目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
23区のオーロラ
23区のオーロラ
千葉フィッシュ
SFポストアポカリプス
2025年04月22日
公開日
5,029字
連載中
世界終わるまで249日の物語……

第1話

酸っぱくて辛い。


ただの紙コップに入っていて、見栄えのする包装もないけれど、この小さな麺の美味しさは間違いない。夜中に腹を壊すのを気にしないのなら、六杯くらいは食べられるだろう。


これは形容詞ではなく、実際に試した結果だ。六杯が自分の限界で、その後お腹を壊すことは確定事項だ。


「警官T146、勤務中の栄養補給行動は、市民としてのあなたの評価を下げる可能性があります。注意してください」



隣の丸っこい箱型のやつをちらりと見て、私は一瞬唖然としたが、すぐに二、三回箸を動かして紙コップの汁を飲み干してから言った。


「Z4、また故障したのか?」


この、まるで空飛ぶヘルメットみたいな奴が、この街で警察官一人ひとりに配備されている「アシスタント」だ。


補助警官とも、上層部から派遣された監視役とも言える。


その核心部には何が入っているか分からない真球があり、外側にはアンテナか受信機のような装置が付いている。普段は磁気浮遊で空中を漂っているが、緊急時には小口径機関銃を使って火力支援をすることもできるし、全エネルギーを地盤推進器に集中して逃げ出すこともできるらしい。


その装置が人間を運べるという噂も聞いたことがあるが、私はまだ試したことがないし、そんな機能を使う日が来ないことを願っている。


「冗談ですよ、炭素系生物。あなたは本当につまらない。プログラムに『職務に忠実』と書き込まれた私ですら、あなたの空気の読めなさには耐えられません」


Z4が堂々とおっしゃった。


あいつらしく発言だ。


今日も、この小さな相棒はいつも通り、最も機械的な電子音で最も人間らしいことを言っている。


正直、警察になってから良かったことがあるとすれば、このZ4が割り当てられたことかもしれない。ここ数年の人工知能の急速な進化のおかげなのか、それともこの丸い球体のユーモア感覚が単なるバグなのか、特に追究する気はない。世の中には未解決の謎が多すぎるし、目の前にもZ4だけではない謎が転がっている。




なにせ、今日の仕事はまだ済んでいない。


例向かい側では、いつも通りの年配の女が高らかに歌っている。


「その通り!私たちはこの大地に感謝すべきなのです。子供たち、考えてみてください。この地面がなければ、毎日病原菌だらけの汚水の中を歩くことになるでしょう。この世界は苦難に満ちていますが、幸いなことに文明の勇気と輝きが受け継がれてきました。私たちは先人の恩恵の上を歩き、着実に前進しているのです。私たちはきっと困難を乗り越えるでしょう!私たちは皆、善良な子供たちなのです……」


ここは「プラットフォーム01」。


単なる一つのプラットフォームを指すのではなく、ここは地名として使われている。臨淵市の北側でビルの屋上が密集した地域だ。かつて有能なエンジニアが、まだ人々がここまで分散していなかった頃に呼びかけてこのプラットフォーム01を作り、臨淵市の外縁が過度に混雑するのを防いだ。


言い換えれば、ここは臨淵市の外縁でもっとも賑わっている場所で、市の中心地ともいえる。そして、マダム・リンは、このプラットフォーム01で最も騒がしい人物の一人だろう。


普通の市民とは違い、彼女には特別な身分がある——摩天楼教の教祖だ。この界隈ではちょっとした有名人でもある。


「ふぅ……どうしてこんな馬鹿げたものを信じる奴がこんなに多いんだろうな」


「回答——マダム・リンの行動は論理的合理性に基づくものではなく、臨淵市の市民たちが共通して抱える不安感、そして天災に直面した際の個人としての無力さからくる本能的な弱さに基づいています」


Z4の口から誰でも知っている正論が出た。




「質問しているわけじゃない。ただの感想だ。君の人間性レベルなら、それくらい分かるだろう?Z4、一度点検に出してやろうか?」


しかし、この小さな相棒は納得がいかないようで、その滑らかな「額」から僅かに電荷が漏れ、意地を張った。


「こっちも冗談、ただなユーモアですよ、愚かな炭素系生物」


「まぁ、冗談でも何でもいい。朝飯は済んだ。仕事に行くぞ、Z4」


散らかった髪を簡単に束ね直し、背中に流した。何度も短く切ろうと思ったが、そのたびにやめてしまう。結局、この髪はこの忌々しい場所に来てからの時間を記録しているようなもので、それなりに象徴的な意味があるからだ。


