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第5話

***


「笹良に話があるんだ」


 加賀谷に変なことを言われて以来、気持ち悪くて思いっきり避けていた。それなのに、こうしてしつこく話しかけてくる。


「悪いけど、話をする気になれない」


 持っている文庫本に視線を落とした。目の前の相手をスルーすべく、栞を挟んだページを素早く開き、印刷された文字を追いかける。


「弁解させてほしいんだ!」

「弁解?」


 必死な様子を表すような声色を聞いて、仕方なく顔をあげた。加賀谷は俺を見ずに、落ち着きなく両目を泳がせながら口を開く。


「心にもないことを口走った件について、その……。話の内容が特殊だから、授業が終わってからふたりきりで話がしたい」


 ふたりきりで話がしたいというワードに、引っかかりを覚えた。危ない可能性があるのが明白だ。


「加賀谷が俺に二度とつきまとわないと約束するなら、顔を出してやってもいい」

「ああ、約束する。短時間で済ませるから。場所は」

「体育館がいい。今日は練習がオフなんだ」


 ふたりきりでも距離がたくさんとれるであろう、体育館を提案したのはナイスだと思える。


「わかった。必ず来いよな」


 悲壮感を漂わせながら念押しした加賀谷は、俺の視線を振り切るように去って行った。明らかにいつもと違う様子に、嫌な予感が胸の辺りに充満しはじめたのだった。

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