて戦った結果だ。
勇者としての力を使っても倒せたかわからない敵に勝てたのは、みんなで戦っていたからだ。
俺は困惑して周りを見ると、ヴァルを目が合った。
「事実だ。アキ」
続けてナナルを見ると、彼女は深く頷く。
「アキがいなきゃ、アタシはここにいないよ」
確かに戦闘中にナナルを守ることはあった。
けれど、それはお互いさまだ。俺だってそうだ。
クラウスが敵を引き付けてくれなきゃ。
ノエルが傷を癒してくれなきゃ。
ナナルが隙をついてかく乱してくれなきゃ。
ヴァルが急所を射抜いてくれなきゃ。
俺は今、ここにいない。
けれど、ノエルは声を低くして続ける。
「それで思ったの。――私たちはアキくんに追いつけない」