屋台を押す移動式の売り子を避け、向かい側の仮設演壇の前に来た。毛布を巻き、解体された旧軍事施設の廃材で作られた小屋に背をもたれて感動に浸る聴衆を踏まないよう注意したが、不運にも一人の足を踏んでしまった。


「マダム・リン、そろそろ店じまいだ」


「お嬢様、やっと子供たちが抱いた信念に水を差すおつもりですか?」


中年女性は明らかに不快そうな顔で私を見た。彼女は演説中からずっとこちらを意識していた。しかし、すでに麺一杯分の時間は与えた。マダム・リンは「適度」を知らないらしい。


「二つ訂正するぞ、リン。まずこの連中はどう見ても三十を超えている。子供と呼ぶのは誤りだ。次に、彼らはもう十分に寒い。こんな天気に演説を聞かせているお前こそが元凶だ。最後に、私は『お嬢様』なんてものではない、そんな高貴な出身もない。ハルの馬鹿に騙されるな。今度またそんな風に呼んだら、デマを流した罪で捕まえるぞ」


「訂正が三つになったな」


Z4はまだ不適切なタイミングでツッコミを…


もう…どっちの味方だこいつ…!


「お願いです、お嬢様。私は仕事をしているんです。この街で仕事を止められるのは、死刑宣告と同じですよ」







「警官さん、あなたにはマダム・リンに干渉する権利はありません!」


「ここまで追い詰めて、一体何のつもりだ?」


「暴力は好みませんが、マダム・リンの発言の自由を奪うつもりなら、彼女のために戦うんだ!」


騒がしい喧騒があちらこちらから響き渡る。


今日まで、布団にくるまった彼らを知らなかったが、普段はこんな調子ではないのだろう。一度その場の空気に乗れば、酔った勢いのように饒舌になり、自分がいかに敬虔な信者かを誇示しようと躍起になる。


ふふ……まあ、無理もない。今、彼らの前に立つ私は「お嬢様」と呼ばれ、深い青色の整った制服をまとった、ただ少し背の高い女性に見える。


独りきり。唯一の同伴者は、傍らに浮かぶ奇妙な球体、武器らしいものは何一つ持っていない。


こんな「お嬢様」一人、対成年男性十数名、やっぱり勝算がないと思われるんでしょうね。



しかし…



「Z4、状況判断を」


「状況:軽微。C級暴力行使を許可します」


「ねえ、その電子音声と倒置法を使ってロボットらしさを強調するの、そろそろ止めてくれない? 今どきそんな音声パックなんて時代遅れよ」


「これはレトロ趣味であり、一種のユーモアです」


Z4は無感情に答える。



一方、信者たちは徐々に興奮し始めた。私がマダム・リンの話を邪魔したためか、Z4との会話が彼らを不安にさせたためか。いずれにしても、先ほど「暴力は嫌い」と主張した背の高い男が一歩前に出て、私を見据えた。


「君は一人だが、我々は大勢いる。帰った方がいい。これが最後の警告だ」


思わず笑いがこぼれた。


「一致団結すれば勇敢に見えると思っている?それとも、次回マダム・リンの講義を聞くときに特別視されると思った?」


問いかけに大男は戸惑いを見せた。図星だったのだろう。彼は疑い深くZ4を見つめる。私が彼の心を読んだと思ったらしい。


残念ながら答えは簡単、経験に基づく直感だ。


「さき、暴力が嫌いだって言ったよね? それが本当かどうかは知らないけど、私は暴力が大好きよ」


――


言い終わるや否や、男が飛びかかってきた。だが彼には実戦経験が不足している。筋肉が勇気を与えているだけだ。


素早く後ろに跳び、男が体勢を崩したところで回転しながら顎を蹴り上げる。


バキッ――まずいかもしれない。


「オーロラ! C級暴力許可だけだと言ったでしょう!」


Z4のやつ、こんな場合だけ、私の本名を呼ぶ。


だが、先の男はすでに倒れて動かない。周囲の信者は黙り込んだ。


「今月4度目ですよ!」


ついにZ4はレトロな電子音声をやめ、真面目に訴えた。




「Z4がC級評価しか出さないからよ。私みたいな人間がいくら優しくしても彼らが改心するとは思えないわ」


「いいえ、お嬢様には潜在力がありますよ。少し身なりを整えれば……」


マダム・リンがタイミング良く割り込む。


「少なくとも、その馬鹿げた名前を変えるまでは絶対に入信しないわ!」


私はZ4から受け取った捜査令状を彼女の顔に突きつけ、話を続けた。


「でも、あなたの信者の言ったことも間違いではないわ。互いを苦しめる必要はないでしょう?早く仕事に戻って、私が昼食を食べられるよう協力してくれないかしら」




そしてーー


五時間後。



「あの忌々しいインチキ占い師!」


マダム・リンの家を出たのは午後3時。成果はほぼゼロだった。


「はあ……腹減った……Z4、栄養剤を」


刺々しく注射をされる間、苛立ちと共に飢えが和らぐのを感じた。


酸性雨が降りしきる中、Z4が珍しく真剣に尋ねた。


「オーロラは……皆に尊敬されたくて、こんなに頑張っているんですか?」





「なぜそんなことを聞くの?」


「マダム・リンの件は非常に厄介で、警察の中でも誰も手を出したがらない問題です。でも逆に、それを綺麗に解決できれば、大幅な評価アップが望めます」


Z4の推測は合理的だ。


実際、周囲の同僚から見ても私は功を急ぐタイプだ。私はいつもリスクが高く、それに見合った報酬が期待できる案件ばかりを引き受けている。そうすれば自分の評価を素早く上げて、早く中央部に戻れると信じているからだ。


私は周囲の目を気にしない。そもそも、彼らとはそれほど親しくもない。ここ臨淵市の外縁部では警察署というよりもギルドに近く、私たちは賞金稼ぎのようなものだ。


しかし……Z4に聞かれたら、不思議と自分の本音を伝えてもいい気がした。


「私、アルファ部隊に入りたいの」


考え抜いた末に、最も簡単な説明を選んだ。しかし隣にいる丸い相棒は、いつだって鋭く突っ込んでくる。


「『酸化層』出身のオーロラさんがアルファ部隊に入るのは難しいのでは?」


「おい、それは問題発言だよ!」


私の夢を否定されたことよりも、「酸化層」という言葉の使用に問題を感じた。


Z4が口にした「酸化層」とは公式な用語ではなく、この辺りの住人が臨淵市外縁部を指す言葉だ。やや嘲笑的なニュアンスを含んでおり、その由来も簡単に説明できる。


臨淵市は海上に建てられており、その海中には怪物がいる。


怪物が直接市の中心部を襲わないよう、また中心部の人々が安心して暮らせるように、預言者「A」が統治する高度に管理されたこの星でも、それほど厳格ではないエリアがいくつも作られた。


私の住む地域もその一つだ。


22世紀に入り、地球が統合され国家概念が消滅すると、預言者「A」は居住可能な土地を100の区画に区分けした。各区画に住む人々は、出生時の遺伝子選別から成人後の職業や結婚相手の選定まで、すべてAIが合理的に決定している。


もちろん、「A」は人ではない、そのAI、そのスーパーコンピューターの名前だ。


幸福、安定、平和。


これらを原則として、預言者「A」は市民に最も合理的な人生設計を与えた。一方で、汚染された環境と海中の怪物の脅威により、市の周辺部は常に困難に満ちている。増加する都市人口と狭まり続ける居住空間も喫緊の課題だ。


こうした状況で、一部の遺伝子選別されなかった人々を外縁部に追いやることが、最も効果的な解決策となった。


私たちの地域に住む人々の多くは自然出生であり、この外縁都市があることで、海中からの怪物の中心部侵入を防ぐ役割も果たしている。


それゆえ、「酸化層」という呼称が生まれた。


この街はチーズのようなもので、外側はカビが生えているが、内側は新鮮なのだ。


ただ……データベースに直結するZ4がこの不適切な用語を使うとは意外だった。やはりこいつの背後には人間がいるのでは、と私は何度も疑ってしまう。




「オーロラ……オーロラ?」


「えっ、ああ!? 何?」


「プラットフォーム01からA2区へ続く橋が破壊されました。しばらく警察署に戻れそうにありません」


「なんだって!? 怪物が上陸したの?」


「いいえ……現場から送られてきた監視映像を見る限り、恐らくは……」


Z4が映像を隣の落書きだらけのレンガ壁に投影する。それは事件現場を見下ろした映像で、数秒後には橋のたもとが激しく爆発し、炎が周囲を一瞬にして照らし出した。


明らかに人為的な事件だ!

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?